ボスじゃなくてきみに忠誠を!



マフィア界の党争だとかファミリー間の継承だとか、そんな物に興味はない。ただ殺したい人間が居て、しかも彼は敵対しているファミリーの者ならば当然手を出しても良いに決まっている。そう、とにかく自分が彼に近付ければ、彼に触れられれば、それだけで良いのだ。(自己満足な闘争心)



「見ーつけたぁ!」


夕闇に染まる。

生気の無い此処は全ての空気が沈み、時間が止まっているかのような雰囲気を出していた。だが、そんな情景とは似つかわしい声色がこの廃墟に響き渡り更にケラケラと笑い声までもプラスさせながら、その声の主である折原臨也は奥へと進む。


舌打ちが聞こえた。ひとりこの廃墟に身を潜めていた平和島静雄が声の主に反応を示し、あからさまに拒否の意を表していたからだ。



「てめぇ…またか」

「はははっ、だって俺の仕事は君を殺すことなんだし当然でしょ?」



足音無く忍び寄るのはいつもの癖で、ゆっくりと壁に背中を預けたままの静雄へと距離を詰めるが彼はピクリとも動かない。違和感を感じる。逃げもしなければ向かっても来ないなんて。



「あれ?…シズちゃん?」



薄暗いこの場所でも分かる程の液体が地面までにも広がり、垂れ流されたソレは臨也の眉に皺を寄せさせる。



「何これ、どういうこと」



血塗れになっていた静雄の姿に臨也の声は低く流れた。

静雄は命令通りにターゲット周辺を消せなかった。小さな女の子を殺すのに躊躇い、見逃した。ボスの忠誠に背き失敗した挙げ句、隙を見せた彼が少女に向けられた銃弾が代わりに静雄に放たれた。そうしてそのままどうにかその場から離れこの廃墟で体を休めていたのだった。



差し込んだ光は静雄の様子を鮮明に映し出す。腹部からどくどくと溢れ出る血は着ているワイシャツを容赦なく赤色に染め上げていた。

肉が裂け血が流れ出て、君を痛くさせて苦しくさせるのは俺の筈なのに…!



「っ…関係ねぇだろ」



呼吸が荒い。これほどの出血ならば当然だろうが、そんな彼が妙に色っぽくて艶やかだった。



「関係あるよ…何でシズちゃんが、何で…俺以外が君をこういう風にするの?なんでなんでなんで、なんで……」

「…おいっ臨也…?」

「君を傷付けて良いのは俺だよ」



臨也はそう言ってスーツまでにも赤く染めていた傷口に軽く指先を近付け、絡めとった血を口内に含みゴクリと喉を鳴らす。


「お前、な、に…っ」

「仕事失敗しちゃうなんてシズちゃんらしくないなぁ。こんな風なっちゃうなんて可笑しいよ。こんなシズちゃんなんて大嫌いだよ…」



頬に触れられた掌は予想外に温かくて心地良かった。掠れた声とたどたどしい言葉に静雄の開き掛けていた口を閉じれば、そのまま唇を塞がれる。ねっとりと舐めとられた口内からは微かに鉄の味がした。幾度目かのキスを終え、臨也の温度に包まれて女のように優しく抱き締められた。フワリと鼻内に臨也の匂いが広がり、濃くなった。


「…っ、可笑しいかもな」


そう呟いて力無く臨也の胸元に体を預け倒れ込み、静雄はゆっくりと現実からシャットアウトした。












弱っているのは君か僕か
(心に様々な爪痕を残して…)



「うわぁーん!」

「…………」

「死なないでぇ〜」

「…………」イラっ

「シーズーちゃぁん」

「……うっせぇ!!!」殴

「…シズちゃん痛いよ」

「お前が煩いからだろ」

「シズちゃん!」抱き付き

「…いってぇな」涙目

「!」///←きゅん



(嗚呼何て可愛い生き物なんだ!)

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