愚かね | ナノ

いままで俺は、よく耐えたと思う。何度も浮気をされても、セックスの途中に他の女の名前を呼ばれても、その度に喧嘩をして、その度に俺はあいつを許して来た。だが一方のあいつは、俺が許す度に開き直るようになり、近頃では俺とあいつの二人の家であると言うのに、平気で男や女を連れ込むようになった。もう、限界だった。だから俺は今日全てを終わらせるために、この家を出ることに決めた。俺は顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、服や捨てられない物たちを詰められるだけ鞄に詰めていく。朝起きて荷物のごっそりなくなったこの部屋を見たとき、銀時はどう思うだろうか。心配してくれるだろうか。それともふうんとかなんとか言って、なんの興味も示さないだろうか。どちらにせよ、もう俺には関係ない。俺はリビングのソファで我が物顔で寝息を立てる銀時を起こさないように、そっと玄関へと向かう。最後に一度だけ振り返って、暗闇のなかの銀時に目を凝らした。

「なんでこんなことになっちまったんだろうな、なぁ、銀時」

銀時は、ぴくりとも動かない。べつに返事が欲しいわけでもないので、俺は大人しく靴を履き、ひんやりと冷たいドアノブに手をかけた。そのときだった。

「どこ行くの」
「べつに、お前には、関係ねーだろ」
「あっそう。ま、出てくなら、ちゃんと鍵かけてってよね、土方くん」

あっさりと、なんの興味もないように銀時が言う。そうしてまた、あいつはすやすやと寝息を立て始めた。俺ばっかりがこんな思いもして全くもって馬鹿みたいだ。俺は乱暴に床に置いてある鞄を持つと、勢いよくドアを開け、そしてもうどうにでもなれという気持ちで叫ぶ。

「ふざけんな!ちょっとコンビニ行ってくるだけだよ、ばーか!」

ばたんとドアが閉まると共に、また出て行けなかったという大きな後悔が俺をやさしく包んでいく。こんな展開、もう何度目だろう。終わりたいのに、終われない。抜け出したいのに、抜け出せない。俺はいつから出口のないループに迷い込んでしまったんだろう。そんなことを考えながら、震える手で煙草を咥え、ライターを取り出すためにポケットに手を突っ込んだ。ライターを取り出す拍子に、くしゃくしゃになった紙が足元に落ちる。拾い上げた紙には銀時の筆跡で、ジャンプ買って来て、とだけ書かれていた。あいつには、俺が出て行けないことも帰って来ることも全部お見通しらしい。全く反吐が出る。自信過剰なあいつにも、そんなところさえも嫌いだと思えない自分にも。俺は乾いた笑いを零したあと、煙草に火を着けて足を進める。そうしてコンビニで迎える、もう何度目かの朝が来る。

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