プロローグ



この世界は次元の壁が薄い。

違う世界だということははっきりしているから、壁がないとは言えないのだけれど、あると言ってしまうには互いに関わりすぎている。

どういうことかというと、ネバーランドという特殊なゲーム機を使って、三次元にいる私達でも、二次元の世界に行くことができるのだ。

その大きさは、よくある携帯ゲーム機より少し小さいくらい。片面にタッチパネルの画面、もう片面にボタンとタッチペンなどがついていて、折り畳むとポケットに納まるサイズだ。

使い方は簡単で、ネバーランドに自分のプロフィールが登録されたチップと行きたい世界のソフトを入れるだけ。これで創作物に登場するキャラクターと接点を持つことができる。

けれど、それは完全なものではない。壁が薄いといった理由がそれだ。

直接会えるのは基本的に夢の中。夢、というか、自分が眠っている時間を使う。
厳密には夢を見ているわけではなくて、詳しい理屈はわからないけれど、本当にキャラクターのいる世界に入っている、らしい。二次元と呼ぶ人もいるし、あっちの世界とか、ゲームの名前を取ってネバーランドと呼ぶ人もいる。もちろんそこは平面ではなく、三次元の立体世界で、こちらとなにも変わらない。だから、五感は通常通りに感じることができるし、記憶もしっかりと残っている。

それから、時間の感覚は一定していないけれど、大体が二次元での時間のほうが緩やかに流れている。二次元で眠ったときに戻ることもあるし、目覚まし機能を使って目を覚ますこともできるけれど、反対に、一夜にして数日間の体験をすることもある。

そして、それぞれが行ける世界はチップによって決まっていて、パラレルワールドになっているらしい。だから、同じ創作物の世界であっても、そこにいる現実の人間は、基本的に自分だけだ。

その他にも、現実にいてもメールや電話ができる機能や、カメラで撮影したあちらの写真を保存して、閲覧できるアルバム機能など、色々とオプションもついている。

ネバーランドは、最初は単なるシミュレーションゲームでしかなく、子供達が好きなキャラクターと会話できる、というのが売りだったらしい。当時は、画面の中のキャラクターが声に反応したり、言葉を入力することによってチャットのように会話をして楽しむものだったそうだ。

それがある日、夢の中でもキャラクターと会話した、という子供が出てきた。ネバーランドで遊んでいるうちに、電源をつけたままで眠ってしまったのだという。
それはすぐに噂になって、裏技のように子供たちが試しはじめたのだけれど、実はそれは本当で、電源をつけて近くにおいておくと、本当にその世界に入れるということがわかった。もちろん子供たちがそれを放っておくわけもなく、みんな次々にあちらの世界へ行って遊ぶようになった。

そうして、二次元に触れられるのが当たり前になっていくと、そこは現実と大差ない世界へと変わっていった。

その後、大人たちが研究した結果、二次元というのもひとつの世界であるという結論に達したらしい。ネバーランドはあくまでも次元を繋ぐ扉の鍵であって、元々二次元もきちんと存在していた、ということだ。

そんな風に、こちらとあちらが繋がっていくと、そのうち二次元のキャラクターと付き合う、という人まで出てきて、今ではもう、それが主な利用方法となってしまった。そのため、現在では中学生以上、もしくは高校生以上でなければ使えないように利用制限がかけられているソフトも少なくない。

けれど、それを除けば特別なルールはない。

世界によって設定は様々で、一緒に年を取る場合や取らない場合、種族が違う場合さえあるけれど、どういった世界であっても、そこはあくまで二次元。子供を作るどころか、結婚だってできないのだから。

それから、もうひとつ。

二十歳になると魔法はとける。

二十歳を過ぎてもゲーム機は生きていて、シミュレーションゲームとして遊ぶことができるし、昔の写真を見ることもできる。しかし、キャラクターはゲームに戻り、想い出はデータに成り下がる。もちろん次元を行き来することだってできなくなる。

夢はいつか醒めてしまう。

それがわかっているから、大人は何も言わない。

それがわかっているのに、子供たちは恋をする。


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