SHORT NOVEL

        2 (12/21)

「青八木」


振り向くと苗字がこっちに向かって笑顔で手を振る。

その笑顔に俺は答えられないまま身動き取れないでいると、苗字はもう一度手を振りこっちに背を向けた。


「何か反応しろよ」


隣にいた純太が笑いながら俺に言う。


「苗字ってあんな感じだっけ?」
「あんな感じ?」
「去年同じクラスだったけど俺あんま喋った事ない。青八木親しかったんだな」
「別に親しくない」
「そうか?親しくないのにわざわざ名前呼んで呼び止める?」
「・・・」
「もしかして青八木の事」
「それはない」
「そんなのわからないだろ?」
「わかるから言ってる」


純太は俺に不思議そうな顔を向けてたけど、知ってるから断言出来るんだ。

苗字は純太が好きなんだ。

同じ中学だったからお互い知ってはいたけど、純太の顔を見に苗字がうちのクラスに来るようになってからよく顔を合わせるようになった。

苗字のお目当ての純太の側には必ずと言っていいほど俺がいて、苗字に背中を向けてる純太に対して俺はいつも苗字の恥ずかしそうな顔を正面から見てた。


「純太、今いない」
「そっか、残念。また来るね」


それが苗字にも俺にも毎日の日課になっていて、純太がいない時に限り言葉を交わすようになっていった。


「手嶋、彼女が出来たみたいだね」
「俺も最近知った」
「手嶋の彼女、私の友達なんだ」


苗字の片思いはそんな感じに終わり、うちのクラスに純太の姿を見に来る事がなくなり、俺との日課も終了した。

それでもすれ違う度に苗字が純太に向ける視線はあの頃と変わらなかった。



「今から部活?」


放課後、部室へ行こうと靴を履き替えてたら苗字が声を掛けてきた。


「この間走ってるの見たけど相変わらず速いよね」
「純太・・今職員室行ってる」
「え?あ、うん・・そうなんだ」
「・・・」
「あの、青八木!あの、あのさ」
「いいと思う」
「え?」
「純太に彼女が出来たとしても想っててもいいと思う。すぐには無理だ」
「違うんだ、青八木、あのね」
「俺といない方がいい。勘違いされるから」
「どういう意味?」

「青八木まだいたのか?」
「今行くとこ」
「あ、悪い、苗字と話し中だった?」


急に現れた純太に驚き、苗字は顔を俯かせ、少しだけ後ずさりする。


「先行ってる」
「え?青八木?」


その場に純太と苗字を置き去りにして、俺は足早に昇降口を出た。
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