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深夜の憂鬱


数週間ぶりに二人で過ごす夜だった。


修業の合間、何となく浮かべた相手の顔に会いたくなり訪れてみれば、快くとまではいかなくとも室内へと迎え入れてはくれたベジータ。
けれども此方は暫時手持ち無沙汰なまま。
話し掛けても小難しい本に心奪われる彼が憎らしくて、悟空は無理矢理相手の腰へと跨ってやった。

直ぐ様眉間に刻まれる深い皺すら見なかった事にし、案外スラリと長い指先から本を取り上げる。
そうして不意打ちにキスすると、まず相手の機嫌は浮上したけれど。


「なあ、やろーぜ?」


身体を擦り寄せて甘えるように上目遣いをし、自分なりのおねだりを口にして。
普段ならそれだけで無愛想な男は狼へと変貌を遂げるのだが、この時は違った。

ヒョイと近付けた唇を掌で拒まれ、彼は鋭い眼差しを困惑気味に背けながら告げる。

「ダメだ」
「えぇっ!?何で!」

自分の唇を塞いでいた彼の手を退かし、悟空は不満げに疑問を投げつけた。
可笑しい。大体常日頃から盛って来るのはあちら側だと言うのに、誘惑されて乗らないなんて妙だ。

悟空はベジータが病気なのかと心配してみるも、そうではない様子。
ならば自分に飽きたのか、と聞けば首を横に振る。
じゃあ何なんだ、と遂に煮え切らないベジータへ憤慨した悟空は、髪の毛を金色に逆立てて半ば脅しも込みで問い質した。
すると。


「ゴムが……切れた」
「は?」
「だから、今はゴムがないと言っているんだ!二度も言わせるな!!」


逆ギレて顔面を真っ赤に染めたベジータは、碧眼を見開いたままポカンとした間抜けヅラを晒す相手の身体を押しのける。
どうやら密着していると、なけなしの理性が保たなかったらしい。
しかし悟空も食い下がる。
久々に自分から誘ってみたら実に(彼にとっては)下らない理由で断られたのだから、それも仕方ないと言えば仕方ない話。

「んなの、オラは気にしねぇって!ナマでやりゃあ良いじゃんか」
「貴様が良くてもオレが許さん!大体貴様が気にしなくてどうするカカロット!!一度は病気で倒れた身だろう!!」
「……ベジータ」
「オレは、あんな貴様の姿はもう二度と……っ!おい、聞いているのか?」


思わず口元がにやけていたらしく、ベジータの不審そうな瞳が自分を見ていた。
だって、嬉しかったんだ。
何だかんだと文句を垂れながらも、必死で気遣ってくれている彼の優しさを改めて実感したのだから。

「でもベジータ。おめぇあん時、病気のオラを蹴っ飛ばしたろ?」
「それは貴様が不甲斐ないからだ。あんなガラクタ人形相手に押さえ込まれやがって……」
「ははっ!そういやアレ、結構ヤバかったんだよなあ。おめぇが助けてくれなきゃオラ、確実に殺されてた」
「……」
「ありがとな、ベジータ」








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