緑間が恋を自覚したのは中学2年のときだった。
芽吹く新緑よりも眩しく笑う黄瀬から目が逸らせなくて、好きだという想いがすとんと自分の中に落ちた。
きっと、ずっと好きだった。
それは多分一目惚れに近く、一度自覚してしまえば想いは溢れて止まらなかった。
何度気持ちを伝えようとしたか分からない。
それでも、傍にすらいられなくなるかもしれないという恐怖が、緑間に二の足を踏ませた。
笑顔を見られるだけで良い。自分へのごまかしは、胸を焼く後悔へと繋がった。
忘れ物に気が付いて部室へと取って返した緑間は、見てしまった。人気のない体育館で、黄瀬と青峰が互いの体を強く抱くのを。二人の唇が近付いて、重なり合うその瞬間を。
確かに黄瀬は、分かりやすく青峰を特別視していた。青峰もまた、優しさを持って黄瀬と接していた。
だけどそれは恋ではないと、緑間は否定し続けた。認めたくなかった。
この恋の、結末を。


報われないことを理解して尚、緑間の恋に終わりは訪れなかった。
好きだという想いは薄れることなく、ずっと黄瀬を求め続けた。それは別々の学校へと進学し、医者として多忙な日々を過ごして、顔を合わせることが少なくなった今でも。ふとした時間の隙間に思い描くのは、いつまでも褪せることのない黄瀬の笑顔だった。
しかし、一途な想いを貫いているのは緑間だけではなかった。
黄瀬と青峰もまた、中学の頃からずっと互いだけを心に映し、寄り添い合って生きてきた。そこに、他者の入る余地などなかった。
―――不幸な事件など、起こらなければ。


断続的に濡れた音がする。
自身の足の間に顔を埋める黄瀬を見て、緑間は笑みを浮かべた。
椅子の背凭れに体重を預け、揺れる金の髪に手を伸ばす。黄瀬は束の間視線を上げたが、何も言うことはなくまた目を伏せると、目の前の雄を育てる作業に注力した。
あたたかな口内に包まれれば息が漏れる。ちろりと覗く赤い舌が艶かしい。
そこに跪くのが黄瀬だと思えば、与えられる刺激以上に高揚した。竿を手でしごかれたまま先端を吸い上げられれば、長く保ちそうにはなかった。
髪を撫でていた手に力がこもる。黄瀬が口を離せないよう固定したまま、緑間は口内に欲望を吐き出した。
「っん…!」
不意討ちで注ぎ込まれたものに黄瀬が眉を寄せる。それでも緑間が手を離さないでいると、やがてこくん、と咽下する音がした。
青ざめた頬を指でなぞり、緑間は次の指示を下す。
「来い」
のろのろと顔を上げた黄瀬は、腕を引かれるまま緑間の膝の上に乗り上げた。
「ぁ…」
逃げる間を与えずに口付ける。黄瀬の意思を示すかのように、そこは固く閉ざされたままだった。
唇をやわく食みながら、緑間は彼を呼ぶ。黄瀬。
「口を開けろ」
黄瀬は長い睫毛を震わせながら、それでも従順に口を開いた。
「…っん」
舌先が触れ合えば、黄瀬は肩を跳ねさせる。反射的に引く腰を逆に抱き寄せて、緑間は更に奥まで舌を差し入れた。
「んん、ぅ…ん」
目尻に溜まった雫が珠になる。苦しくても悲しくても黄瀬に選択肢など、ないのだ。
助けて、と黄瀬は言った。
―――「なんでもするから、青峰っちを助けて」
気が遠くなるほど長い間恋い焦がれ続けた存在がやっと、緑間の手の中に堕ちてきた。もう、躊躇わない。
二度と青峰の元に返してやるつもりは、なかった。


2013/6/20

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