BADEND 1[ブロリー編] ブロリーは、捕らえた男を見詰めていた。 男――孫悟空はブロリーに打ち負かされ気を失っており、目蓋を伏せたまま身動ぎもしない。 それを好機と、石の寝台に寝かせ、金色の枷と鎖で四肢を繋いだ。枷には碧色の宝石が嵌め込まれ、その拘束具はブロリーの力を抑え込んでいた制御装置と似た性質を持つ。ブロリーの力を基準に開発された物故に、力の劣る彼では、きっと逃れる事も出来ないだろう。 パラガスは彼を調教して配下に加えるつもりだったらしいが、息子に殺され、今や叶わぬ野望となってしまった。 白い肌に惹かれて、ブロリーは鍛え上げられた胸筋へと手を置いた。力の抜けた肉体は柔らかく、その太い指を食い込ませる。 同じ日に産まれた同じ年の男とは思えぬ程、幼さを残した顔を覗き込み、もう片方の手で頬をなぞった。 そこで、孫悟空は意識を取り戻す。 覚醒し立てで最初は状況を把握出来なかったのか、束の間大きな目を瞬かせていたが、次第にその顔付きが険しくなった。 彼はブロリーを押し退けようと(或いは突き飛ばすつもりで)、腕を動かした。が、普段の力は出せない。そして漸く、枷に繋がれた四肢に驚き、ブロリーを見上げる。 「……何で、オラを殺さなかった?」 黒髪に戻った現在のブロリーには、疾うに殺意はない。それが、彼からすれば不可解で信じ難い事なのだろう。あれだけ殺したがっていて、剰え一方的に此方を嬲り殺せる戦況であったと言うのに。 そんな彼の疑問に、ブロリーは答えてやる。 「お前はいつでも殺せるからだ」 「じゃあ、今殺さねえのか?」 「殺さない。……満足した」 「?」 妙な返答に、混乱する孫悟空。しかし、ブロリーの言葉をじっくりと噛み砕いて行くと、ある理由に繋がる事を悟った。 「悟飯は!! ベジータやトランクス……みんなは!!」 「殺した」 「……!!」 「今頃、あの星は彗星と衝突し、滅びた筈だ。親父がそんな話をしていた」 孫悟空はワナワナと体を震わせて、ブロリーの首飾りを勢い良く掴んだ。ただ、それ以上の攻撃は無駄だと本人も良く知っている。睨み付け、行き場のない怒りをぶつけようとし、一頻り悩んでは項垂れた。 「オレ達は今、宇宙船にいる。お前を捕らえているそれは、親父が作らせた、力をセーブする道具らしい。元々お前に使う予定だったから、オレが持って来た」 「……外してくれねえか」 「外せば逃げるだろう」 「……なら、殺せよ。どうせ殺すんだろ」 「殺さない」 今度は強ばって固くなった胸を、力任せに鷲掴む。 「……いっ、て!」 「だが、オレの子を産めば、逃がしてやる」 「!? で、出来るワケねえだろ! オラは男だぞ!!」 そんな事は、百も承知だ。 ブロリーは微笑む。その笑みをどう捉えたのか、彼は目を見開いた後、まるで懇願するように、切実な眼差しを向けた。 「……死ぬなら、闘って死にてえ」 「不可能だ。オレの意思は変わらない」 「……」 「自分で死ぬか? オレは止めないぞ、カカロット」 自死すれば、恐らく地獄行き。そうなれば、二度と界王にすら会えなくなる。己の予感を恐れたのか、はたまた別の理由があったのか、孫悟空は敢えてその選択肢を避けた。 ブロリーにとっては、どちらでも良い。 生きていようが生きていまいが。 生きていた方が、より反応を楽しめると言った些細な違いだけだ。 彼はとうとう諦めて、自ら寝台に横たわった。 「好きにしろよ、ブロリー」 その言葉を聞いて、ブロリーは己が再び満たされて行くのを実感した。 End 2017/12/08 |
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