「お前な、少しは考えろよ!」

説教くさい秋良の言葉を、俺はさも不機嫌ですと言わんばかりの顔で聞いていた。もちろん顔はそらしている。

「あんな場所で言うことじゃねぇだろ!」

「秋良が話題を出すから思い出したんだよ」

「人のせいにすんな!」

俺は飴玉を口に放り込み、母親みたいに叱る秋良に背を向けると、今度はそこに座っている綾と目が合う。

「アマちゃん、ほんに相変わらずだなぁ」

「悪いかよ、クソ」

「んーん、そんなとこが好き」

「きっしょくわりぃな」

「いや、マジで」

綾はハハ、と笑って「アマちゃんは寂しがりやなんだよな」なんて言った。

「でもさー、人間って所詮一人なんだよ、悲しい話だけどさ」

「お前それ、慰めてんのか?」

秋良は眉をひそめたが、綾は「慰めとるつもりだけど」と、呆気羅漢としている。

「どんなに話し合ったって総て理解することなんてできんし、どんなに身体を繋げたって融合とかできんわけ」

ひよのの言ってた言葉が重なって、苦しかった。

「吉崎が言うと説得力あるよな」

感心している秋良に「ねぇよ、カス」と吐き捨てる。

「こいつの読心術、異常だろ」

「んな術使っとらんし」

あはは、と笑って、綾は続ける。

「言ったろ? アマちゃんのそんなトコが好きって」

「だから、何? はっきり言えよ」

「アマちゃんはさー、そういう分かりやすすぎるくらいまっすぐなとこがいいわけ。だから、いつも通り素直に生きればいいだろ、って話」

「なぁ吉崎。お前それ、本気で褒めてるか?」

「褒めてるって。何よニノちゃん、今日はやけにつっかかんのな」

「だってお前、本気になるから傷つくだの何だのって、この前淳と二人で追い討ちかけまくってただろ」

「いや、俺達も素直に話したまでのことだって」

「素直に、ね」

俺が呟くと、二人はピタリと言葉を止めた。それから、俺の言葉を待つように、黙り込んで俺を見る。

「何だよ」

「いや、どうぞ」

珍しく真面目な顔をしてた綾だが、すぐにいつもの何かを含んだような笑みを浮かべる。

「話せよ、いつもみたいに」

促され、俺は一呼吸置いてから話し始める。

「素直に言えば、そりゃひよのと一緒にいたいよ。けどさ、それでいいのかって思うんだよ。俺は何もできなかったわけだし、また付き合ったってひよののことを傷つけるだけかもしれないし、結局ひよのの気持ちを俺は理解できなかったわけだろ? 言われたことさえ理解し切れてないのにさ、求められてるものを与えられるかっていえば無理だろ? じゃあ何で付き合うんだよって話になると、結局俺の自己満足ってことだろ?」

俺の中では結論が出てる疑問を二人に投げかけるように話すと、秋良は神妙な顔をした。

「お前ホント彼女中心だよな」

「恋愛なんて相手が彼女以外いねぇんだから彼女中心になるにきまってんだろ」

「いや、そうだけどさ」

「ニノちゃんは自己中のアマがそう言うのがすげぇって言っとるんだよ」

「何それ、失礼だな」

俺はあからさまにムッとする。こいつらは俺が自己中の代名詞のように言うが、俺だって理解できないだけで他人のことも考えるに決まってるだろ。

秋良は俺が不機嫌になったことがわかったのか、悪い悪い、と謝り、続けた。

「まぁ、俺が言うのも何だけどな、相手の気持ちがわかんないからさ、相手を中心に考えるわけだろ? それでいいと思うんだよ。でもさ、彼女だけで恋愛してるんじゃないんだからさ、普の気持ちも含めていいんじゃないか、って、思うんだけど」

どう? と、秋良に目を向けられ、綾は大きく頷き、うん、と一言だけ返事をした。




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