こればかりは胸を張って宣言出来る。俺は弟たちを愛している。この世の誰よりも弟ふたりのことを愛しているし、この愛は他のどの人間がふたりに向ける愛よりも深いものだと確信している。ふたりのためならば俺は何だってしてやりたいと思うし、何だって出来ると思う。っていうかするし。無理矢理にでもするし。誰にも疑われることのない精一杯の愛情をこめて、俺は今までふたりを育ててきた。両親がいない分、何一つ不自由なくというわけにはいかなかったが、極力ふたりの願いが叶うように努めてきたつもりだ。お陰様でふたりはすくすくと育ち、そしてこうして18歳の誕生日を迎えるにあたったわけだ。姉ちゃんちょっぴり感動しちまったよ、もうおまえらも結婚出来る年齢になっちゃったわけか。そう思うと、これからは姉離れをしていくばかりであることを否が応でも実感してしまい、ほんの少しばかり淋しい気分になったりもする。兎も角。
 変に家に繋ぎ止め過ぎて嫌われちまったら元も子もないからな、だから俺はもしふたりがいざ恋人を家に連れてきた時には、俺たち結婚しますと言い出した時には、温かく受け入れてやれるようにしようと思っている。しかしそれ以前にだ、ふたりに恋人が出来るのかどうかが心配であったりする。いいさ、俺はふたりの交友関係には口は出せないし、自慢の弟たちならばきっと自分に見合った女の子たちを連れてきてくれると信じている。だが、どんなにいい子たちが相手だったとしても、ひとつだけ俺が干渉しなければならないことがあると思うのだ。それは弟たちの、「初めて」についてだ。いったいあの子たちがどういった女の子を性交渉の相手に選ぶのかはわからないが、だとしても結局はどこの馬の骨とも知れないような女たちにあの子たちの初体験を委ねることには賛成出来なかった。だからこそ、ちょっと差し出がましいかなとは思うけれど、あの子たちの初めてばかりは俺がもらうことに決めた。俺が初めての相手ならあの子たちも「上手くやろう」とかって別段気負う必要もないしさ、それに1回くらいは中出しの気持ちよさを体験してほしいと思うじゃないか。俺の中にだったら別に出してもらっても、すぐに避妊薬を飲むことも出来るし、処理は慣れてるし、大丈夫だ。これこそ、姉としてしてやれる最後のプレゼントじゃないか?ああでも、流石に精通を終えたばかりのお子様には早かったみたいだな。この考えを固めてからすぐに覇王が精通を迎えたものだから、喜んで調子に乗って相手をしてやったんだけど、あまりに気持ちよすぎて失神されちまった。挙句、目覚めた覇王には「この売女が」だの「悪魔め」だのと雑言罵詈を吐き捨てられるし、その後2週間ほどまともに口を利いてもらえなくなるし、姉ちゃんリアルに凹んじまったよ。多分、中学生っていう年頃の男の子にはまだ刺激が強すぎたんだ。後に親友のヨハンに初体験が何時だったか訊ねてみたんだけど、そうしたら顔を真っ赤にしながら高校2年の時だったって教えてくれたから、そういうことなんだと思う。普通、男の子の初めては高校生の時。俺はしっかりと学んだ。だからこそ、双子の兄の十代の初めては、彼が18歳になった時にもらうことに決めたのだ。今度こそ間違えない。大学生になる前に、初体験は済ませておいてあげないと。
 折角の誕生日だというのにまだ十代には一緒に過ごしてくれる彼女はいないらしい。彼女がいないんだったら家族を優先させてくれよな、ということで他の友人たちの誘いをわざわざ断ってもらってまで付き合ってもらった先は、とあるホテルの高級レストランだった。2ヶ月ほど前から予約を入れておいたそこは俺のお客のオジサンたちの一押しのレストランで、メディア的にも有名なフランス料理のフルコースを味わえるということだった。自由奔放な十代には多少申し訳ないと思いつつも今回はスーツを着てもらい、俺は質素なドレスを身に纏い、いかにもといった服装でそちらに向かった。十代は最初緊張でガチガチに固まっていたが、通された先がプライベートルームであったことと俺が楽にしていいと声をかけたこともあり、いざ食事をし始めた時にはいつもの自然体に戻っていた。笑顔で、今日一日の間に色々な人物からおめでとうの言葉をもらったり誕生日プレゼントをもらったりしたこと、その中でも友人の女の子が作って持ってきてくれたケーキが美味しかったこと、他愛のない話を語る十代に俺も笑顔で相槌を打つ。いつまで経ってもあどけない、18になっても十代は男性らしい所作を身につけることはなく、少年のように無邪気に振舞っていた。そんなこの子も、今日で大人への階段の一歩目を上る。その記念すべき日を祝ってあげられることを俺は心底より誇らしく思う。気分が頗るよかったので、好奇心に満ち溢れた瞳で俺のグラスを見つめてきていた十代に少しだけ赤ワインを飲ませてやり、俺はその数倍の酒を呷り、楽しいひと時を過ごした。
 そして食事が終わった後。いよいよこの時がやってきた。俺はホテルの一室へと十代を誘った。不思議そうにしている十代に、今日はここに泊まる、と告げると彼は元々大きな瞳を更に真ん丸く見開いた。鈍感な十代にも流石にこの流れがどこかおかしいものであることは伝わったのだろう、でも十代のことだからホテルで俺が何をしようとしているのかはわかっていないのだろうな。可愛らしい、天使のような俺の弟。その弟を俺がひとりの男へと育て上げる。そう思っただけで、あらゆる蜜事に慣れ切った俺の子宮はきゅうんと疼いた。さぁて、どんな風に可愛がってあげようか。初めての夜なのだから、印象に残るような、素敵な夜にしてあげたい。他の男相手には決してしないが、今日は特別に口淫もしよう。他ならない可愛い弟のためだ、今後のために彼に見えるようにして自慰をしてみせるのもいいかも知れない。女のそこがどうなっているのかがわかれば、必然的にどうすれば気持ちよくさせてあげられるのかもわかるだろう。様々な体位を試そう。十代が一番感じる体位はどれだろうか。やはり正常位?いやでも、初めてで震えて戸惑うであろう十代も対面座位ならば安心するんじゃないか?騎乗位で苛めてやったらどういった反応を示すだろうか。妄想は膨らむ一方だ。どちらにしても、俺の技量なら間違いなく十代を満足させてあげられる。百戦錬磨の女王様の実力を見せてやるさ!
 そう、意気込んでいたというのに。

「えっ?もしかして、姉ちゃん抱いてほしいの?」
 風呂にも入り終え、準備万端といった状態でベッドに腰掛けて手持無沙汰にしていた十代に抱きついた途端放たれたその一言に、俺の身体は固まった。
 は?今この子は何て言った?ちょっと姉ちゃん聞こえなかったんだけど。
「なーんだそうだったのか!だから今日はホテルに泊まるんだな。そうだよな、家だったら覇王に見られちゃうかも知れないもんな!」
 にこにこと微笑みながら十代は俺の肩に手をかけた。そして、呆気に取られて十代の顔を凝視し続けていた俺を、何の違和感もない手つきで、ベッドへと押し倒したのだ。掌がバスローブの袷から内側へと入り込んでくる。優しい手つきで皮膚をなぞられて、背筋にぞぞぞと悪寒じみたものが走る。えっちょっと待ってくれよ。これいったいどういうこと?
「優しくするな?それとも激しい方がいい?」
 思わず制止を請うように彼の腕をぎゅっと掴むと、十代はフッと微笑み、徐に俺の口にキスを落としてきた。これがまた、触れるような可愛らしいものではなく、最初からがっつりディープなものだったから俺は驚いてしまった。しかも、上手い。ずるりと十代の舌が俺の咥内に入り込み、柔らかい部分を吸いつくしていくのだ。歯茎をざらりとした舌が撫でて、下唇を強請るように吸われる。ぐちゅぐちゅと音を立てて掻き混ぜられる唾液が喉の奥へと落ちてくる。俺は戸惑いながら十代のキスを受け入れ、翻弄され、最終的には彼の愛撫に屈服してしまった。どこでこんな手管を学んできたのだ、この子は。というか、というか、こんなキスをする男が「初めて」であるはずがない。間違いなかった。十代は童貞などではない。俺は全身を脱力させ、ぜえぜえと荒い息を吐きながら細い声で問いかけた。おまえ、初めてじゃないのか、と。すると十代はきょとんとした顔をして、それから満面の笑みで頷いてくれた。
「彼女は別に欲しくないから要らないんだけど、それでもいいからーっていう子がなんか多くてさ。それで、そーだなー、うーんと、…色んな子と結構いっぱいシたぜ!」
 衝撃の新事実発覚とはこのことである。姉ちゃん驚き過ぎて二の句が継げないぜ。まさか、この純朴で可愛らしい天使のような弟が、そんな、とんでもない誑しだったなんて、誰が想像出来よう。しかも家ではまったくそんな素振りは見せずに、帰ってきたら一言目は「今日の夕飯なにー?」だし、部屋にエロ本があるというわけでもないし、22時を過ぎたら自動的に電源をオフにしてぐっすり眠りについているような子が。いったい何時からなのだ。何時から、そんなことになった。俺、まったく、何も知らなかったんだけど。
「1番最初?うーーんと、確か中学2年の時かなあ?その時の先生がさ、気持ちいいこと教えてあげるって言って教えてくれたんだ」
 ちょっと教育委員会何してるんだよ!誰だよその猥褻教師!俺の十代の初めてを奪いやがって!しかも、中学2年っていったら、覇王とまったく同時期じゃねえか!なんということだ。そんなどこの誰とも知らないような老けたオバサンにさせるくらいだったら、十代のも俺が奪っておけばよかった。幾ら後悔しても遅い、何故なら時間は巻き戻せないのだから。
 兎に角、十代が初めてではないというのなら話は別だ。別に俺が相手をする必要は無いじゃないか。そう思ってみたものの、これもまた時既に遅しというやつだった。十代は豪快にバスローブを脱ぎ放つと、動揺して動けずにいる俺を改めて組み敷いた。にこり、と微笑む様は、やはり天使のようにしか見えないのに。「姉ちゃんはマゾだって覇王が言ってたから、きっと痛い方がいいんだよな!」などと、とんでもないことを口にしている。
「いや、俺は、」
「痕、残してもいいよな?」
 言いながら首筋に噛みついてくる。犬歯が柔らかい喉に突き刺さって、痛みが走る。悲鳴を上げそうになって、ぐっと押し殺す。十代は片手で俺のバスローブを脱がしながら、噛みついた首筋をべろりと舐めあげ、そのまま唇を上半身の上に滑らせた。鎖骨を吸われ、今度は乳房に噛みつかれる。こんなことをされては、たまらない。俺は口端から馬鹿みたいに嬌声を垂れ流しながら十代の頭を掻き抱いた。乳房の付け根にキスマークをつけられ、乳首を力一杯吸われる。とどめとばかりに突端に歯を立てられて、下半身がびくんと痙攣した。十代の表情は見えない。ただ、無遠慮に彼の細い指が股の間を割り開き、恐らく3本纏めて突き入れられた。瞬間、俺の身体は早々にして一度目の絶頂を迎えてしまったのだった。
「イった?」
 顔を上げた十代が可愛らしく小首を傾げながら尋ねてくる。こくこくと何度も縦に首を振って答えれば、にこりとしながら「えーっと、ビンカンなんだな。こういうの何て言うんだっけ、インラン?だっけ?姉ちゃんはインランなのか?」これまたとんでもないことを言う。正直、俺は泣きたかった。大切に大切に育て上げてきた大事な弟が、淫乱だなんて言葉を、俺に向かって吐くだなんて。しかし情事に慣れきってしまった身体は俺の意思とは反して、無邪気に吐かれた罵り言葉を受けて無条件にときめいてしまうのだった。指を飲み込んだまま、キュ、と収縮した膣口を見やって、十代は晴れやかに笑った。
「なんか、姉ちゃんかわいい!」
 おまえの方がかわいいよ!という言葉を吐くよりも前にくちづけられた。嗚呼、嗚呼、駄目だ、そんな激しいキスには、堪えられない。俺はぞくぞくと背筋をひた走る快感にとうとう理性を手放すことを決断し、可愛らしく無邪気でありながらも天然に鬼畜な弟の腕の中へと、己が身を投じたのだった。

 果たして、この一晩の後に俺が、今まで何度となくこなしてきたはずのSMプレイにおいて一度もしたことがなかったM役としての覚醒を果たしてしまうのは、また別の話である。



2010.10.20

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