黄瀬の恋人は世界一男前だ。
「君が好きです」
空色の瞳は、臆することなくこちらを見つめる。
確かに黒子のことは大好きだったけれど、それはあくまでも友情の範囲内で、恋愛対象として見たことはなかった。けれど。
「結婚を前提にお付き合いしてくれませんか」
あまりにも堂々とした愛の告白…を通り越した求婚に、黄瀬は一瞬で恋に落ちたのだった。


妄想ハニー


黒子は淡白そうだから進展には時間がかかるだろう。黄瀬の予想に反して、二人の関係は順調過ぎるほどだった。
手を繋ぐ、抱きつくくらいのことは付き合う前から日常茶飯事だったし、キスは、晴れて恋人同士となったその日のうちに済ました。このペースなら二人が一つになれる日もそう遠くないと思いきや、ここからが果てしなく長かった。
黒子は断じて黄瀬に手を出そうとはしなかった。一人暮らしの黄瀬の部屋に泊まりに来て、同じベッドで寄り添ってみても。やらしい格好で誘惑してみても、黒子が黄瀬の誘いに乗ってくることはなかった。
「黒子っちとエッチがしたいっス」
追い詰められた黄瀬はオブラートなど破り捨て、ストレート過ぎるお誘いに出た。
対する答えは、黄瀬の豪速球に更に回転を加えた、殺人級のイグナイトパスだった。
「婚前交渉はダメです」


成長途中の子供の体で、そういうことをしてはいけない。愛しているからこそ、大切にしたいのだ。
完全無欠な正論をぶつけられてしまえば、黄瀬は引き下がる他なかった。
けれども、溜まるものは溜まる。まだまだ好奇心旺盛な高校1年生なのだ。結婚できるようになるにはあと2年もある。
「黒子っち…」
欲求不満な体を自室のベッドに横たえて、黄瀬は目を閉じた。瞼の裏に、色んな黒子を思い描く。
試合中の凛々しい姿。時々見せる、はにかんだ笑顔。愛を囁く、真剣な瞳。
「…っ」
若い体は、いとも容易く熱を灯す。黄瀬は熱い息を吐いて、己の体に手を這わした。
―――「黄瀬くん…」
黒子の声を思い起こして、触れられることを想像する。それだけで、胸の尖りはぷくりと立ち上がった。
「…黒子っち…っ」
ここにはいない恋人の名前を呼んで、服の下に手を差し入れる。
実際に黒子がくれる接触は、「手を繋ぐ」くらいのものだ。だからこそ、黄瀬はたくさん想像する。黒子はどんな風に自分の体に触れるのか。どんな熱さで、自分を掻き乱すのか。
「っぁ…」
妄想が膨らむほど、体の疼きも大きくなる。黄瀬は部屋着のスウェットと下着を膝まで下ろすと立ち上がった自身に手を伸ばした。
「ん……は…っ」
先端を親指で撫でるようにして竿を扱けば、とろりと先走りが溢れ出る。黄瀬は粘液を絡めた指を、後孔へと遣った。
指先からゆっくりと中に沈める。目はきつく閉ざしたまま、心は黒子を映したままで。
「ぁ…くろこっち…!」
自分の手に黒子の手を重ねて、犯される姿を思い描く。体は確かに昂っている。快楽は絶え間なく黄瀬を襲う。けれど、イケない。
「ぅ、ん……は…っ」
抜き差しを繰り返しながら、前も弄る。性器はどろどろに濡れている。それでもまだ、足りない。
じわりと汗が浮かぶ。イキたいのにイケない苦しみに、涙が滲む。
―――黒子っち。
助けを求めるように、ただ一つの名前にすがる。空色の視線を強く感じたとき、ようやく絶頂の波が訪れた。
「―――っぁ…!」
びくびくと精を吐き出し、黄瀬はくたりとベッドに沈む。試合後のように、心臓はうるさく暴れている。
出すものを出せば体は軽くなる。けれど反対に心は重くなる。大好きな恋人がいるのに、自分で自分を慰めることしか出来ない。
頭の中の黒子に触れられることを、どこか冷めた目で見ている自分がいた。


2014/3/18

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