1:始まりのソラ

昔、昔のその昔。この世界に、1人の若者がいました。

小さな村で生まれたその人は、戦争ばかりしていたこの世界を変えるため、旅に出ました。

時に、人々に襲われても、その人は、人を信じることを止めず、仲間と共に歩み続けました。

そして、遂に、戦争を起こしていた悪しき者を倒し、この世界は一時的に救われました。

ですが、悪しき者は他にもいて、平和が訪れたのは本当に一瞬の事でした。

「地上の英雄」と言われたその人は、今度は神様の頼みで旅に出ました。

そして、とある人々から「不思議な鍵」を授かり、悪しき者の元へとむかいました。

「不思議な鍵」。それは、「奇跡の鍵」でした。

その鍵は地上の英雄に力を与え、この世界から全ての悪しき者たちを追い払いました。

それから、少し時間が経ってからのお話…。

かつて「地上の英雄」と呼ばれていた若者は、「世界の英雄」と呼ばれるようになりました。

この世界に、その英雄を知らない人など、ほとんどいません。

そして、今この本を読んでいるあなたも、英雄を知る者の一人なのです。


「…もう、寝てしまったのね」

「ああ…あの子は、この絵本を読むときだけ静かになる」

「ふふっ。もしかして、『英雄』の話が好きなのかしら」

「そうかもしれないな。だが、この話は迷信だろう?」

「あら、実は本当の話かもしれないわよ?」

「…それだったら、悩みなんか一つもない世の中ができただろうよ」

「まぁ、何をそんなにムキになっているのかしら?たかが迷信なんでしょ」

「な…」

「ふふっ。冗談よ」

「…!もう寝るぞ!」

「はいはい…。おやすみなさい」

「…おやすみ」


今は世界が動き始めてから何年目だろうか。もう、ここにはそんなことを覚えている人はいない。人々は膨大な時の流れの中を、浮遊物のように漂うばかりだ。
そして、この世界で言う「現在」では、とある森にて悩み事を膨らませている者がいた。
「う〜ん…どうしましょう…」
少女は精霊を、値踏みをするかのように見ている。
「双子の精霊だということはなんとなく分かりましたが…。どんな名前が似合うでしょうか」
独り言をぶつぶつと呟く少女。双子の、黄色い精霊はというと、キョトンとした目で少女を見ている。
「おい!いつまで待たせるんだよ!」
ああだこうだなどど少女が呟いていると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「シーマ…ごめんなさい。名前を決めるのに少し時間がかかってしまって…」
「ユノ、お前はいつもそんなんだろ。もういい。オレが名前を決めてやる」
シーマがユノを押し退け、精霊と対峙した。
「よし、バカとアホで決定な」
「適当すぎです。ていうか、バカでアホなのはシーマの方です」
ユノにさらっとツッコミを入れられたあげく、シーマの名前は却下された。当然だ。
「そうだよ、僕らは君ほどバカじゃないし、アホでもない」
「全く持ってその通り…あれ?」
ユノは精霊の方を向いた。
「今…喋って…?」
ユノが呟くと、精霊たちは待ってましたとばかりにそれぞれ左右片方しかない翼をばたつかせた。
「おっどろいた〜?」
「おどろいたでしょ!」
突如溢れるキラキラオーラ。やたら萌えを狙うアイドルさながらである。
「僕たち、双子の光の妖精の…」
「アルとイルで〜すっ!!」
ユノとシーマがポカンとしている中、アルとイルは最後に「ヨロシクね☆」と言って締めくくった。
「………」
2人は相変わらず呆然としながら双子を見つめている。双子はというと、予想以上の反応の無さに不安を感じ始めていた。
「あ、あれ…?」
双子がシーマに近づいて、様子を伺おうとした。そして目の前で翼を振り始めた瞬間、シーマが双子とは逆の方向を向いた。
「名前、決まったな。よかったじゃねえか。んじゃ行くか」
「反応薄っ!!」
呑気に歩き出したシーマに双子が鋭いツッコミを入れる。しかし、あまり双子に対して興味がないのか、シーマは言葉を返さなかった。
「ね、ねぇ、君は…?」
今度はユノに話しかける双子。自らのマスターであれば少しくらい良い反応を見せてくれると期待しているようだった。
「そうですね、早く準備も済ませたいですし」
下手するとシーマよりも酷い返事をしてユノも同様に振り返って歩き出した。
「2人して何なの!?これ新種のいじめなの!??人に散々恥ずかしいことさせといて反応最悪とか君たち鬼なの!!!???」
「え〜、まだ準備終わってないのかよ…」
「大体は終わってるんですけど、金平糖があと残り僅かなんですよ」
「何で前々から買っとかねえんだよお前は」
もはや双子のことを忘れているかのような振る舞いをする2人。アルとイルは、最終的にこう言うしかなかった。
「「お願い!お願いだから!!僕たちを置いてかないで!!!!」」
その後、双子はユノに申し訳程度に謝られて正式に契約を交わしたらしい。

これはちょっとした、「秘密」と「曖昧」の物語の始まりに過ぎない。


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