PERSONA5 the FAKE | ナノ


09

・・・

翌日の放課後、蓮たち四人と一匹は再びあのあばら屋の前へと集合した。昨晩、杏が連絡を取ったところ、祐介は警戒することなく受け入れてくれたらしい。チャイムを押すと彼はすぐに出てきた。男性陣を見て再び怪訝そうな表情を浮かべる。

「高巻さんだけだと思ってたんだが」
「監視だよ。お前が変なことしねえように」

竜司の言葉に、祐介は小さく息をこぼした。

「妙な勘繰りはやめてくれ。彼女に異性としての興味は一切無い」

喜多川祐介は、どこまでも芸術に一直線な少年だった。杏ほどの美少女に対してそう言い切ってしまえるところがいかに彼らしい。安心と言えば安心ではあるが、「それはそれで複雑だわ…」と杏は溜息まじりに呟いた。ともあれ、ひとまず全員アトリエへと入れてもらう事になった。
表向きでは杏が絵のモデルをしているが、雰囲気が良くなってきたところで本題を切り出す予定だった。他の三人とモルガナは基本的には待っているだけという、なかなかに根気のいる計画だ。
祐介の作業を邪魔しないよう、会話も殆どなく時間だけが過ぎていく。モルガナは途中で暇を持て余し出て行ってしまった。
それから何時間くらい経っただろうか。筆を止めた祐介が深い溜息と共に肩を落とした。

「ダメだ…」
「…は?」
「今日は…ちょっと調子が出ない。悪いが日を改めさせてくれ」

見るからに元気がない祐介に、四人は顔を見合わせた。杏が小さく頷いて、口を開く。

「あの、ちょっと待って!ごめん、今日ね…話があって」

そう切り出され、祐介は顔を上げた。すかさず竜司が話を切り込む。

「お前んとこの先生の噂だよ」
「またそれか…」

祐介は視線を床へと落として顔を顰めた。咲が椅子から立ち上がり、祐介の方へ一歩近付く。

「ねえ、わたしが個展で話をしたあの絵…本当は、喜多川くんが描いたんでしょう?」
「それは…」
「やっぱり、そうなんだね」

咲が好きな絵だと褒めたその作品を、あのとき祐介は遠回しに否定した。斑目の名前で展示され評価されている自分の絵…彼にとってはつらい一枚だったのだろう。

「お前の先生、やべえぞ。弟子をただの“物”だと思ってやがる。盗作だろうが虐待だろうがお構いなしってワケだ。言っとくが、俺らに隠し事は通用しねえからな?」

腕を組んだままそう詰め寄る竜司に、祐介は立ち上がった。怒りと悲しみと迷い…感情が複雑に入り混じった表情を浮かべている。

「やめてくれ…」

捻り出された悲痛な訴えに、その場にいた全員が言葉を見失った。

「お前たちの言う通り、俺たちは…先生の『作品』だ。だが、勘違いしないでくれよ?俺は、自分から着想を譲ったんだ。これは盗作とは言わない。先生は今…スランプなだけだ」
「喜多川くん…」

咲の耳には彼の奏でる不協和音が聞こえてくる。ただ、それをどうしてあげればいいのか分からない。間違いなく苦しんでいるのに、どうやって道を開いてあげればよいのか分からなかった。何か言わなければと再び唇を動かしたその刹那、隣にいた人物が動いた。

「だから我慢するのか?」

蓮だ。彼のストレートな言葉は、的確に芯をついてくる。自分の心と向き合う瞬間を与えてくれるその巧みな技は、まるでマジックだった。
祐介が蓮の声にハッと顔を上げる。しかしすぐに眉を顰めて拳を握った。

「俺は、弟子として先生を支えている。それの何がいけない?身勝手な正義を押し付けるな!」

ゆっくりと椅子へ腰を落とした彼は頭を垂れ、冷静に…しかし確かな怒りを込めて言い放った。

「二度と来るな…。次は迷惑行為で訴えてやる」
「待てよ!話は済んでねえんだよ!」
「なら仕方ない、通報させてもらう」

そうスマートフォンを手にした祐介の目は本気だ。咲が慌てて止めに入ると、彼は少しだけ考えてスマホを机の上に置いた。

「…彼女に免じて通報はやめよう。ただし、条件がある」
「条件?」
「高巻さんにモデルを続けてほしい」

提示されたのは意外にもまともな条件だった。もっと無茶なものが来るかと思っていた手前ホッとする。

「でもさっき『ダメだ』って…」

杏が目を丸くしながらそう問うと、祐介は首を横に振った。

「あれは、俺が無意識に君に遠慮してしまっていたからだ。君がすべてをさらけ出してくれるなら、俺も全身全霊を込めて、最高の裸婦画に仕上げてみせる!」

真顔でそう言う祐介に、全員が言葉を詰まらせた。

「ら、裸婦ぅ!?」

一番衝撃を受けているのはもちろん杏だ。通報しないことを条件にヌードを迫られるなど、当たり前だが想像していなかった。

「そろそろ新作を先生に提出しないと、いろいろ…不都合がある。君に合わせていつでも予定を空けるが、個展が終わる頃までには来てくれ」

蓮たちが反論する間もなく一方的に話が進み、そのまま全員、あばら屋の外へと追い出された。ぴしゃりと閉じられたら扉を暫く見つめ、ひとまず向かいの歩道に異動して話し合いを始める。もちろん、一番の問題は杏のヌードモデルだった。


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