お互いに元々そんなもの求めちゃいないのはわかってるけど、それでも、こう、ムード無えよなあ、と思うのはふと顔を横を向けた時にどこかの野良犬か鴉あたりが喰い散らかしていったらしい生ごみの中に混じっていた骨だけの魚と目が合った瞬間である。なんだよ、こっち見んなよ、と内心で文句を垂れてみるが、別に魚だって転がりたくってそこに転がっているわけではないはずだ。というよりも、まだ生きている人間である俺が、喰い荒らされて地面に打ち捨てられた魚と目が合ってしまうような扱いを受けていることがなんだか面白く思えてきてしまって、口の端をぴくぴくさせながら逆方向を向いてみると、そちらはそちらでこれまた面白いことになっていた。どす黒く染まった油カスがこびりついた
ビルの側面に、数匹のゴキブリが集って、なんと共食いをしているではないか。どれだけ不衛生な場所なんだ。今度こそ耐えきれずにぷっと噴き出してしまった俺を、ヨハンは怪訝そうな目で見降ろしてきた。
「何笑ってんだよ十代」
「いや、何でもねえ…けどさ、俺ってもしかしてそこらの生ごみとかゴキブリと同じ扱いされてるんだな?」
「ハァ?」
 心底呆れたような声を出しながら片眉を吊り上げてみせる、その様すらやたらとキマっていて恰好良くて、同じ男として嫉妬心にも似たものを覚えかけるがそもそもヨハンにそのようなものを抱いても無駄だということを思い出した。あーとかうーとか唸りながらがっくりと首から力を抜いた俺を見てヨハンは不思議そうにしていたが、すぐさま表情を切り替えて、上機嫌な鼻歌なんかを口ずさみながら俺の剥き出しの太腿の間を開拓し始めた。よくもまあ、こんな汚い場所だっていうのにおっ勃てられるよなあ、と思うが、それを言うならヨハンの掌で扱かれて立派にムスコを硬くさせてしまっている俺とて同様だ。ひんやりとした、粘度の高い液体を尻の穴に擦り込まれる。びくんと肩を跳ね上げさせた俺を見てヨハンは、にやにやと、いやらしい笑みを浮かべている。
「なんだかよくわかんねぇけど、ノってきただろ?やらしい反応しちゃってまー」
「誰がそうさせてんだよ、ったく。まったく悪趣味な貴族様だぜ。どうせ貴族とかやってんだったら、俺をそっちのお綺麗な街のさ、ラブをメイクするらしいホテルにでも連れてってくれよ、なあ?わざわざこんな薄汚れたスラムの中でも人が寄り付かねえような場所でやることねーだろーが」
「はあ…これだから、十代はわかってねぇなあ」
 よいしょっと!などと言いながらヨハンが俺の腰を抱えあげた。思い切り膝頭を割り開かれ、身体を二つ折りにされ、心持ち上方を向いた俺の尻の穴に息を吹きかける。それから早急にベルトを外し、いきり立った肉棒を突っ込んできた。衝撃に腰が浮きかけるが、がっちりと支えられているため逃げることは出来なかった。めりめりと肉と肉の間を割り開いて熱の塊が入ってくるこの瞬間のことを、気持ち悪い、ではなく、気持ちいい、と思うようになってしまったのはいったい何時だったか。ああああぁと息を吐いた俺を見てヨハンはにこにこしながら「挿れる時の十代の顔って、いつ見てもエロいよなあ」などと言っている。やはり悪趣味だと思う。
「お、とこの顔見て、エロい、とか素面で吐けるのはおまえくらいじゃね?」
「そんなことはねぇよ。貴族の中には俺と同じ趣味のやつらなんて腐るほどいるさ。だから、あっちにはおまえを連れていきたくないの」
 揺さぶられると自然と声が漏れる。徐々に言語ではなく単なる母音しか発せられなくなっていく俺の口の端から溢れ出た涎を舐め取りながら、ヨハンもヨハンで「あー…気持ちいいわー…」まるで風呂に入った時のような声を出している。風呂。あながち間違ってはいないかも知れない。ヨハンのムスコ専用の浴槽、俺の尻の穴。ただしきれいにはならないけどな。なんちって。
「それに、味があるだろ?」
 比較的童顔であるヨハンも、この時ばかりは立派な雄の顔をする。俺は嬉しそうに顔面にキスを落としてくるヨハンを見上げた。ヨハンはいつも、こんなかんじで、楽しそうだ。ま、俺も、楽しいけどさ。
「誰もいないスラム街に2人っきり、だぜ?ああ、観客はゴキブリか。俺たちすげえ荒んでる。青春してる、ってかんじしねえ?」
 そんなこと思うのはおまえだけだと思うけどなあ。内心でそう思いながらも、馬鹿正直な俺の尻はヨハンの言葉に反応してきゅっと締まってしまうものだから、ヨハンがより一層楽しげに笑うのだ。もしかして俺ってマゾなのかも知んねーな。



2009.11.10


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