一般市民が旅に同行する意義を考察した結果 02(ノクプロ·イグプロ)R18
泊まっていくといい、というイグニスさんの誘いに、俺は二つ返事で頷いた。今夜はクリアしたばかりのゲームについて、目一杯語り明かすつもりだ。
戦闘システムがああだ、ストーリーがこうだと意見を交わしている内に、あっという間に時間は過ぎていった。
「…ふあ」
「ノクト、眠い?あーもうこんな時間か」
時計を確認した俺は、もう日付が変わろうとしていることを知る。そりゃああくびも出るだろう。
「今日はもう寝よっか」
正直語り足りない部分はあるけれど、嬉しいことに明日は休日だ。時間はまだたっぷりある。
続きは明日にして、俺は寝るための準備を始める。今日のベッドになるソファーに毛布を運ぼうとしたら、ノクトが不意に俺の腕を掴んだ。
「ノクト?」
「そっちじゃなくてこっち」
ぐいぐい引っ張られて俺は寝室まで来る。そこにあるロイヤルなベッドを前に、俺は目を瞬いた。
「今日はノクトがソファーで寝るの?」
「なんでだよ。一緒に寝るに決まってんだろ」
「決まってるの!?」
王様サイズのベッドは、寝転がった俺が一回転…いや、二回転は出来そうなくらいに広い。けれど広さなんか問題じゃなくて、そこがノクトのベッドだということが、俺にとっての大問題だった。
二の足を踏む俺に、ノクトは強行手段に出る。
「わぁ!」
勢いよく背中を押されて、俺はベッドに倒れ込んだ。訪れるはずの衝撃は優秀なマットレスに吸収されて、これがロイヤルかと、妙なところで感心する。
「ブフ」
いささか乱暴に、頭から布団を被される。もがいて布団から顔を出した時にはもう、部屋の明かりは落とされていた。
「プロンプト」
名前を呼ばれて横を向いた俺は、ドキリとした。絞られたナイトテーブルのライトがノクトを照らしている。夜でも青空みたいに澄んだ瞳が、まっすぐに俺を見つめている。
やりすぎなくらい良い雰囲気に、俺は居たたまれなくなった。
「お、おやすみ!」
これ以上ノクトを見ていられなくて、無理やりに目を閉じる。でも安らかな眠りは、当分訪れそうにない。落ち着くために深く息を吸ってみたけれど、それは完全に逆効果だった。
ノクトの匂いがする。
悶々は増大するばかりで収拾のつかなくなった俺を止めたものは、ちゅ、という軽い音と唇に触れた柔らかい何かだった。
「え…?」
びっくりして目を開けてしまう。
さっきよりも近くにノクトがいる。いやもうこれは近いとかいうレベルじゃない。顔と顔は数センチしか離れていない。更にノクトは、その数センチすらもゼロにしようと顔を寄せてくる。
「ま、待って待って!」
慌てる俺は、二人の間に手を差し入れた。
「なに、ノクト?え?なに?」
「なにって、キスに決まってんだろ」
「決まってんの!?」
なんでキスすんの、とか当然出るべき問いは、俺の喉元で消えた。それはノクトが強引に俺の手を押しやって、唇を重ねたせいだ。
「んぐ…!」
勢い余ってちょっと歯がぶつかる。じん、と広がった痛みに、これが夢じゃないことを知る。
夢じゃないならなんで、ノクトは俺とキスしているんだろう?
掴んでいた手をベッドに押し付けて、ノクトは俺にのし掛かる。上からまた、深いキスがある。
「ん、ぅ…」
ノクトに唇を舐められて、ゾクリとする。なんで、と問う気持ちはだんだん薄れていく。
ノクトとのキスなんて、想像することすら悪いと思っていた。嬉しい。もっとして欲しい。正直な欲求には逆らうことが出来ずに、俺は引き結んでいた唇をほどいた。
「ん…!」
ノクトの舌が口の中に入ってくる。
俺にとってはこれがファーストキスで、多分ノクトも似たようなものだから、テクニックもなにも無いんだけれど、舌と舌が触れ合うだけで息があがるくらいに興奮する。
苦しくなるまでキスをしてからノクトが離れる。濡れた唇が生々しくて、いやらしい。衝撃と余韻にぼんやりしていると、ノクトはバッと俺の上着をたくしあげた。
「ひゃ…!」
直に胸に触られて、思わず変な声が出る。
「ま、待って、ノクト、待って…!」
服を脱がした。ということはやっぱり、そういうことなんだろうか。
「…エッチ、するの…?」
真っ赤になりながら問えば、ノクトはさも当たり前みたいな顔をして、逆に問いを返した。
「嫌か?」
その2択はずるい。ノクトは俺がどんだけ恋い焦がれているのか知っているんだろうか。ノクトにされて嫌なことなんて、あるわけがない。
俺が小さく首を振ると、ノクトは止めていた動きを再開した。無い胸を揉まれて、なんだか申し訳なくなる。
「ん…」
先端の飾りを摘ままれるのはちょっと痛くてすごく恥ずかしい。でも俺はノクトを止めはしないで、ただ変な声を出してしまいそうな口を手で覆った。散々に弄られたそこがぷっくりと赤くなって、ようやくノクトは満足したらしい。ふう、と息を吐いたノクトは上体を起こし、そして部屋着にしていた俺のズボンを下着ごと一気に引き抜いた。
「うっひゃあ!」
「こら、足閉じんな」
「だって…!」
こんなの恥ずかしすぎる。
男同士の場合、どこに突っ込むことになるのかくらいは、一応知ってる。でもいざ自分でも見たことがない所をノクトに晒すのかと思うと、ちょっと耐えられそうになかった。
有り体に言えば、覚悟が足りていなかったんだろう。
「ごめん、ノクト。やっぱり今日は…」
やめよう、と言う前にノクトは身体を離す。やけに聞き分けがいいな、なんて思ったのは、勘違いだった。
ノクトはナイトテーブルの引き出しを漁ると、手のひらサイズのボトルと小箱を取り出す。それがローションとコンドームだと気付いて、俺は絶句した。
なんでそんなに準備がいいんだと、問う余裕は貰えなかった。ノクトは、力尽くで俺の膝を割ったのだ。
「ノク…!」
お尻にひんやりしたローションが落ちてきて、俺は小さく震える。息を継ぐ間もなくずぷりと指を埋め込まれれば、もう声も出なかった。
「…ぁ…ッ」
ローションをまとった指は、俺の意思に関わらず身体の奥まで入り込む。思っていたよりも痛みはないけれど、苦しい。すがるように俺は、ノクトの腕を掴んだ。
「…待っ、て、ノクト…あ…!」
今夜のノクトは本当に話を聞いてくれない。ぐちぐちと指を動かされて、じんわりと涙が滲んだ。
苦しくて、気持ち悪い。エッチって、こんなものなんだろうか。
「は…」
異物でしかなかった指が出ていって、俺は安堵の息を吐く。でもこれで終わりじゃない。それどころか今感じた苦痛なんか序の口でしかなかったと、俺はすぐに思い知らされることになった。
足元で何やらごそごそしているノクトに目を遣った俺は、今まさにコンドームを被せられているノクトのそれを目にした。平均から大きく外れている訳ではないけれど上を向くほど勃起したそれは太くて、大きい。
俺はごくりと生唾を飲んだ。もちろん、興奮したからではない。恐ろしくなったからだ。あんなもの、入るわけが、ない。
「ひ…」
引いた腰はあっさりと捕まる。脚を持ち上げられて、おざなりに慣らされただけのそこにノクト自身が宛がわれる。
スムーズにいくはずがない挿入は、ねじ込むという表現がふさわしかった。
「あア…ッ!」
身を引き裂くような、経験したことのない痛みが襲う。
「きっつ…」
ノクトも辛そうに眉を寄せるけれど、思いやるゆとりなんてあるはずがない。ズキズキと鼓動に合わせて結合部が痛む。血が出ているんじゃないかと思ったら、怖くて仕方なくなった。
「ノク、…ノクト…!」
助けて欲しくてノクトにしがみつく。ノクトは俺の頭を撫でてくれたけれど、優しいのはそこまでだった。
「うあ、ア…!」
ずん、と突き上げられて目の前がチカチカする。腰を引いてはまた奥まで押し入れるノクトの動きはだんだんと速度を増す。
「は、ァ…うあ…!」
揺さぶられながら俺は、ぽろぽろと涙を溢した。
悲しい。好きな人に抱かれているというのに、一方的になってしまうことが悲しい。
ノクトが俺の意思を無視するからじゃない。求めてくれるのにちゃんと応えられないことが、悲しくて仕方ない。
必死に腕を伸ばして抱き締めれば、ノクトは抱き返してくれる。痛くて苦しくてちっとも気持ちよくないけれど、それだけで幸せで。
ノクトが達するまでの間、俺はその体温だけを感じていた。
「くっ…」
ノクトが息を詰めて、薄いゴム越しに精を吐く。息だけはお互い同じくらい荒くて、愛しさが込み上げてくる。
キスしようと顔を寄せた俺をノクトはーーー拒んだ。
身体ごと引き剥がされて体内に埋まっていたものが抜かれて、ビリッと走った痛みに俺は呻いた。痛いのはお尻のはずだった。でも手早くゴムを処理したノクトがベッドに横になるのを見たら、そこよりも胸の方が強い痛みを訴える。
「ねぇ、ノクト…」
呼び掛けは情けないほどに震える。ノクトは面倒くさそうに瞼を少しだけ持ち上げる。
「…ノクトはなんで俺と…え、エッチしようと思ったの…?」
今さらながら恐怖にも似た後悔が押し寄せてくる。自分は、とんでもないことをしてしまったのではないか。
「イグニス、が…」
とうとう目を閉じてしまったノクトは、眠りに落ちる寸前の声で答えを返す。
「抱いてもいいって、言った、から…」
「え…?」
どういうことなのか、問い質したくとも眠りに落ちたノクトはもうなにも聞いてはくれない。俺の頭の中ではつい数時間前のイグニスさんの台詞がぐるぐると回っていた。
『君がノクトを好きになってくれて良かった』
あれは、どういう意味だった?ぞくりと走った悪寒に、俺は己の身体を抱いた。
嫌だ。なにも考えたくない。
広すぎるベッドの上で身を縮めて、きつく目を閉じたままで俺は朝を待った。