キイチゴ礼讃

2010/11/30 22:51


ホットケーキとミルクティを惰性でもって摂取しながら、卒論指導までの時間を読書で潰していた。指でブラインドに小さな隙間を作って外をのぞくと、まだ昼の二時や三時だというのに、夜しか知らないみたいな色をした空が其処にある。気まぐれな雨と風と雷と雪に翻弄されて、傘を差す人、フードを被り小走りをする人、まっしぐらに屋内を目指して駆け抜ける人。明日から十二月だというのは、あながち間違いでは無いらしかった。

雷雲が、なかなか遠くへと流れてくれないから、稲妻が私の視界を切り裂くたびに肩を跳ねさせてしまうものだから、とても面白い本だったのに思うように読み進められなかったのが心残り。しかし逆に考えると、読むべき面白いものがまだ手元にあるということなのだから幸せだ。



当たり前すぎるがゆえ、疑うことはおろか誰も気にも留めないようなこと。その綻びをつついて新しい何かを示すことが出来るかもしれない、ということを教授とお話しした。このテーマを殺すような粗末な研究をしてはいけない、それだけはずっと変わらぬけれど、そこに僅かな自信が備わりつつあるのを感じている。ゼミの回数を予定よりも増やして欲しいというお願いに承諾をいただいて、さあ私はやらねばならぬのだ、と気を引き締めた。



ボタンをぶら下げる糸の頼りなさ、靴下の爪先からちらりのぞく指、いい加減に片付けておしまいよと想像のなかのおばあちゃんが私に囁くから、久しぶりに裁縫道具を出した。黒と茶の縫い糸が入り用だったのだけれど、あいにく暗めの色は紺しか無かったので仕方なしにそれを用いることにした。裁縫箱の中身を補充するということをもう何年もしていないから、手縫い用には紺と水色と赤の糸しか備えられておらず、ミシンも無いのに白と黄緑のミシン糸が所在無さげに転がっている。せめて白と黒の手縫い糸くらいは買い足しておこう。



ちくちくと裁縫に勤しむ、厭に餓鬼臭い自分の手はどうしたって目に入り、そういえばマニキュアを塗ろうと思っていたことを思い出す。ひとたび思考にのぼるとそれしか考えられなくなるのが私の悪い癖で、最後のボタン付けが終わるや否や、夕ごはんのバターロールをオーブンに突っ込むのは忘れずに、隣のコンビニに走った。いつぞやのシマコさんのアドバイス通りに鮮やかな色をと、ラズベリーソースのような赤を選んだ。レジ担当をしていたのが友達で、身嗜みにまつわるあれこれを目撃されることにたいそうこそばゆい思いをした。

申し訳程度に整えた爪に乗せられたラズベリーを、ラメが入っているのがいささか残念ではあるけれども(化粧品のラメは好かない)、除光液を含ませた綿棒で周りの汚れをつついて仕上げた。ネイルに気を遣う方が御覧になったら卒倒するような出来かもしれないが、それでも私は何やら満足なのだった。私の手では無いような、変身願望めいたものが満たされた気分だ。







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