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敵を倒せる力――それは、ヒーローに最も必要とされている要素と言っても過言ではない。
それを前提として、天音の『啓示』について考えた時、敵の攻撃を見切り優位に反撃をしたところで、少女の素の力だけで相手を負かすのは相当厳しいものがある。強化系の個性を扱う者が相手であれば尚更だ。
そのためのサポートアイテムが捕縛武器となるわけであるが、千差万別の『個性』がある以上、それでも歯が立たない相手は必ずどこかに存在する。
最善を示し導く『啓示』と言えど、全てを勝利に結びつける魔法のような個性ではないのだ。
つまり、己の身を守ることを考えるならば、“逃げる事”が最善である場合も当然有り得た。

立ち並ぶ無機質な建物を背景に、2つの影が対峙していた。1人はフィールド内を漂う風にふわりと長い髪を靡かせている。
彼女が――御詞天音が装置のあった建物から屋外に移動した理由は簡単だ。
1つは、起爆装置の解除を終えて自由に動ける身となったから。そしてもう1つは、やってきた敵が人命救助中である轟焦凍の方へ向かおうとしているのを察知したからだ。
救援の邪魔をさせるわけにはいかないと、彼女は1人で敵の前に立っていた。
「キミが、噂の転入生かな」
「はい」
「ヴィラン役をと依頼を受けて来たわけだが、キミならもう分かっていると思うんだ」
敵役は、奇妙なことに可動式の人形のような姿をしていた。
ここで天音が察知した情報は、それが“本体ではない”こと、目の前のそれは文字通り“人形”であり、倒したところで敵本体には殆どダメージが無いこと、そして…相手の攻撃の選択肢が多すぎることだ。
「…“お導き”は受けたかな?私との相性は最悪だろう。逃げることをオススメするよ」
さすが雄英の依頼を受けた敵役といったところか――相手の分析は的確で、情報整理も早かった。ここまでは悔しいほど、相手の言うとおりだ。
敵の多すぎる攻撃手段の全てを見切り封じることは非常に困難であると、彼女の『個性』は既に“従いたくない最初の結論”を出していた。
結論――『啓示』に従うなら、天音自身にとっての『最善』は、この場を離れ援護を求めることだ。
しかし、天音はその結果に従うことが出来なかった。

「…救助対象者を巻き込むことはできませんから」

理由は至極単純だ。ここで自分が応援を呼びに退けば、パートナーである轟焦凍の『最悪』に繋がる可能性があるからだ。
彼自身と彼が担っている救助活動にとっての最善は、敵襲が及ばないこと――つまり、天音がここでヴィランを食い止めることだった。
「わたしが、あなたを止めないといけないんです」
「…いい判断、と終わった後に言えるといいね」
「今の最善ではなくても、時間が流れる限り次々と新しい道が見つかる筈だから…わたしは、未来の導きに賭けます」
『啓示』は、時の流れと共に、移り変わる状況と共に、次々と更新されていく。
御詞天音が“逃避”という今の最善を選ばないのなら、彼女の個性は次に起こりうる戦闘で最善の手を示す。
その手を取るか取らないかは、天音自身の判断に委ねられていた。

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