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真夜中のディナー


深く腰掛けたソファー、二人きりの寝室、窓から覗くのは闇に包まれた深更の街並み。
カプセルコーポレーション。西の都で一、二を争うほど広々とした住居内では隣室の音すら聞こえやしない。
だが、嫌に静まり返った夜の空気も今では慣れたものだ。


ふと、暇潰しに開いた本を栞も挟まずパタリと閉じる。
読書など、どうせ奴を帰らせる口実を作る為の行動で、端から読んでなどいなかったが。
体を動かさない時間は退屈だ。
思わず溜め息を吐けば、許可もなく人の太腿に乗った頭が此方を向いた。
ここが他人の部屋と言う事実すら脳内から擲っているのか、オレは一人悠長に寝転ぶカカロットを複雑な心境で見下ろす。

「もう帰れ」

幾度目かの忠告は、やはり聞き入れられる筈もなく、ひんやりとした空間に溶けるのみで。
クン、とオレのシャツを引いた指は柄にもなく甘えているかのように縋り付く。
どうやら誘っているらしい。緑の双眸が挑発的に歪んだ。

「カカロット」

呆れ混じりに男の名を呼ぶ。
そろそろ就寝時間だ、駄々を捏ねるな。
殊更言い含めるニュアンスを繰り返せば、奴は徐に上体を起こし、オレの頬を軽く抓った。
何の真似だ。
怒りを露わに窮追してやろうと身を乗り出すも、やんわり肩を押し返され背もたれに沈む。

すると、これまた勝手にオレの腹へと跨ったカカロットが、人差し指を唇に当てて微笑んだ。
その指先が、まるでチャックを施すようにこの唇をなぞっていく。


「もうオラ、泊まるって言ってきちまった」


男は悪戯っぽく囁いた。奴の姿を映し出していた視界を、そっと閉じる。
今度は此方が、拳でカカロットの額を小突いてやった。


そう言う事は早く言え。



end








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