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こいねがう夢路の先

自分が父親になるなんて、想像したことが無かった。
育ってきた環境を呪うつもりはないが、“恵まれていた”と胸を張って言えないのも事実で、父親が父親であっただけに、思い描くことができなかった。とはいえ、あの両親がいて、育った環境がああだったから今の俺がいるのであり、大嫌いだった父親とも昔ほどの確執はない。それ自体は、無茶でお節介なクラスメイト…もとい、緑谷出久のお陰だが。
結局子どもにとって、両親という存在がどうしようもなく両親でしかないのは、自分がよく知っている。辛い記憶の方が多かろうが、俺にとっての家は、やっぱりあの家だった。
だけど今は――帰りたい“家”が他にある。


:: こいねがう夢路の先 ::


「おかえりなさい」
と、ぼんやりとした景色の中で君が言った。次いで、それとは違う小さな高い声が聞こえてくる。
「パパ、わたし見てたよ。今日のニュース!」
「この子ってばね、“自分も絶対ヒーローになるんだ”って張り切っちゃって」
ふと見下ろした先には、小さな女の子と男の子が一人ずつ立っていた。
「ぼ、僕はね、ヒーローはちょっと怖いけど…学校の先生になりたいんだ。パパみたいにね、強い先生がいたらいいなって」
パパ…そうか、俺は父親になったのか。
曖昧模糊とした意識の中で、小さな頭に手を伸ばしてそっと撫でてみる。柔らかすぎて掴めないくらい、大切な宝物だと分かった。自分にとっての子どもが、どんな存在であるかを知った。
視線を上げると、誰よりも強く、かけがえのない美しい人が、ニコリと微笑んだ。
「二人とも素敵な夢を持ってるの。きっと、焦凍くんが憧れのパパで、みんなのヒーローだからだよ」
俺の血を宿した小さな命のそれぞれが、“自分のなりたいもの”を胸に笑っている。それに優しく寄り添う君の姿は、あの頃の母に似ている気がした。
だから、子どもたちが“それぞれの夢”を抱き笑顔を見せているのは、俺がヒーローだからというわけじゃない。家庭環境が子どもに与える影響の大きさを考えれば、その理由は間違いなく、
「…なまえが母親だからだ」
君が君であり、俺の妻であり、彼らの母であり、ヒーローだからだ。
そう言うと、彼女の顔が一瞬だけ驚きの表情を浮かべ、
「あ、それもあるかも」
なんて、冗談めいた声でまた笑った。
その姿が尊くて、眩しくて、僅かに差し込む光の中へと消えていく。幻のように、ゆっくりと、美しい景色が頭の中を剥がれ落ちていった。
動きを取り戻した瞼をそっと開けると、見慣れた天井がそこにあった。朝の光の中に、幸福な記憶が吸い込まれていく。
――そうか、夢か。
布団を退けて半身を起こし、もう一度だけ瞼を閉じた。そうして、回らない頭で俺は考えた。
何故、夢の中のぼんやりとした人影を、“あの子”だと思い込んだのかを。


・・・


寮の部屋から出て、一階にある共同スペースへと向かう。
エレベーターの扉が開き広い空間に出ると、ちょうど女子棟の方からやってきたみょうじなまえが食堂に入ろうとしているところだった。
追いかけるように足が早まったのは、今朝の夢の残りをまだ抱いていたから。
まだ遠い先の話でも、あれが正夢になればいいと思ったからだ。

「みょうじ、ちょっといいか」

君はいま、どんな未来を描いてる?



Fin.

50000hit記念にいただいたリクエスト
『結婚して子供がいる夢をみる』
夢主さん視点で書こうかと思ってたのですが、結局、轟くんに語ってもらいたいなという私の欲望をぶつけました。
リクエスト&ご投票ありがとうございました! ――2017.5.26


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