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6


不味い、とベジータが焦燥を露わにした。これ以上の変化を許せば、いずれは自分の手に負えなくなってしまう。

「うあ、う、ああああ──っ!!」
「カカロット!!」

コントロールの出来ない、宇宙を造作もなく破壊してしまえる程の凄まじい力に苛まれ、叫喚を上げる悟空。
苦しみ悶えるその姿は、痛々しいばかりだ。
やむを得ず、ベジータは彼を押し倒し、環状の光弾でその四肢を床に固定する。
次いで抵抗を奪った相手の腹部に跨り、胸元へと右手を翳した。左手はそれを支えるように添え。


「よく聞け!今からオレ様の気をキサマの中に注入し、内側から病原菌を始末してやる!下手をしたら死ぬが、これしか方法はない、いいな!?」
「……荒療治って、レベルじゃねえ、ぞ……それ」
「キサマなら耐えられるさ。いや、耐えてみせろカカロット!!」
「ああ、治るってんなら何でもいい、や……」


言い終わるや否や、掌に集結した大量のエネルギーを体内へ打ち込んだ。勿論、フルパワーである。
常人なら即あの世逝きだろうが、彼はそんなヤワな男ではない。ベジータに躊躇いは微塵もなかった。

本来ならばコールドスリープにでも掛けて、安全且つ堅実な治療法を探すべきなのだろう。
然れども発病して間もない期間ならば兎も角、ここまで病状の悪化が顕著になっていては、悠長な話をしていられないのが現実だ。
当然、感染者本人の力で駆除を行っても効果がないが、このウイルスは外部からの攻撃に殊更弱いのが救いである。

(カカロットを凌駕する、悟飯程のパワーがあればマシな作業だろうが……オレでは時間が掛かる、クソっ!)

全ての病原菌を駆逐するには最低でも三日は必要だ。
先に此方の体力が尽きねば良いが。と、ペース配分を考慮していれば、強制的に受け入れさせられた他人の力に拒絶反応を起こしたのか、悟空の体が大袈裟に揺れた。
直後に吐血。
開始してたったの数分だと言うのに、目に見えて無理が生じている。

「ゲホッ、ゲホッ!……あ、が、ァアッ」

強靭な心身を持つ男であれ、こんなにも大きな負担となるのか。
唇を血液で汚しながら喘ぐ悟空を目にして、ベジータは悲痛に顔を歪めた。

放って置けば、限界を突破したエネルギーに体を壊されて絶命するか、地球諸共滅ぶかのどちらかしかないのだ。
今更取り止める訳にはいかない。
乱暴な遣り方なのは承知だが、みすみす死なせてしまうよりは多少無茶だとしても行動を起こす方が何十倍も良かった。


「耐えろ、カカロット……!」

耐えてくれ。


危機的状況に出くわして、冷徹ではいられない己の弱さがもどかしい。
これが数年前までの、彼を敵視していた頃ならば問答無用で見捨てられたろうに。
ベジータは漫ろに自嘲する。

もしもこの治療が功を奏すれば、有りの儘、想いを伝えてみるのも手だろうか。
それで、彼が自分に二度と微笑み掛けてくれなくなったとしても、悔いはない。


──オレはお前を愛してる。愛しているんだ、カカロット。


長年張り続けていた意地を捨て、心の向くままに示したのは途方もない親愛の情だった。
ふと、気持ちが軽くなったと感じたのは、多分錯覚ではないのだろう。











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