SHORT NOVEL

寡黙的男子進化論1(青八木) (11/21)

「呼ぼうか?」
「いい!大丈夫!気にしないで//」


俺に見せた真っ赤な顔のまま、手を振りながらバタバタと去って行った。

去年一緒のクラスだった苗字は惜しくも隣のクラスとなり、うちのクラスの前を通る度にこっそり覗いてこのクラスの人物を目で捜す。


苗字が探している人物は大抵俺の目の前にいて、あのおどおどした熱い視線に全く気付いてない。


「でさ、鳴子がさ・・って聞いてる?」
「聞いてる」
「誰かいた?ドアの方見てたけど」


そう言って苗字が去った後の空間を純太が見詰める。


「いたけど今いない」
「誰?」
「同中だった子」
「へぇ」


同じ中学だったって事、別に嘘は言ってない。


苗字が純太をずっと見てた事は同じクラスだった時から俺は気付いてた。


「苗字、純太が好き?」
「Σえ?!な、な、なんでなんで?///・・・気付いてた?;//」
「いつもこっち見てるし」
「あーゴメン;気分悪かった?」
「平気。純太だってわかってたし」
「・・・ごめん;」



苗字の視線の先にはいつも純太がいたけど、俺と目が合うと恥ずかしそうに笑ってくれた。


「青八木、俺好きな子出来た」


純太がそう言って俺に携帯の写真を見せてきた。

緊張しながら覗いたそこに写ってるのは苗字じゃなかった。


「青八木」


振り返ると苗字が立ってたから純太の存在を慌てて探す。


「ぶっ!青八木を呼んだんだよ」



苗字はケラケラ笑いながら俺の方に近づいてくる。

純太を見詰める恥ずかしそうな表情ではなかったけど、俺に見せるいつも通りの笑顔だった。


「友達から聞いた。手嶋、彼女出来たみたいだね」


噂が広まるのは一瞬だ。

俺が伝えなくても苗字の耳に入るのも時間の問題ってわかってた。


「誰からか聞いた?」
「はは、教えてくれた友達にも最近彼氏が出来たんだ」
「え?」
「全然気付かなかったー」


そう言いながら俺に見せる笑顔はちょっと辛そうで。


「俺も最近知ったばっか」
「平気だよ、うん、大丈夫。大丈夫だから気にしないで」



苗字はいつもそう言ってた。

"大丈夫だから、気にしないで"と。


「大丈夫なはずない」
「んー」
「ずっと純太を見てたの俺知ってるし、大丈夫とか無理しなくていい」
「いつも優しいね、青八木は」


俺が優しい?

そんなの限定した相手にだけだ。


「手嶋を好きだった事、青八木だけは知っててくれてうれしい」


俺の気持ちに未だに気付かない苗字の背中を眩しく見詰めた。
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