十代。十代十代十代十代。十代十代十代十代十代十代十代十代十代十代十代十代十代。じゅうだいっ。どうして君はそんなに素晴らしく、素敵なんだい?どうしてこんなにも、僕の心を捕らえて縛って締めつけてやまないんだい?君のことを考えるだけで僕は胸が痛くなるよ。息が苦しくなって、どうしようもなく身体が熱くなるよ。体内にくすぶって今にも爆発しそうになっている熱を昇華して僕を解放することができるのは君だけなんだ。だから早く、僕に触れて、君の肌の温度で、僕に体感させて!滅茶苦茶に扱って、僕を痛めつけてよ十代!君の愛を僕に与えてよ!
「マジでさ、キモイよおまえ」
 十代はそう言って眉を顰め深い溜息を吐いた。てっきり僕は十代が「仕方のない奴だなぁおまえは」と苦笑しながらも蔑むような(優しい!)眼を僕に向けて、玄関マットの上で四つん這いになっている僕の剥き出しのお腹を蹴り上げてくれるものだとばかり思っていたので、予想外の反応に驚いて上体を起こした。十代が邪魔そうに僕の肩を軽く蹴り背後へと押しやったので、とりあえず玄関マットからは降りてぺたんとフローリングの上に座り込む。素肌のままの太股を床につけて、膝を左右両側へと折り曲げる。よくAVか何かで女子高生役の薄汚い小娘がやるように、短いスカートの裾を軽く握り開いた足の間へと、股間を隠すように添えた。上目遣いで彼を見上げ、最後に可愛らしく小首を傾げる。これで完璧だ。セーラー服を身に纏った僕は、十代が大好きな女子高生にしか見えないはずだ(勿論あんな五月蝿い餓鬼たちなんかより僕の方が余程魅力的に決まってるけど)。こっちの悩殺セクシーポーズなら、きっと十代も喜んでくれるに違いない。喜んで僕の胸板を踏みつけて、ユベルは本当に良い子だなぁって褒めてくれるはずだ。しかし十代は依然
として眉間に皺を寄せたまま、絶望したようにゆるゆると首を横に振った。なに?なんなの?何がダメなのさ十代!
「何が駄目って…なんつーかもう根本的にアレ過ぎてどうする気も起きないっていうか…強いて言うなら消えて欲しいっていうか…」
 こちらに視線すら寄越してくれない。どうしてなんだい十代。あ、もしかして!そっか、そうだよね、僕としたことが、すっかり忘れてたよ大切な君のことなのに恥ずかしいっ。これじゃあ悪い子だって鞭で叩かれても仕方ないかも知れないね。でもさでもさ、まったく、やだなぁ十代。僕と君の仲だっていうのに、そんな、今更照れなくたっていいのに!僕が君のためにこんな制服まで用意したことに、驚いてくれているんだね。そんなシャイなところも十代らしくてとても可愛いけどね!十代大好きだよ十代!僕のいとしいひと!
「だからちげーっての」
 嬉しくて仕方がなくてつい十代を抱きしめようとして両腕を伸ばしたのだけれど、十代はつめたい眼をしたまま、十代めがけて突進した僕を避けるようにさっと素早く身を翻し背後に回り込むと土足のまま後頭部への回し蹴りを繰り出した。しなやかな細い足が描く蹴りのラインはとてもうつくしい。と、うっとり見惚れている暇も無く、ひゅっと空気を引き裂いて出された左足に蹴り飛ばされた僕の身体は入口付近にまで吹っ飛び、ごつんと鈍い音を立てて前頭部が鉛の扉に打ちつけられた。一瞬意識が飛びかけるが、いけないいけない、気を失ってなんかいられない。まったくもう十代の照れ隠しはいつだって強烈なんだから!でもここまで激しいリアクションを取ってくれるのは、僕のことが好きだからなんだよね?愛情表現なんだよね?そうなんだよね?わかってるよ十代!君の愛が激しすぎて、僕、感じちゃうよ!
「おまえって、ほんっとうに救いようがない奴だな」
 十代は今日何度目かになる深い深い溜息を吐くと鋭く僕のことを睨みつけてきた。まるで親の仇か何かに向けるような、情け容赦の無い殺気にまみれた視線だった。視線だけで普通に人を射殺せそうだ。それほどまでに強すぎる視線を、僕だけに向けてくれている。僕は思わず両腕で自らの身体を掻き抱いた。抑えきれない衝動が全身を震わせる。僕ははあはあと荒く息を吐きながら、十代の瞳をしっとりと見つめ返した。唇が震えている。背筋が粟立つ。鳶色の吊り上がり気味の猫のような瞳に映っている情けない表情をした僕の姿。僕の姿だけを映している君の瞳。下半身がズキズキする。ああ、ああ、もう駄目だ!ゾクゾクと背筋を衝撃が走り抜けていく感覚に耐えきれずに僕は身悶えながら叫んでいた。

「そんな目で見ないで、いっちゃううぅっ!!」


 気持ちの悪い奇声を発しながら手扱きのし過ぎで赤黒くなった性器から白濁を迸らせたそいつを、俺は心底より殺してやりたいと思った。だが殺意は、「じゅうだいじゅうだいじゅうだいじゅうだいいぃ!!」俺の名前らしき言葉を何度も何度も叫びながら身体をくねらせ自慰を始めたそいつを目にして圧倒的な虚無感へと変わっていった。勿論、親からもらった、客観的に俺という人間の存在を示すための唯一の単語を汚されて屈辱感を覚えないわけではない。しかし、幾ら抗ってみたところで無駄だ。この男に常識は通用しない。俺の怒りは至極当然のもので、言及する言葉も恐らく正常な意味合いのものだろうが、それを耳にする側の脳味噌が腐っていては同じことだ。怒りに身を任せ怒鳴り散らしても、カッとなって暴力を振るっても、こいつは甲高い声を上げて悦ぶだけでちっとも後悔や懺悔というものをしようとしない。狂っている。俺は途方に暮れた。
 仕事で心身共に疲れきって帰ってきた俺は、一刻も早く休みたかった。それが、どうして、自宅の扉を開けた途端、汚物を目にしなければならないのだ。上下ともにセクハラじみて丈の短いセーラー服を身に纏った筋肉の塊に誰が興奮するというのだろうか。チラリとどころかもろに露出している8つに割れた腹筋や、がちがちに筋肉質な太股など見せつけられても萎える一方ではないか。そのことをこの男は理解していない。そもそも、硬い男の身体に、女性の柔らかな肢体に合うように作られた服が似合うわけがないのだ。俺は、筋肉達磨の女装を見ておっ勃てるような変態ではない。極一般的な嗜好を持った成人男性だ。
 革靴を脱ぎ、室内に向かおうとしていた俺の足首に、ぬるりとした感触が触れた。激しく振り向きたくない。俺は右腕に立った鳥肌には気が付かなかったことにして尚もリビングに向かおうとする。しかし、足首に絡んだものが俺の歩みを妨げた。凄まじい力だ。ぶんぶんと片足を振って何とか払おうとしてみたが、効果はない。激しく振り向きたくない。はあと溜息を吐き考える。どうするべきか。俺はどうしても振り向きたくない。しかしこのままでは埒があかない。そうこうしている間に、ぬるりとしたものはずるりずるりと俺の皮膚の上を這い、太股から脹ら脛へと忍び寄ってきた。背筋が粟立つ。冗談ではないおぞましさだ。これ以上は耐え難い。ならばどうするべきか。迷う間にも俺の皮膚は生温い感触に犯されていく。俺は奥歯を噛みしめた。
「じゅうだい…」
 諦めばかりが支配していた心の奥底から、沸々と涌き上がってくるものがある。
「愛してる、愛してるよじゅうだい…」
 どうして。どうして俺がこのようなものに煩わされなければならないのだ。
「あああああじゅうだいの足…滑らかできれいだねぇ…美味しいよじゅうだいいいぃ」
 そして唐突に、臑のあたりにかつんと何かがあたった感触と、ちくりとした特有の痛みを覚えた瞬間。
 プツン。
 俺の中の何かが切れた。

「きっ……もちわりいぃんだよこの糞野郎がアアアアアアアアアア!!!」

 ごきゅ、と、まるで首の骨が曲がったかのような嫌な音がしたが俺の知ったことではない。勢いよく吹き飛んだ肉塊が再び鉛の扉に叩きつけられ轟音を立てる。俺はくるりと踵を翻し今度こそ室内へと足を踏み入れた。背後から「ああああああぁぁぁんん愛が痛いよじゅうだいいいいいいぃぃでも大好きだよ愛してるよおおおおお」などというこの世のものではないような恍惚にまみれた悲鳴が聞こえてきたような気がするが、この世のものではないのなら俺に関わりはないのだろう。何も耳にしなかったことにして、リビングへと続く扉を後手で閉めた。
 とりあえず、明日の俺の通勤時間までに玄関がきれいに片付いていなかったらば、その時こそ同居人を絞め殺してやろうと思った。



2009.10.6
(企画物その1)





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -