一世一代の告白だった。
試合後のように心臓が騒ぐ。倒れそうな緊張感の中、相手が寄越したのは値踏みするような視線と、
「…まぁ、いいっスよ。じゃあしようか」
そんな、不可解な言葉だった。



それは、
体温を分かつような



先ほどまでとは違った意味で、速度を増した鼓動を感じる。
「…するって、なにを?」
「セックス」
恐る恐る問えば平然と、とんでもない答えが返ってくる。火神は痛み始めた頭を押さえた。
「…なんでそうなるんだよ…」
「なんでって…」
瞬く黄瀬はいっそ無垢なくらいで、俗物的な物言いは似合わない。それなのに。
「火神は、俺のことが好きなんスよね?」
それは間違いない。強く頷く。
「俺もまぁ、火神は体つきも悪くないし、付き合っても良いと思ってる」
なにか引っ掛かるものを感じつつ、再度頷く。
「だから、セックス」
「なんでだよ!」
当然頷けるはずがなく、心からの疑問を叫ぶ。
一体いくつステップを飛ばすつもりなのか。付き合ってすぐに一線を越えるなんて、大人の階段をかけ降りるどころか転げ落ちている。
頭に手を当てたまま、火神は控え目に申し出た。
「そういうんじゃなくて、普通に付き合って欲しいんだけど…」
「普通じゃないスか」
からかっているわけじゃない。黄瀬は真顔で冗談みたいなことを言うから。
火神は文字通り、絶句した。


なんだかんだ言ったって火神だって男だ。気持ち良いことが嫌いなわけがないのだ。
火神の部屋に招かれた黄瀬は、勝ち誇るような気持ちでベッドの上に座っていた。
食事をして、シャワーを浴びて、体を重ねる。何も特別なことはない。飽きるほどに繰り返された、ありふれた行為だ。
火神は付き合ってからの期間を気にしていたけれど、それが何の意味を持つというのだろう。長いも短いも関係ない。どんな道筋を辿ろうと、行き着く先は結局同じなのだ。
閉開音にドアを向けば、風呂あがりの火神が寝室に入ってくる。ベッドへと、黄瀬へと近付く火神に、黄瀬は笑いかけてやった。
「…好きだ」
使い古された安っぽい言葉を吐く唇を引き寄せる。言葉なんて曖昧なものより、もっと確かなものが欲しい。
初めてのキスは触れるだけ。深くする間もなく離れた火神は、なんの前触れもなく黄瀬を抱くと、そのまま勢いよく体を倒した。
「っいきなり何…!」
「おやすみ」
両腕でしっかり抱き締められ、額に優しいキスが落ちる。
「え…」
挨拶のままに火神は目を閉じる。
今度は黄瀬が絶句する番だった。


2013/4/18

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