全く流石だと言うべきかなんというものか、火事を見に来る野次馬というものは全員写真を撮られているらしい。それで毎回写っている顔が放火魔の疑いを掛けられるのだ。懸命な行為だと思う。こっちは火事を見る為にいるわけじゃないってーのにさ。

「シズちゃーん、俺また警察に拉致られたんだけどー」
「知るか」

 冬の池袋は乾燥している。火事が起きるわ起きるわでシズちゃんも大忙しだ。

「シズちゃんの活躍を見に行くだけで捕まるなんてさ、どうして消防士なんかになっちゃったの」
「毎回見に来るお前の方がどうかしてると思うぜ」

 シズちゃんの仕事が終わるといつも喫茶店に二人で入る。何故か俺の奢りで。シズちゃんいわく、奢らせてやってる、らしいけど。なんちゅー俺様だ。

「で、結局あの子はどうしてるの」
「あぁ、茜か?たまに会うと挨拶するくらいだな」

 この前シズちゃんは燃える家の中に無防備に飛び込んで、とある少女を救いだした。助け出された後もしばらくその粟楠茜という少女はずっとシズちゃんにひっついたままだった。あれはひっつき過ぎだった。お陰で俺はまだ俺の半分も生きていないガキに嫉妬するという初体験をしてしまったのだ。まったく、恨むぜシズちゃん。

「シズちゃんもあの時燃えれば良かったのに」
「お前は火事に巻き込まれて死ねば良かったのに」
「えーシズちゃんひっどーい」
「気色わりー」



 はっきり言って俺は放火魔が嫌いだ。嫌いだ嫌い。大嫌いだ。それほど嫌いなのだ。放火魔が俺の前に現れたらこう言ってやる。馬鹿野郎、すっこんでろ、死ね。この位は言う。あぁ、一つだけ付け足しておくと全世界の放火魔さんじゃあない。池袋限定。というよりシズちゃんの勤務時間に放火する奴限定。

「しっかし、この頃火事多いんだよなー」
 大忙しだぜと頭をかくシズちゃんだけど、全然疲れているように見えない。
「いいじゃん、シズちゃんタフなんだから」

 それに、と付け加える。
「俺、働いているシズちゃん見るの、好きなんだよね」
「…知ってるっつーの」
 わざわざ毎回見に来てるくらいだし、とブツブツ呟きながらシズちゃんはシェーキをすすった。
「あれー、シズちゃん顔赤くなったりしないの」
「なるかボケ」

 それから他愛のない話をいくつかしてから、シズちゃんがこの後用があるというので俺達は別れた。(スーパーの安売りがどうとか言っていた)

「ほんと、シズちゃんは楽しいなぁ」

 消防士になったと聞いた時は色々ショックを受けたけども。

「さーてと」
 俺がやったことの後片付けをさせるのが好きだった。高校の時は俺が軽ーく暴れてみて、キレた連中とシズちゃんを鉢合わせってーのがお気に入りのパターンだった。シズちゃんが俺がしたことだと気がついていないときは笑えた。

 高校を卒業してからはそれが当たり前じゃなくなってきて寂しかったんだよなぁ。

 でも、シズちゃんが消防士になってからは違う。ここんところは毎日だ。しかもシズちゃんは俺がやったことだと気づいていない、最高!

「次は何処を燃やそうかなぁ」
 ケータイを開いて含み笑いを漏らしたら、自分てサイテー、と今度は爆笑したくなってしまった。ほんと、シズちゃんは楽しい。

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