Shape of My Wings | ナノ



悪魔の国『サタニアス』を追放されて数日。銀髪の悪魔はひとり考え込んでいた。
今は、ある事件をきっかけに出会った冒険家の元にいる。しかし彼に、ここでぼんやりとしているような時間は無かった。
「レインー!」
名前を呼ばれて振り返る。白い仔猫が駆けてきて、それに続いて赤髪の少年の銀髪の少女がやって来た。まだ年端もいかない彼らこそ、世話になっている冒険家だ。
「何の用だ」
追放されたとはいえ、悪魔は悪魔。レインはまっすぐとした会話が苦手である。どうしても、どこか刺々しい言い方になり、たまに後悔はするが今さら改めるつもりもない。怪訝そうにする彼に、足元の仔猫がつっかかった。
「アンタがずっとぼんやりしてるから、心配して来たのよ」
悪魔相手にも物怖じしない、気の強い猫だ。名前はキャトラという。
「何か困っている事があったら遠慮なく言ってくださいね」
優しく微笑む銀髪の少女はアイリス。どことなく神聖な空気を纏った白の巫女だ。そして、そんな二人の様子を見ながら頷く無口な少年が、今いる飛行島の主だった。
「…テメーらには関係ねえ」
「てことは、やっぱり何かあんのね?もしかして、ホームシックだったり…」
「うるせえぞドラネコ」
「誰がドラネコよ!」
言い合いを始めるレインとキャトラをアイリスが宥める。
やがて、キャトラの執念に負けたのか、レインは大きく溜息をついてその場に座った。どうやら話してくれる気になったらしい。
「忘れものがあんだよ」
ひとりの少年を巡る上司との抗争。その場の勢いでサタニアス追放を受け入れたものの、彼には、そこに“忘れもの”があった。追放を受けた以上、取りに戻るのは容易くない。加えて、その“忘れもの”がサタニアスの外に出ることを望んでいるかどうか、彼には分からなかった。
「どこに、何を?」
「俺の…知り合いみてーなもんだ。まだサタニアスにいる」
レインの瞳が揺れる。それは、迷いと不安と…怒りにもにた不思議な色をしていた。
「そっか、あの場で追放を言い渡されたから…その人にはまだ伝えられてないんですね」
「“知り合い”ってのがなんだか引っかかるけど、おおよそアンタにとっては特別な存在ってわけね」
キャトラが「ははーん」と目を細めるが、レインは頭を横に振った。
「…別に、俺がそいつへの“伝達係”をやってたってだけだ」
「“伝達係”…ですか?」
アイリスがきょとんと首を傾げる。レインとその人がどういう関係性なのか、パッと聞いただけではイマイチ掴みづらい。
「何それ、まさか…幽閉されてる伝説の悪魔!とか言わないわよね」
「そんなんじゃねえよ」
「じゃあ、“伝達係”がいるなんて、どんなヤツなのよ?」
キャトラが尻尾を太くして追及すると、レインは難しい顔をして押し黙った。眉間の皺が一層深くなる。そして、彼の薄い唇が迷った先に捻り出したのは、誰も予想していなかった答えだった。

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