達する瞬間には必ずと言っていいほどに熱い視線を感じる。下半身を劈く衝撃につい瞑ってしまいそうになる瞳を薄く開き見下ろすと(組み敷かれている体勢から相手を見遣るのだから、見上げる、ということになるのだろうか?けれど、顎を浮かせて咽喉を逸らした状態から見るその顔は、自分よりも下にあるように思えるから、見下ろす、と言ったほうが適当であるような気がする。あとは気分の問題だったりもする)、濃紺の双眸が熱さの中に隠しもしない情欲を孕ませてこちらを見据えてきている。半開きになった薄い唇から漏れる吐息が、薄っすらと色づいているようだった。その、雄としての本能の忠実になって暴走している姿を見ると胸がすうっとする。奇妙に満たされる、この感覚は、もしかすると母性本能とかいうものなのかも知れないとさ最近思う。微笑もうとして、しかし最奥をぐりぐりと抉られ、口端を歪ませたまま舌を震わせ雌臭い嬌声を口唇から迸らせるしかなかった。ふるりと胸元が揺れる。瞬時に駆け巡った快感が脳を貫き、認識するよりも前に年下の男のものを咥えこんでいる袋はぐっしょり濡れ、クッ…!と低い呻き声を漏らした男が慌てて袋から性器を引き抜く。粘ついた透明な糸が、男と女、その象徴的部位を繋いでいる様がたまらなくいやらしいもののように思えて今度こそ声を上げて笑ってやった。ちょっとした滑稽さ。手塩にかけて育てた…と言うのは過剰であるかも知れないが…年下の本物の弟のような存在に女として犯されている現状を認識すると、そのようなものが込み上げてくる。しかし別段嫌というわけではなくて、なんというか、おれは捻くれ者であるわけで、つまりは少し照れているのかも知れなかった。兎も角。

「あなたの、女性としての顔を見られる唯一の瞬間だからです」
 気になったので尋ねてみた。そうしたらはっきりきっぱりとそのような答えが返ってきたので、余計な言及をすることも出来ず、ああそう、と頷かざるを得ない。でもちょっと待て、唯一?
「唯一です。少なくとも俺は、あなたが女性らしい表情を俺の前で見せたという記憶がありません」
 これまたすっぱりと言い切る。首を傾げるおれを他所に彼は素早く身を起こすとあっという間に後処理を終えて服を着込んでしまった。ベッドの上にひとり取り残される。確かにおれは、同年代の女たちみたいな女らしさを持ってはいない。持ちたいとは思わないからだ。誘われるのを待つよりかは自ら誘いに行くし、セックスする時だっておれが上に乗る方が多い。これはおれが負けず嫌いだからとかそういう理由からではなく、面倒臭いことが嫌いだからというだけであったりする。たまに可愛げの無い女だと罵倒されるが、逆に訊ねたいくらいだ。そんな可愛げを求めるくらいならなんでおれを抱くんだと。気持ちよくなかったのかと訊ね返すと閉口してしまうあたりがまたわからない。いったい何を求めているのか。甚だ疑問である。
 そんなこんなで「男勝り」と称されるようになったおれに、まだ女らしさを求めようとする奴がいたとは。しかもこんな身近に。なんでも、イく時の顔は男と女では大差があるらしい。男は、溜まったものを思い切り放出する瞬間の強張りにより表情も強張るらしいのだが、女は官能の放出にそのような切迫した感覚を覚えない。だから素直に快楽に表情を歪めることが出来るのだと。そういうものなのか?と訊ねると、俺が見てきた限りでは、と返された。おれは内心で、こいつも何気なく場数踏んできてるんだなあ、と内心感心してしまった。
 別におれがどんな顔でイっているかなどはどうだっていいのだが。それにしても、目敏くそういった変化を観察し続けている彼の冷静さには、驚きを隠せない。
「十代さん、ココアを淹れてきました」
 数分前に出ていった彼は、お盆を片手に戻ってきた。お盆の上には、白いマグがふたつ。セックスの後には甘いものが口にしたくなる、と随分前に零してからというもの、律儀にそれを用意し続けている。おう、と片手を振って応じ、身を起こしたおれに、すぐさま着替えを手渡してくる。ベッドの周辺を見渡せば、何時の間にか着てきた服は無くなっていた。「洗濯しています。明日、帰る頃には返せると思います」訊ねてもいないのにそう先回りして答える。つくづく気の利く男だ。これでは女が放っておかないのもわかる。おまけにすごくイケメンだ。たぶん、ヨハンと同じくらい、モテるんじゃないか。
「さんきゅー」
「熱いので気をつけて…」
「わかってるよ、甲斐甲斐しい奴だな」
 彼のティーシャツだけを身に纏ったおれが、ちびちびココアを飲む様を見て僅かに目元を緩ませている。堪えきれなくなったのかこちらに手を伸ばして頬を撫でてきた。頭も撫でられる。やたらと幸せそうなので、おれは何も言わずにそれを甘受し続けた。今まで俺の彼氏役をこなそうとしてきた奴は数いたけれど、ここまで完璧に振る舞える奴なんてこいつくらいじゃないか。
 そんな奴が実はおれの義弟、だなんて、笑えやしない展開に他ならないのだろうけれど。



2010.7.1



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