8 ややあって、意識の戻った悟空が目蓋を開く。 眼界に映ったのは、己を覗き込むようにして愁眉を開くデンデと、傍らに佇むピッコロだけで。 「……ベジータは?」 ゆくりなくも開口一番漏れた言葉に、悟空自身が非常に面食らったらしく、暫時瞠若する。 「ベジータさんなら、あなたを預けてすぐに……」 「そうか」 デンデの言葉尻へと重なった静かな響きは、事実のみを淡々と受け止めている風に聴こえた。 それを横目に見て、ピッコロはベジータだけでなく悟空にも微量だが、変化を感じ取る。 長らく強敵との戦闘以外には示されなかった関心が、他人へと向けられているのだ。 徐に起き上がる悟空から、血と汗に混じって違う人間の体臭が香る。 その匂いは先程まで会話していたベジータの物とそっくりで、ピッコロは何だか居た堪れない気分に陥った。 「じゃあ、サンキューなデンデ!助かったぜ」 「いえ……。お礼ならベジータさんに言って下さい。ボクはただ、ほんの手助けをしたまでです」 「ああ」 悟空はデンデに感謝を告げ、タイルを敷き詰めた天高き足場の途切れるギリギリから、下界を見渡した。 次いで怖じ気もせず一歩を踏み出した彼に、ピッコロが手を翳す。 「!」 「そんな格好では、皆が憂うだろう」 血に染まり、どす黒いボロ切れのようだった道着が、光輝いた瞬間パッと綺麗な山吹色に変身していた。 いつもながら見事な魔術である。 思わず感嘆の息を漏らした悟空は、さやかな笑顔でピッコロへの礼と、軽い別れの挨拶を投げかけた。 そして神殿から少しばかり降下した先に在るカリン塔へ寄った後、彼の気配はこの区域から瞬時に消え去ったのだった。 |
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