『すぐ来て。お願い』
要件のみの端的なメールを貰い、青峰は黄瀬の家へと急いでいた。
何があったのか説明が無い以上に、絵文字も顔文字もないことに危機感を覚える。これは相当な緊急事態だ。
乱れた息を整える間も惜しく、インターホンを押す。躊躇うような間があって、少しだけドアが開いた。
「…青峰っち?」
隙間から聞こえた声は黄瀬のものに違いない。違いないのに、何か違う。
いよいよ現実味を帯びる異常事態に、青峰はドアに手をかけた。
「大丈夫か、黄瀬!」
押し開けたドアの向こうに見慣れた金色を見つける。
目立った異変は無い。ただ、珍しくだぼついた服を着ていると考えて、固まる。
違う。服が大きいのではない。
―――黄瀬が小さいのだ。
「…お前…」
不測の事態に言葉を無くす青峰を見上げて。
「どうしよう。青峰っち…」
小さな黄瀬は大きな目を潤ませた。


「……お前…」
黄瀬の部屋に入れて貰い、改めてその姿をまじまじと見る。黄瀬は居たたまれない様子で、甲まで白いシャツに覆われた手で己の体を抱いた。
うっすらと見える体のラインは細く、華奢と言っても良いほどだった。
痩せたのではない。若返ったわけでもない。この、円やかなラインが意味するものは。
「…女になってね?」
ビクリと肩を跳ねさせた黄瀬は、乾くことのない瞳を向けた。
「どうしよう、青峰っちー…」
言われてみれば声も高くなっている。どこも疑う余地のない、それは完璧な『女の子』だった。
「マジかよ。すげー」
「すごくないっス!朝起きたらこうなってて、俺ホントどうしたら良いか…」
黄瀬は本当に困っているのだろう。それは分かる。分かるけれども、青峰の関心は黄瀬の困り事よりも別の事に向いていた。
ベッドの上の黄瀬は体育座りでクッションを抱いている。立っている時は膝上の長さだった丈は際どい位置まで下がり、白い太ももを晒している。
黄瀬は今、シャツ一枚なんだろうか。そればかりが、気になる。
「…青峰っち、聞いてる?」
「なぁ黄瀬」
青峰は、真剣に黄瀬を見据えた。
「触って良いか?」
「バカー!」
ぼふ、と顔面にクッションがぶつかる。
「あんたの頭の中はそればっかりか!エロ峰!サイテー!」
罵詈雑言を並べ、黄瀬はきっと青峰を睨んだ。
「今の俺に手を出したら、別れるから」
「は?なんでだよ?」
黄瀬と青峰は恋人として、あんなことからこんなことまでしまくった仲だ。手出し禁止なんて、今更すぎる。
「なんでも!…いいから真面目に考えてよ…」
文句をたらしながら黄瀬は投げつけたクッションを回収しようと屈む。
今の黄瀬には大きすぎるシャツは、一番上までボタンを留めても鎖骨を隠すことすらできていなかった。そんな服で屈めば当然、服の間から肌がちらつく。
本来あるはずのない谷間が見え、さらに滑らかな山の頂点に薄い桃色が見え隠れした瞬間。
青峰は自分の理性の糸が切れる音を聞いた。


2013/7/21

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