背中は語る(青黄)
そよそよと風が顔を撫でる。背中はちょっと痛いけれど、冷たくて気持ち良い。
「ちょっと大ちゃん!いつまで寝てるつもり!?」
「…うっせーよ。床と一体化しようとしてんだから邪魔すんな…」
傍らで桃井がぎゃーぎゃー喚いているが、青峰は瞼を上げることすら億劫だった。
「もう、知らない!大ちゃんなんか、フローリングで擬態していれば良い!」
斬新な捨て台詞を吐いて桃井が去れば、部屋には柔らかく流れる風の音だけが残る。
10秒以内に眠れそうだ。青峰が睡魔にその身を明け渡そうとしたとき、頭上でけたたましく携帯が鳴った。
「…っち」
メールの着信だったらしいそれは数秒で鳴り止んだが、すっかり目は覚めてしまった。
空気が読めない呼び出し相手に苛立ちつつ、携帯を手繰り寄せる。内容だけ確認してすぐに寝直そうとメールを開いた青峰は、瞬間がばりと起き上がった。


本日の黄瀬の起床時刻、8時。朝食を取って部屋の掃除をして、せっかくだから出掛けようと思い立ったのが10時。間違いなくまだ寝ているであろう青峰に、迷いつつお誘いのメールを送ったのが10時半。
そして11時。待ち合わせ時間からさほど遅れることもなく、黄瀬のメールに即レスを返した男は駅前へと現れた。
「…めっずらしー。こんな時間に起きてたんスか?」
「は、とっくだっつーの。じゃなきゃ30分でここまで来れねぇよ」
青峰はさも余裕ですとばかりに笑うが、彼が放っておけば半日以上寝続ける自堕落人間だということを黄瀬は良く知っている。
「行くぞ」
たまにはこういうこともあるのかと、感動にも似た気持ちで青峰についていこうとした黄瀬は、その後ろ姿に足を止めた。
「黄瀬?」
「っ、なんでもないっス」
訝しげに呼ばれて慌てて青峰の横に並ぶ。それでもこみあげてくるくすぐったい気持ちは堪えきれず、黄瀬は気付かれないようにこっそりと笑った。
さて、盛大に寝癖がついた後ろ髪は、いつ指摘してやろうか。


fin 2014/7/1

課題『自堕落青峰さんをメール一本で呼び出す黄瀬の話』


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