「う、あ…!」
中に収めていたものを引き抜くと、黄瀬は掠れた叫び声をあげた。蓋を失ったそこはトロリと白濁を溢れさせ、シーツにシミを作る。
―――何回出したっけ。
青峰は熱に浮かされた頭で数えようとして、やめた。3回目あたりから記憶が朧気だ。
異国の地で、環境に慣れるのに必死で、自己処理すらほとんどしていなかったとはいえ、これは文字通りやりすぎた。
尽きることなく黄瀬の中から伝う体液に罪悪感が湧く。一旦、中のものを出してやった方がいいだろう。
青峰はどろどろになったそこに、指を潜らせた。
「ッは、あ…!」
途端に黄瀬が引き吊った声を漏らす。
忙しなく浅い呼吸を繰り返す口元は飲み込みきれなかった唾液で濡れて、散々に泣かされた顔はぐしゃぐしゃだ。
それでも黄瀬は、綺麗だった。眉を寄せて細めた目からまた涙を落とす、壮絶な色気にゾクリとした。
「やだ、ぁ…っ」
拒否の言葉を吐くくせに、指を少し動かすだけで、中は切なげに締め付けてくる。薄桃色に染まった肌は、食べてくれと言わんばかりに匂い立つ。
せりあがる欲望に衝き動かされて、青峰は指を抜くと黄瀬の足を大きく割り開いた。
「や…待って…!」
黄瀬の瞳に怯えが走る。でも、止められない。
青峰は、出したばかりだというのにすっかり形を変えた雄を、黄瀬に突き立てた。
「ァッ―――!」
酷使された喉では、ろくに悲鳴をあげることも叶わない。背を反らしてヒクヒクと震える体を押さえつけて、青峰は強引に奥まで進めた。
「あ、ゃ…っ」
イイとこを掠めたらしく、黄瀬が弱々しく首を振る。シーツに金糸が散って、ぱさりと音を立てる。それにすら、欲情する。
滅茶苦茶にしてやりたいという衝動を薄氷一枚の理性で支えて、青峰は殊更ゆっくりと行為を進めた。
焦らすようなペースで引き抜いて、また奥まで穿つ。そんなことを何度か繰り返していると、喘ぎ声混じりの切羽詰まった呼吸が止まった。
黄瀬は息を詰めて身を竦めて、緩く立ち上がったものからほぼ透明の精液を放つ。青峰に付き合わされて何度も達した黄瀬の腹部は、乾いたところを探すのが困難なほどに濡れている。
「…黄瀬」
ぐったりとベッドに沈み込んだ黄瀬は、呼び掛けに応えてうっすらと目を開いた。
「大丈夫か?」
「…ん」
涙を湛えて揺らめく金瞳は、ちゃんと青峰を映しているのかも危うい。剥き出しの胸に手を置けば、激しい鼓動を感じる。
無理をさせているのは百も承知だ。それでも、黄瀬の声に、表情に、体温に、底なしに飢えて仕方ない。
「…ワリ、動くぞ」
「や…!」
もう、優しくしてやれそうもない。ならばせめて早く終わらせてやろうと、肌を打つ音がするほどに何度も何度も抜き差しを繰り返す。
「っあ…も、やだ…ぁ!」
黄瀬は揺さぶられ、泣きじゃくりながら何度も「嫌だ」と口にする。なのに黄瀬の手は決して青峰を押しやることなく、逆に離すまいとしがみつく。その必死な様に、青峰は動きを止めた。
「…黄瀬?」
理性などとっくに吹き飛ばされて、快楽の波に翻弄されるだけの黄瀬は、青峰を見つめながら生理的じゃない涙を流す。その口は、壊れたレコードみたいに同じ言葉を繰り返す。やだ。
「もう…」

―――離れるのは、嫌だ。

かいま見えた黄瀬の本音に、息が出来なくなる。心臓を握り締められたかのように、胸が痛い。
「黄瀬…!」
骨が軋むくらい抱き締めたって、全然足りなかった。苦しいくらい、泣きそうなくらい、
黄瀬のことが好きで好きで、仕方ない。


気を失うように眠った黄瀬は、翌朝にはまたツンツンした黄瀬に戻っていた。
「じゃあ、行ってくるわ」
搭乗ゲートの前で振り返って別れを告げる。
「ん、行ってらっしゃい」
つかの間の帰国を終え、青峰はアメリカに帰る。次はいつ会えるかなんて分からない。気軽に「またね」なんて言えた頃とは訳が違うというのに、黄瀬は感情を見せることなく淡々と頷いた。
24時間前の青峰なら、不満に口を尖らせていただろう。でも今は違う。今は、黄瀬の本音を知っている。
「なぁ」
青峰は、黄瀬の輪郭にかかる髪に指先を絡めた。
「お前も来るか?」
突然の申し出に黄瀬は目を丸くする。それから、ゆったりと微笑んだ。
「…行かないよ。俺もこっちで、やりたいことがあるから」
なんとなく、黄瀬はそう言うだろうと思っていた。
「…そっか」
だから青峰はそれ以上言い募ることなく、手を離して背を向けた。もう、振り返ることはなかった。
離れることを寂しいと思う。けれど、不安は無い。
どんなに離れたって心まで離れるわけではないと、今なら胸を張って言える。


fin 2015/1/14

『最中の、トんでいる状態のときだけ本音を言う黄瀬』でシリーズを書こうとした名残。
次回、本音を言わせたい青峰さんと、会うたびにコトに及ぼうとする青峰さんに不信感を抱く黄瀬の話になります!嘘です!

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