はっきり言って、俺は性欲が強い。人よりも数倍強い。何処からこの性欲が沸いて出てくるのかはよくわからないのだが、気がついた時にはこうだったのだから仕方が無い。阿婆擦れ?ビッチ?ああ、その通りだ。否定するべくもない。すべての雑言罵詈を受け入れようとも。何と言ったって、それが俺という人間なのだから、もうどうしようもないではないか。別段諦めているわけでもないし絶望しているわけでもない。ほら、学校のセンセーとかがよく言ってただろ、個性を大切にしろってさ。つまり俺にとっての個性とやらが、性欲が強い、というそれだったというだけの話。特別なことではないさ。兎も角。
 俺の性欲の話はこの際置いておく。いや、置いておいたら駄目か。前提条件として掲げておく。で、問題なのは、今俺が付き合っている相手の性欲だよ。今のカレシ、幼馴染でもあり可愛い可愛い後輩でもある不動遊星は、なんというか、性欲に乏しいというか、ううん違うなあ、自制心が強すぎると言うべきか、それはそれは強靭な理性を誇っている。もうな、自分の欲なんて欠片も外に出しませんーってかんじで、俺が幾ら誘っても岩のように動かないし、いざセックスをしたとしても翌朝起きる時間とかを計算してきっちりと6時間睡眠時間を取れるように終わらせるし、兎にも角にも融通が利かない。だって考えてみろよ。今までは1週間のうち4日間は夜の営みに励んでいた俺がだぜ?今では、1週間に1度、しかも2回までしかやらせてもらえない。物足りないことこの上ないぜ。だからと言って遊星は俺が浮気をすることを決して許してはくれない。1回だけな、あまりにも欲求不満状態が続いて二進も三進も行かなくなっちまった時があって、たまたまその場に居合わせた親友に文字通り縋りついて抱いてもらったことがあったんだけど、あの時は凄かったなー。いったいどうやって情報を仕入れてきているんだか知らないが、家に帰るなり、いつも以上に無表情になった遊星に頬を撲られて、部屋に連れて行かれて全裸に剥かれて手足を縛られまんじりとも動けなくさせられた挙句ムスコの根元を縛られうしろにバイブを入れられて半日放置プレイ、顔中汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚しながら何度も何度も助けを請ってな、それで漸く部屋に戻ってきてはくれたものの遊星はサディスティックに笑うだけで指一本たりとも俺に触れてくれないんだ。頼むから触って、もう2度としない、2度と遊星以外の男と寝ない、だからお願いだから抱いて、抱いてくださいお願いします、そこまで言って初めて遊星は俺を解放してくれた。但し、抱いてはくれなかった。反省したなら、その証拠として2週間禁欲生活を送って見せてください、と微笑みながら口にした遊星があの時ばかりは鬼畜生のように見えた。もうあんな目には遭いたくないから浮気はしないことに決めたわけだけれど、だけど、そうすると俺はやっぱり欲求不満状態から解放される術がなくなってしまうわけで。
 1番の願いは、1週間に遊星が俺を抱いてくれる回数を増やしてくれないかといったことだ。これは何度も何度も口に出しておねだりしているのだけれど、前述のように強靭な理性を持った遊星は、澄ました顔で俺のおねだりを受け流してくれる。その流し目の一瞥だけで男を落とすとまで言われた俺が、胸板に縋りつき首筋に絡みつきながらその耳殻に直接注ぎ込むように桃色の吐息で囁くという最強の誘いポーズをしても落ちない男が現れるとは、思っても見なかったぜ。いや、いいんだけどな?それ自体はいいんだ。遊星は普段禁欲的な分、一度スイッチが入ったら物凄いんだ。もう、すぐにイかされちまう。遊星とのセックスはサイッコーに気持ちいい。だからこそもっともっと味わいたいって言ってるのに、まったく、つれない奴だよ。
 だけどそれじゃ困るんだ。最初にも言ったとおり、俺は性欲が強いんだ。このままじゃああまりに欲求不満すぎて、遊星と別れて他の奴と付き合わなければならなくなるかも知れない。俺としても、折角好きになった奴と別れて他の好きでも無い男と付き合うのはどうかと思うんだ。それでも、セックスの回数が増えないんじゃあそれも止むを得なくなるかも知れないだろ?
 だからな、今回俺は、遊星に俺が普段どのような思いをしているかを味わってもらうことにしたんだ。それでもしもわかってもらえないようなら、考えなくてはいけない。

 と。
 そう思っていたのだけれど。


「ちょ、ま、待て、待ってってばゆうせ、んんっふ、」
「ん…はぁ、ふ、ぁ…ぅあ、じゅうだい、さ…!」
 押し倒されて、余裕の無い動作でワイシャツの前を引き裂かれる。慌ててその身体の下から這い出ようとしたが、腕を掴まれ引き戻されてディープキス。その舌で余すところ無く歯列をなぞられ唾液を吸われた。呼吸さえも奪いつくすようなキスに頭がくらくらして、ふわふわとした気分になりながらもなんとか遊星の顔を引き離し、逃れようともぞもぞ動いた。しかしそう上手くいくわけもなく、力強い腕で腹部を鷲掴みされ、ころんと容易に身体を反転させられてしまった。うつ伏せにさせられる。ヤバい、と思った時には既に遅かった。何時の間に外されていたのやら、ベルトはベッドの下に横たわっており、支えをなくしたジーパンが下着と共に勢いよくずるりと引き摺り下ろされた。外気に触れた肌がぶるりと震えた様が、遊星の目にはいったいどのように映ったのだろうか。気配でわかった。がばりと俺の臀部に覆い被さってきた遊星が、躊躇いもせず、その窪みの中央に舌を這わせ始めたのだ。両手の指で尻たぶを割り開きながら、無我夢中で吸い付いてくる。俺はぽかんと間抜けに口を半開きにし、漏れ出る声を抑えることも出来ず、なされるがままにその熱くて柔らかいものが敏感な部分に触れるのに合わせてひくりひくりと咽喉を震わせた。遊星にそこを舐められたのは初めてだった。多少潔癖の気があると思っていた遊星が、そんな、本来は排泄のために使われるような部位に舌を。そう考えるだけで必然的に俺自身の中心も熱を持ってきそうだった。
「あ、ひゃっ!」
 そうこうしているうちに、遊星の指が蕾の中へと強引に捩じ込まれてきた。恐らくは親指が、唾液で濡れたそこに無理矢理押し込まれる。しかしなかなか入らない。それはそうだ、萎縮して窄んでしまっているそこを解すためにはまず襞を外側に引っ張って伸ばしながら解してやらなければならない。解しもせずに中に入れようとしたら、当然拒まれるに決まっている。そんなことは、何度と無くセックスをしてきて、頭の良い遊星ならとっくに理解しているはずのことだ。だというのに遊星は親指を、中を抉るようにして突き入れてきた。本当に余裕が無いのだなあと思う。はあはあと細かく小さく呼吸を繰り返す俺の上から、ぜえぜえと、荒い呼吸音が絶えず降り注いできている。俺はほんの少し上半身を捩って、遊星の顔を見上げた。そして息を呑む。そこには、唇をきゅっと噛み締めて、泣きそうに表情を歪めつつもこちらをじいと見据えてきている遊星の姿があった。
「いれ、たい……いれたい、いれたい、いれたい、挿れたいです…っ」
 親指を引き抜き、代わりに既に昂ぶりきったものを宛がいながら懇願するように何度も呟く遊星を見て胸が締め付けられるようだった。いつもは余裕に満ち溢れた態度で、乱れる俺の様子をまるで観察でもしているかのように冷静に眺めている遊星が、息を乱しながら掠れた声で何度も、いれたい、と言っている。遊星の願いならば、すぐにでも挿れさせてやりたいところではあるのだが、流石にまったく慣らしもせずに挿入したところでお互いに苦痛しか覚えないだろう。だからせめて自ら解すだけでもしようとして身体を起こしかけたところで、何を勘違いしたのか遊星がそうはさせまいとして俺の腰に思い切りしがみついてきた。驚いて双眸を見開く俺の前で遊星は、腹部に顔面を擦りつけ、「イヤです、はなしません」とくぐもった声で呟いた。まるで駄々っ子のようだ。しかし単なる駄々っ子はこんなにも精悍な身体つきはしていないし、甘えるように拗ねるように顔を押し付けながら俺の中心を片手で握りこんできたりはしない。
「ゆ、せ…」
「はいりたい、十代さんの、なか、に…っはいりたい、です…っは、おれを、なかに、入れて…はいらせて、くださ、ぁ…!」
「ふぁ、あ、そんなこと、言われたってぇ」
 強く扱かれて俺は背中を反り返らせた。遊星が瞳をぎらつかせ、喘ぐ俺の顔を凝視してくる。恥ずかしくて顔を背けようとしたが、途端に握り潰されるのではないかと思うほど強く中心を締め付けられてしまい、悲鳴を上げた。慌てて視線を戻せば、安心したように眦を下げる遊星の表情が目に入ってくる。まるきり子供のような反応を見せている。普段は、俺よりも年下だというのに俺よりも大人びた態度ばかりを取る遊星の幼い一面を目にして、また胸が締め付けられるようだった。こんな気分は初めてだ。たとえば、今まで付き合ってきた男たちにこのような態度を取られたならば、俺はすぐさま意地の悪い笑みを顔面に貼り付けて思う存分に相手を虐めてやるに違いないだろう。しかし遊星相手では何故かそれが出来ない。我侭な態度を取られれば取られるほどに、どうにかその我侭を聞いてやりたくなってしまう。これはいったいどういうことなのだろう。もしかすると、罪悪感も一部混ざっているのかも知れない。何故なら、遊星がこんな状態になるまで追い詰めてしまったのは、俺なのだから。
 欲求不満という状態がどのような状態か理解していない人間に手っ取り早くその状態がどのようなものかということを理解してもらうためには、当人に欲求不満状態を味わってもらうのが手っ取り早いのではないかと思ったのだ。だから、ちょっとしたルートで手に入れた所謂媚薬というものを、遊星の食事に混ぜてみた。この媚薬を口にした人間は、まるで発情期を迎えた猫のように際限なく性欲の対象に対して欲情してしまうという。理性など残らない。本能のままに欲望を求めるようになる、という薬の効果が如何ほどのものかは正直わかっていなかったのだが、その方面では頼りになる先輩から受け取ったものだったので、効かないということは無いのだろうなと楽観的に考えていた。それがまさかこれほどまでの効果を発揮するとは、嬉しい誤算である。そう、嬉しかった。俺は素直に嬉しかった。実のところ、内心で、普段これほどまでに求められないのは、遊星が禁欲的な青年であるからというだけではなく彼がセックスをしたいと思えるだけの魅力を俺に対して感じていないのではないかと薄っすら勘繰ってしまっていたのだ。魅力を感じない人間を抱きたいと思わないのは自然なことだ。ただ、遊星にとっての俺がそうなのだとしたら、いったい遊星はどうして俺と付き合っているのだろう、などと、様々なネガティブな思考を繰り広げたりなどして、それなりに悩んでいた。ああそうさ、悩んでたんだよこれでも!だから今回、遊星が媚薬を飲んですぐに俺を襲ってきたということに多少安堵していたりもする。だって、遊星が俺を襲ったということが、遊星の性欲の対象が間違いなく俺であるということの証明に他ならないんだからな。
 とまあ、そんな具合にお互いへの愛情の確認も出来たところで、責任を取って遊星の性欲の処理の相手になりたいところなんだけれども。
「十代さん、じゅうだい、さん…じゅうだ、い、さ、…ん…ああっ……」
「あー、もうっわかった、わかったよ!わかったから、ちょっと待、って、って、えええぇぇぇえええああぁぃいいッッ!!」
 ついに我慢の限界が来たらしい遊星は、徐にベッドサイドの戸棚の引き出しからローションを取り出すと、どばどばっと大量に中身を遊星の雄々しく勃ちあがったものにぶちまけて、
「あ、きつ、ふぅ、じゅうだいさ、なか、きつい、です…ぅあ!」
「いたたたたたあたたあだだだだぃあーあーああああーーーっっ!!」
なんとそのまま力ずくで太いものを中に押し込んできたのだ。これには俺も驚いた。理性が無い遊星はここまで強引なこともするのか。肉壁を内側から抉じ開けられる痛みに情けなく叫び声を上げながら我武者羅に遊星の背中にしがみついた。遊星は艶やかな吐息を吐き出しながら、とろとろと甘い言葉を零し続けている。あつい、なか、あつくて、きゅっとして、おれをつつみこんでくれる、ああ、じゅうだいさん、じゅうだいさん…。聞くに堪えない、と思った。常は寡黙な遊星だからこそ、このように際限なくふにゃふにゃんに蕩けた言葉を吐き続けられると、俺がもたなくなってしまう。現に顔が熱くなってしまっている。痛みに叫べばいいのか恥ずかしさに叫べばいいのかわからず顔を赤くしたり青くしたりしているうちに、遊星は律動を開始させてしまった。最初から加減の欠片も無い揺さぶりをかけられ、俺まで理性を飛ばしてしまいそうになる。理性、もとい、意識か。しかしそう簡単に意識を失うことを許されるはずもなく、痛覚が麻痺して快感がやってきた頃に一度絶頂を迎え、白む視界と共に飛ばしそうになっていた意識を強行的な体位変換が引き摺り戻した。その後はもう、只管に交わった。遊星と一晩でこんなに回数をこなしたのは無論初めてのことだった。そして俺は知る。普段、どれだけ俺が、遊星に想われ気遣われているかということを。


「媚薬、ですか」
「ああ…すまなかった遊星。おまえを騙すような真似をして。悪かったと思ってる」
 翌日の昼、目覚めた遊星に俺は土下座をしながらすべてを語った。たとえば何処かの三流ファンタジーのような話ならば、媚薬でトランス状態に陥っていた間の記憶は抜けている、などという展開が待ち受けていたのだろうが、やはりと言うべきかなんと言うべきか現実はそこまで甘くは無く、遊星は昨晩のことをすべて覚えていた。どこか居心地が悪そうにしていたのはそのためだ。しかし遊星があのような状態に陥ってしまったのは遊星のせいではない。俺のせいなのだ。だから遊星はすべてを俺のせいにして、すべてを忘れてしまっても構わない。そうだ。無理矢理何度もされた尻が悲惨なことになっていようと、遠慮も容赦も無く突き上げられたせいで実は腰がまったく立たない状態になっていようと、自分のせいなのだ。自業自得。この一言に尽きる。まあ、肉体的苦痛はいずれ癒える。欲求不満は昨晩で解消されたことだし、遊星の意外な一面も見られたことだし、大いに満足した。だから、昨晩のことは、ちょっとした事故のようなものだと思ってもらって、記憶の奥底に封じてもらえればと思っていた。しかしこれはあくまで俺の願いでしか無い。現実のシビアさなど、嫌というほどわかっているはずだというのに、人は何故願ってしまうのだろう。俺は、何事かを考えていたようだった遊星が不意に「わかりました」と言った瞬間に、顔面に浮かべていた微笑を凍りつかせた。
「十代さんが、俺に媚薬を飲ませてまでしたいというのならば、回数を増やしましょう」
 遊星は微笑みながら、どこか照れくさそうに、「実は、俺が今まで十代さんと週に1度しかしないようにしていたのは、俺自身の性癖を受け入れてもらえるか不安だったからなんです」と言った。
「あまりに気を抜きすぎると多少乱暴になってしまうので。十代さんには優しくしていたかったので、それで、自制をかけていたんですが、」
「いや、その、な?あの、その自制は、とてもいい心掛けだと、俺も思」
「ですが昨晩でわかりました。十代さんは俺のことを受け止めてくれます。だから、俺も、自分のことを曝け出してみようと思います」
 その、本能を曝け出した遊星がどのような遊星かということは昨晩嫌というほど味わって知っている。だからこそ、冷や汗が止まらない。俺は、嬉しそうに笑って両手を握ってきた遊星に引きつった笑みを返した。セックスの回数を増やすのは良い、大歓迎なのだが、もし回数を増やすのと同時に昨晩のような遊星を毎度受け止めなければいけなくなるとしたならば、今度はこちらの身がもたないだろう。なので、それとなく、今までの優しい遊星のままでいてくれるように頼もうとしたのだが、
「では今週から週に3度。1日に、5回までということで」
やけにノリノリな遊星相手に何を言うことが出来たというのか。俺には、ただ頷くことしか出来なかった。



2010.11.17

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