いとしさで世界が傾ぎそうなほど | ナノ

小さい頃から、どうしてか女の子に間違えられることのほうが多かった。そのことを亮に話すと亮は、目が切れ長なことと肌が白いことが原因だと言っていたけれど、本当のところは自分でもよくわからない。しかし女の子に間違われることをそんなに気にしているわけでもなかったので、髪は切ったり伸ばしたり様々だった。ちなみにいまでも、顎より少し長い髪のせいか駅前などでひとを待っているとたまに、俺を男と知ってか知らずか男の人から声をかけられたりする。そうしてさっきも亮を待っているときに声をかけられた、と報告したからなのか亮は全く面白くなさそうに俺の大学の話やらを聞いている。べつに、意見や助言が欲しいわけではないので俺が話したいように話していると、前から歩いてきた同い年くらいのカップルとすれ違った。その彼女はちらりとこちらを見たあと、ねえねえとこちらを見ようともしなかった彼氏の肩を叩き、顔と顔を近づけて言った。

「ねえ、いまの聞いた?俺たちのこと、お似合いのカップルだって」
「…お前なあ」

亮がとうとう苛立ったように立ち止まった。人込みから溢れるざわざわとした雑音がぱっと消え、亮の声がすんと耳に入ってくる。亮は学生のときから誰にでも面倒見がよくてそのそのくせ心配性だから、その真剣な物言いがなんとなく怖いとかでよく後輩に怖がられていた。でも亮が本気で怒ることなんて滅多になくて本気で心配しているのだと誰もが知っていたから、亮のことを嫌いだと言うひとはほとんどいなかったように思う。もちろん俺も、亮のその、頑固だけれどどこまでも真っ直ぐなところに惚れ込んだ者のひとりだ。

「ちったあ気にしろよ。女に見られてるってことなんだぞ?女に間違われてなんかの事件に巻き込まれたりしたらどうすんだ」
「うん、そうだね、普通は怒ったりするところなのかもね。でも大丈夫。亮がいれば、大丈夫」

俺がそう言うと亮は、なにが大丈夫なんだと一瞬だけそう言いたげに眉間に皺を寄せて歩きだした。昔は誰かさんも、俺より長かったのにね。隣を歩く亮の顔を覗き込むようにしてそう言うと、亮はうるせえと照れくさそうに顔を歪めてまた歩みを早めた。本当は、大丈夫だと言い切れる確証なんてない。でも亮が待ち合わせ時間に5分以上遅れることなんて滅多にないし、夜だってきちんと家まで送ってくれる。ただこうやって買い物をするだけでもわざわざ付き合ってくれる亮がそばにいるのに、事件に巻き込まれる隙が一体、俺のどこにあると言うのだろうか。
俺がそんなことを考えながら立ち止まって後ろを振り返ると、俺たちをお似合いだと言ったカップルはもう随分と遠くのほうを歩いていた。しかし幸せそうな雰囲気は、薄れることなく風に吹かれて漂ってくる。俺は彼らの背中に、お幸せにと言葉を投げかけて亮の背中を追いかける。あのカップルには、道で手を繋いで歩いたりだとか子どもを作ったりだとか、俺たちには決して味わうことの出来ない、普通の幸せな道を歩んでほしいと思う。ただ、勘違いしないでほしいのは俺たちには幸せがないということではなくて、俺が言いたいのは俺たちには俺たちなりの幸せがある、ということだ。道で手を繋いで歩いたりだとか子どもを作ったりだとか、男同士には出来ないことはたくさんあるけれど、そのお似合いだねってたった一言が、俺にはとても大きな幸せを与えてくれる、魔法の言葉のひとつだったりする。少し先で俺を待つ亮も、同じことを考えている。きっと、そんな予感がしている。

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