扉が閉まったのを見つめながら、自分も靴をはいて外に出る。ちょうど暇を持て余していたところだったから。

 その足でさっき電話した右京の家に行くと、仏頂面の右京が迎えてくれた。中に入ると、あの日拾われていった猫が、奥にあるソファの上でさっきの普のように丸くなっていた。冬だったせいもあるかもしれない。柔らかい毛で覆われたその体は、あの時とはまるで別の生き物のように丸々としていた。

 頭をなでてやると、猫は嬉しそうに喉を鳴らした。あの日のことは覚えていないのだろうか。猫というのはつくづく単純な生き物だと思った。

「名前は?」

「知らない」

「なんで? 自分の猫だろ?」

「俺のじゃない。いづみのだ」

 どうやら相当機嫌が悪いらしく、仏頂面のうえにさらに眉間にしわを寄せて、右京は座り込んでいた。それ以上は触れまいと、俺は右京から目を離す。

「いづみー」

 猫を床に座ったまま眺めながら、耳元で今つけた名前を呼ぶ。

「っお前!」

「ははは、よってくるぜ? アホだ、アホ」

 立ち上がって手に擦り寄ってくる猫をなでながら笑っていると、右京はちゃぶ台に頬杖をついたまま、俺に尋ねた。

「普に何かあったみたいだな」

「あぁ、まぁな」

「何があったんだ」

「彼女を強奪されたんだよ」

「強奪? 誰に?」

「さぁ、詳しくは俺もきいてない」

 俺が答えると、右京は「そうか」と呟き、心なしか小さな声で尋ねた。

「お前は、何もないのか?」

「さぁな、どうだろうね」

「お前だけは浮いた話を聞かないんだが」

「はは、周りが面白すぎて、俺の話なんて消えるんだろ」

「相変わらず食えない奴だな」

 ふっと呟くと、それから右京は俺達の様子を黙って見つめていた。

 俺が猫をなでるのにも飽きてきた頃、右京の方へ目を向けると、彼は目をそらしてふと立ち上がる。

「どうかした?」

「茶くらい出してやろうと思ってな」

「それならコーヒー頼む」

「あぁ、わかった」

 右京は振り返りもせずに返事をすると、調理台へと向かっていった。右京の背中から目をそらし、再び猫を見ると、猫は一声鳴いたあと、また体を丸くして眠ってしまった。


 5人とも、何も知らずに、いつの間にか繋がっていたようだ。これも何かの縁なのだろうか。

 傍観者というのは面白い。一人一人が自分のピースだけを持っている中で、俺は全てを繋ぎ合わせて完成品を見ることが出来るのだから。そして同時に、その完成品の中に、本人達にはわからないタイセツな物も見えてくるものだったりする。

 愛の形は色々だなんていうが、誰にも見えない、確かめようのないもの。そんな目に見えない形も、実はごくごく単純なもので、ただのまぁるい、角のないカタチなのかもしれない。

 人のつながりなんてそんなもの。きっとどこかで、見えない何かが繋がっているのだ。

 恋もそのうちの一つなんだから、きっと単純なものなんだろう。その角のないはずのカタチに引っかかって、その柔らかい曲面で傷ついて。案外、そんな繊細なものなのかもしれない。

 そんな失敗を、人は同じように繰り返す。どんなに時間が過ぎたとしても、どんなに時代が変わったとしても、いくら経験しても、勉強しても、変わらずに繰り返す。

 人間なんて、そんな、単純なもの。もしかしたら本当は、猫より単純なイキモノなのかもしれない。

END




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とっぷ りすと
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