「あら、まぁ…」
「これはこれは…」
二対の視線に晒されて、黄瀬は耐えきれず俯いた。
「大丈夫だよ、きーちゃん。すっごく可愛いよ!」
「びっくりするくらい違和感ないですね」
「…慰めになってないっス…」
追い詰められた黄瀬は黒子に助けを求め、事情を聞いた黒子は助っ人として桃井を召喚した。
女の子と化した黄瀬を見るなり、桃井は水を得た魚とばかりに活き活きと動き回る。
「じゃあとりあえず、体のサイズを測らせてね」
「では僕は外に出ていますね」
「え…あの、黒子っち?桃っち?」
黒子が外に出るなり、桃井は青峰以上の素早さで黄瀬の服を剥ぎ取った。
「きゃー!」
「なにこれ、すごい…!さすがはきーちゃん!モデル!」
ふふふ…と桃井は興奮しきった様子で手をわきわきさせた。
「じゃあこっちはどうなっているのかなー?」
「いやー!助けて黒子っちー!」


「…あの」
ドアの隙間から、黄瀬はおずおずと顔を出した。
「服を買ってきて貰っておいてなんなんスけど…」
躊躇いの間の後、ゆっくりとドアが開く。その姿に、黒子と桃井は息を飲んだ。
そんな二人の反応に気付くことなく、黄瀬は改めて自分の格好を認めて唇を尖らせる。
「…なんで、ミニスカ」
「すっっごい似合ってるよ!きーちゃん、脚キレー」
「青峰くんが見たら喜びそうですね」
何の気なしに溢した感想に、黄瀬は過剰に反応する。
黒子と桃井は、揃って目を瞬いた。
「えっと…青峰くんにはもう連絡したんだよね?」
二人が付き合っているということは、バスケ部レギュラー陣にとっては周知の事実だ。緊急事態に黄瀬がまず頼るであろう相手は、青峰に間違いなかった。
しかし黄瀬は、返答の代わりにじわりと瞳を潤ませた。
「…なにか、あったんですか?」
黒子がそっと背に触れたのが合図のように、黄瀬は二人に抱きついた。
「黒子っち、桃っちー!」
子供のように泣きじゃくる黄瀬を宥めながら、黒子と桃井は視線を交じらせる。
青峰の行動パターンなど、百も承知だ。なにがあったのかなんて、聞かずともなんとなく察知できてしまう。
二人の思いは、一つだった。
―――えろ峰、コロス。


風が微かな緑の薫りを運ぶ。
気持ち良く晴れた午後、青峰は教室ではなく学校の屋上にいた。
見事なまでの昼寝日和だ。しかし、青峰をここに導いたものは眠気ではなく、胸の奥にわだかまる悩みだった。別れると言った黄瀬の声が、表情が、ずっと青峰の心を重くさせる。
深い息で憂鬱を吐き出した、その時だった。
「なにしてんですか。アホ峰が」
衝撃は、脇腹への痛みと共に来た。
「っぐ…テツ、てめぇ…!」
青峰が上体を起こすと共に、脇腹に食い込んだ黒子の足が離れる。文句をぶつけるより先に、黒子は言った。
「黄瀬くん、泣いてましたよ」
青峰の怒りは一瞬で冷める。どころか、気分は一気に氷点下まで急落した。
「…あんなに傷付くなんて、思わなかったんだよ」
自然と声は、覇気を失った。
やれやれ、と黒子は青峰の隣に腰を降ろす。
「君たちは二人は言葉が足りないんですよ」
黒子に言われるのはなんだか癪だ。けれど今の青峰は、口を閉ざした。
「まずは謝って、ちゃんと話し合ってください。…と言っても君は謝らないんでしょうけれど」
さすがは相棒と言うべきか。黒子は青峰のことを良く分かっていた。
基本的に理不尽と横暴で構成されている青峰は、自ら謝るということをしない。
「君に一つ、言っておくことがあります」
黒子はしっかりと青峰を見据える。
「黄瀬くんは今―――」
続く言葉に、青峰を目を見開いた。


2013/8/13

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