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!あてんしょん! ・賢斗が誰おま ・真希も誰おま ・本編とは何の関係も無い ・s/u/p/e/r/c/e/l/l/の/告/白/からの引用あり ・タイトルを気にしたら負け ・文才が来い それでもおkならどうぞー ******* ぽつり、と雨が落ちてきたのを感じて賢斗は重い瞼を開いた。 真っ先に目に飛び込んで来たのはどんよりと濁った灰色の空。 お世辞にも綺麗とは言えない空の色にしかし賢斗は自分にはお似合いか、とうっすらと自嘲した。 (…しくじった、なぁ) らしくない、と思った。 ・・・・・・・・ 依頼でもないのに態々人間に会いに行ったりして、挙句殺すだなんて。 理由なんて分かってはいるけれど認めてしまうのは癪だった。 (……君のせいだよ、真希) 君が、誰かの笑顔の為なんかに誰かを犠牲にするから。 そうして恨みを買うから。 俺のところに依頼をしに来る奴が現れるんじゃないか。 別に、真希を殺すのが嫌だったわけではない、と賢斗は言い聞かせる。 ただあれだけ賢斗を振り回しておいて、第三者の横槍で終わらせるのが気に食わなかっただけだ、と。 終夜賢斗は人類全てを憎んでいる。 全ての人間は、賢斗の復讐対象だ。 例外は、あり得ない。 雨脚が少しずつ強くなって行く。 結局、賢斗自身も大怪我を負ってしまい、とてもじゃないが動けない。 更に不幸な事にここは人気のない路地裏だ。 誰かが血塗れの賢斗を見つける可能性は低いだろう。 (このままだと死ぬよねぇ… まぁ、それも良いか) いつ刺されても文句を言えない立場だ。 寧ろここまで生きて来られただけ僥倖だろうか。 ただ、自分に復讐するのは自分だと決めていたのだけれど。 (あぁ、でも…結果的に彼の為に死ぬのなら……これ以上俺にとって復讐になることは無いな) くっ、と口角を上げて嘲笑を浮かべた。 人間を何よりも憎む自分が、人間の為に死ぬなどなんという皮肉だろうか。 尤も、自分の死そのものがある程度とはいえ世の為人の為になるのだろう。 (……静貴) ふと、今はもういない育ての親を思い出す。 賢斗は無論神やらあの世やらを信じてはいなかったけれど、仮にそういうものがあったとして、自分は静貴と同じところにはいけないだろうと思った。 それでも良いと、この生き方を決めたのだから特に後悔はしていない。 (…もしかしたら、君は俺と同じところに来るかもね、真希) 真っ直ぐなようでいて、その実かなり歪んだ生き方をしている彼なら或いは。 「それは…勘弁だなぁ……」 死んでまで君と一緒の場所には居たくないな、と少し笑ってそう呟いて目を閉じようとした時、聞き慣れた声が聞こえた。 「……賢斗…?」 重い身体を無理矢理動かして声の主を見ると、驚きに目を見開いている真希の姿があった。 何故こんなところに真希がいるのだろう、とぼんやりと考える賢斗に慌てて真希は駆け寄った。 「賢斗!?どうしたの、血が…!」 「…刺され、たんだから、当たり前、でしょ……」 君のせいだよ、という言葉は呑み込んで酷く億劫そうに言うと、真希は素早く携帯を取り出して何処かへと電話した。 それが済むと血を止めようとするかの様に賢斗の傷口を手で強く抑えた。 「……痛っ」 「ごめんね、賢斗。でも、もうちょっと我慢して…! 後少しで、医者が来るから!」 血を失い過ぎたせいか、頭がぼんやりして真希の言葉がちっとも入って来ない。 ただ、真希が珍しく泣きそうな顔をしているのに気がついた。 賢斗の知る真希は、いつだって笑顔だったから。 「…なんで、ないてるの……」 「泣いて、ないよ…ねぇ賢斗、死なないで、お願いだから」 そうしていつもみたいに、君独自の哲学を聞かせてよ。 「…しぬな、なんて……そんな…無責任な、こと…」 「賢斗…?」 ふっと笑った賢斗を真希はいつになく不安そうな顔をした。 あぁ、全く、なんで最後に見るのが君なんだ。 いつだって君は、俺のそばに居ていつだって君は、俺の思い通りに動いてくれない。 “まぁ僕は賢斗のそういうとこ、嫌いじゃないけどね!” 突然ふらっと旅に出たかと思えば、何度でも、性懲りも無くそう言って俺の前に現れる。 いつからか、“嫌いじゃないけどね”が“好きだけどね”に変わっていたけれど俺はそれに気がつかない振りをした。 終夜賢斗は、人間全てを憎んでいる。 例外は、あり得ない。 あっては、ならない。 ……はずだったのに。 本当は、分かっていた。 人間が嫌いだと言いながら、そばに真希がいる事を許した理由も、他人からの依頼で真希を殺す事に苛立った理由も。 分かっていたけれど、分からないふりをした。 そうでなければ、今まで自分を保っていたものが壊れてしまうと知っていたから。 (あぁ、傑作だ) 賢斗は不安そうに自分の顔を覗き込む真希に手を伸ばすと、そっとその唇に触れた。 「賢、斗…?」 「…真希、俺はね……静貴の、為に、生きると決めた…」 「……っうん」 「だから…真希……君の為に、死ぬことに、するよ…」 他でも無い、君の為に。 俺のこの左目を綺麗だと言った、俺を好きだと言った、物好きな君の為に。 その言葉を聞いた真希は目を丸くして賢斗を見るが、賢斗の瞳は既に閉じられていた。 「賢斗…ねぇ起きて、起きてよ賢斗。 僕はまだ君の笑顔を見てないんだ。 嫌だ、死なないで、賢斗、僕は、」 ーー君が好きなんだ。 そう言って真希は、賢斗の身体を強く強く抱きしめた。 夢を、見た。 どこか懐かしい暖かさに包まれた夢を。 “賢斗、お前は生きろ” 誰かに、そう言われた気がした。 目が覚めて最初に思った事は、あぁ、生きてたのか、だった。 死にたいわけでは勿論無いのだが、自分は中々しぶといらしい、とそっとため息を吐いた。 それよりここは何処だろうか、と自分の事務所とは違った白い空間を見回した時、がちゃりと音がして扉が開いた。 「賢斗…!」 「……真希?」 部屋に入ってきた真希は上体を起こしている賢斗を見てほっと安堵の息を吐いたと思うと勢い良く賢斗に抱きついた。 「良かった…!本当に、もう賢斗死んじゃうかと思って僕…!」 「いっ…!?」 途端に腹部に走った鋭い痛みに顔を顰めた賢斗に気がついた真希は慌てて身体を離す。 「ごめん痛かった!?」 「痛いに、決まってる、だろ…!」 「ごめんって!僕ドクター呼んで来るね!」 真希のその一言で自分の居場所を理解した。 勿論、戸籍の無い賢斗は普通の病院にかかる事など出来ないし、それは真希も知っている事だから真希の言う医者は闇医者だろうと判断する。 案の定、その推測は間違っていなかった。 何故“一般人”である真希が闇医者と知り合いなのかとも思ったが、彼の交友関係は妙なところまで広い事を思い出した。 医師によれば、もう命に関わる状態では無いが傷が塞がったわけではないし、負傷してから日も経ってないので恐らく発熱するだろうから暫く安静にしていろとの事だった。 他人のテリトリーに留まる事を好まない賢斗は不満気だったがこの身体では動けない事は明白だったし、何より真希が賢斗の看病という名の監視を買って出てしまったのだ。 色々と気に食わない事ばかりだが、大人しくさっさと治してしまうのが得策だろうと賢斗はそっと諦めのため息を吐いた。 医師の言葉通り、その日の夜遅くから賢斗は熱を出した。 身体の不快感に目を覚まし、いつもと違って働かない頭に少しの苛立ちを感じるものの、それよりも身体の怠さと傷の痛さが勝った。 (……本当に、君が関わると碌な事にならない…) 半ば八つ当たりに近い事を考えながら賢斗の意識は少しずつ沈んで行く。 少し熱が上がって来ているような気がしたが、もはや考える事が面倒になってそのまま賢斗は気絶するように眠りに落ちた。 どのくらい眠っていたのかは分からないが、賢斗は不意に額にひやりとしたものを感じて目を覚ました。 「……ま、き…?」 「あ、ごめん起こしちゃった?」 目を開けた先には少し申し訳なさそうに笑う真希がいて、額に感じたひやりとしたものは真希の手だと理解する。 「結構熱高いから、まだ寝てた方が良いかも。 それより何か食べた方が良いかな」 そう言って少し席を外した真希は暫くすると粥を盆に乗せて戻って来た。 しかし元々食の細い賢斗は熱のせいもあって全く食欲が無かった。 そもそも、彼は誰かが作ったものを食べる事を嫌う。 「いら、ない…」 「でも賢斗、昨日から何も食べてないでしょ? ちゃんと食べなきゃ治らないよ」 それに、急いでたからこれレトルトだし、と付け足した真希は未だ目の焦点が合っていない賢斗を見る。 (……プレミアつくよね、これ) 恐らく二度と見る事は無いであろう今の賢斗の姿を、真希は先程のあどけない寝顔と共に心のアルバムにしっかりと保存した。 渋々、といった様子でスプーンを手に取った賢斗だが、一口食べただけでそれ以上はどうしても食べようとしなかった。 仕方なく諦めた真希は、今度は薬を飲ませようと試みるも既に賢斗は半分程意識を飛ばしている。 再び額に手を当ててみると、先程より熱が上がっていた。 (どうしよう、辛そうだけど薬飲まないと良くならないし…) 少しの間考え込んだ真希だが、結論は一つだけだった。 「賢斗、怒らないでね…?」 でも意識がはっきりしていたら殺されるよな、と思いつつ真希は薬と水を口に含むと賢斗にそっと口移しした。 こくり、と音がして賢斗が薬を無事に飲み込んだ事を知る。 ほっと息を吐いて賢斗の表情を見た真希はそのまま硬直した。 熱があるせいで、いつ見ても血の気の無い彼の頬は少しとはいえ赤く染まっているし、焦点の合っていない瞳はとろんと普段ならばあり得ない緩み方をしていた。 暫くその賢斗の表情に釘付けだった真希だが、無理矢理彼から視線を逸らし、誤魔化すように口を開いた。 「そ、それじゃあ僕また来るから…ゆっくり休んでね!」 慌ててそう言って真希は部屋を後にする。 ぱたん、と音を立てて閉じた扉に背中を預け、ズルズルと床に座り込んだ。 「や、やっちゃった…」 そんなつもりでは無かったのだが、今更ながら口移しを思い返した真希は密かに照れ臭さと同時に喜びを噛みしめる。 意識はぼんやりとしていたが、もしあれを賢斗が覚えていたら確実に自分の命は無い、とは思うものの、それでもやはり嬉しいものは嬉しい。 弱った賢斗を見ても理性を保った自分を褒めてやりたいくらいだ。 (だって、ずっと好きだったんだ) 多分、最初に彼を見た時から。 彼の左目の秘密を知った後は尚更。 きちんと自覚するまでには思いの外時間がかかったけれど、自覚した時だって別に驚かなかった。 (……覚えてるかな、賢斗) 君を好きになった僕は、思いついたんだ。 にこりともしない君を絶対に、笑わせてやろうってさ。 だけど、そんな考えは見事に打ち砕かれたんだ。 “冗談はその存在だけにしてくれよ” “そう、俺は君が嫌いだよ” “俺が君に望むのは、君がさっさと消える事さ” 君は全く笑わなくて、僕は結局一人で笑ってばかりいたんだ。 “まるで、これじゃ賢斗専属の道化師みたいじゃないか” なんておどけて言っても全く無反応で。 賢斗が人間を憎んでいることなんて彼を知る人の間では常識だ。 だから、いくら真希が彼を想っていたとしても彼の近くに居る事が限界だと思っていたし、なんだかんだ言いつつ賢斗がそれを容認してくれるだけでも奇跡だという事も分かっていた。 (でも、僕は欲張りだからさ) 賢斗の特別、或いは例外になりたいと願わずにはいられなかった。 自分が近くにいることを許すその行為に、期待を抱かずにはいられなかった。 人を憎むと言うのなら、誰とも会わないで済むところに連れて行きたかった。 賢斗の笑顔を、声を、あの美しい瞳を、全てを、自分が独占したい。 (僕って案外病んでるよね) ふふ、と浮かべた笑顔の意味を、本人以外で知る者はいない。 数時間後に再び真希が賢斗の部屋を訪れると、彼はまだ苦しそうではあるものの意識先程よりはしっかりしていた。 「……何度も何度もご苦労な事だねぇ」 「そりゃ、賢斗を放っておくわけにはいかないしね!」 にこにこと笑顔で言う真希を賢斗は鼻で笑った。 薬をどう飲んだのかについては覚えていないようで真希はほっとしたようながっかりしたような気持ちになった。 そんな思いを飲み込んで、そういえば、と真希は口を開く。 「そもそも、なんでそんな大怪我したのさ?」 真希の問いはしっかり聞こえていたはずなのに賢斗は聞こえないふりをして何も答えなかった。 「賢斗?」 「…ぼくが何をしようが、君には関係の無いことだよ、真希」 ……。 ………。 …………。 ……………“ぼく”? 呆気に取られた顔をして賢斗を見ると、彼も自分の失言に気がついたようでしまった、という表情で口元を手で覆った。 (うっわ可愛い何これ可愛い) 「えっと、賢斗…?今……」 「………うるさい」 真希の視線から逃れるように賢斗はもそもそと布団の中に隠れてしまう。 普段から常に気を張ってる彼は、こうして弱っている時などは思わず昔の名残りが出てしまうようだった。 思わず抱きつきたくなる衝動を必死に抑え、真希は隠れてしまった賢斗に話しかける。 「…あの日血塗れの賢斗が倒れてるのを見て、僕は心臓が止まるかと思ったんだ」 同時に、賢斗にあんな大怪我を負わせた相手をどうしてくれようかとも思った。 もっとも、賢斗が相手をただで返すはずがないので相手は既にいない可能性が高いのだが。 「ねぇ、賢斗。 あの時、僕に言ったよね。 “俺は静貴の為に生きると決めたけど、君の為に死のうと思う”って」 「………」 相変わらず賢斗からの反応は無いが、構わず真希は続ける。 「それって、もしかして、怪我をしたのは僕の為ってこと?」 彼は肯定しなかった。 けれど否定もしなかった。 本人が気づいているは知らないが、賢斗が否定をしない、それはつまり肯定と同義だという事を真希は知っている。 「賢斗、もしも君が僕の為に身を挺して僕の代わりに死んでしまったなら、そんな世界に残された僕は一人何を思えばいい?」 本当に、死んでしまうかと思った。 賢斗が目を覚ますまで、心配で仕方なかったのだ。 「…馬鹿な事、言わないでくれるかな?」 ようやく口を開いた賢斗の声は布団越しで少しくぐもっていた。 真希からは賢斗がどんな表情をしているのか分からない。 息苦しくなったのか、賢斗は布団から出てくると痛みに顔を歪めつつ上体を起こす。 「俺が、君の為に身を挺する? 勘違いも甚だしいよ、全く。 だいたい…」 いつもの調子で言葉を紡ごうとした賢斗だが、その先を続ける事は出来なかった。 真希に痛いくらいの力で強く抱きしめられたから。 「真希…!?」 「…なら、勘違いさせて。 君が僕を守ってくれたんだって、僕の為に動いてくれたんだって、そう思わせて」 いつになく真剣なトーンで言う真希に、賢斗は珍しく言葉に詰まる。 賢斗、と自分を呼ぶ真希の声は少し震えているように聞こえた。 「君がどれほど人間を憎んでいるか、僕は知ってるよ。 でも、それでも、僕は賢斗が好きだ。 泣きたいくらい、笑えるくらい好きなんだ」 どくり、と賢斗の心臓が音を立てる。 馬鹿な事を、と言うのは簡単だった。 いつもみたいに嫌いだと言うのも、簡単のはずだった。 真希がいつもの軽口のように言ったのなら言い返せたのかもしれない。 しかし出来なかった。 それが何よりの答えであると賢斗は気づいていたけれど、やはり認めてしまいたくなかった。 「……俺は、人間を憎んでいる。 それは変わらないし変えられない事実だ。 きっとこの先何があったとしても、俺は俺の中にあるこの感情を捨てる事なんて出来ない」 「分かってるよ。 それでも良い。僕は他の誰でも無い、終夜賢斗が好きなんだ。 僕の事を憎んでいても構わない。でもいつか君の例外になってみせるよ」 「……熱烈な事で」 大した自信だよ、と呆れたように言うと、真希は“そうじゃなきゃ君とは付き合えないからね!”と楽しそうに笑った。 ぎゅっと真希は賢斗を抱きしめる腕の力を強める。 傷が痛むからなのかもしれないけれど、賢斗は振り払おうとはしなかった。 (…期待してもいいかな、なんてね) 特別、とは言わないまでも賢斗の中で自分は他の人とは少し違う地位に居ると自惚れてもいいだろうか。 (他の誰にも、渡したくないなぁ) その赤と黒の瞳に自分だけを映して欲しい。 彼の隣に立っているのは、自分だけであって欲しい。 「賢斗、 君が自らを犠牲にして僕を守ってくれたのなら、今度こそ僕が君を守ってみせるから」 誰にも、触れさせたくない。 自分だけのものにしたい。 「……賢斗?」 返答が無くなったのを不思議に思った真希が身体を離して賢斗を見ると、彼は静かな寝息を立てて眠っていた。 いつもの冷たい表情ではない、実年齢より少し幼く見えるあどけない賢斗の寝顔を真希はしばらくの間見つめていた。 「いつか、君の特別になってみせるよ」 誓いのように呟いた真希はそっと賢斗の前髪を撫で、彼の唇に自分のそれを重ねて部屋を出て行った。 「……あの、馬鹿っ」 部屋から真希の気配が完全に消えた後に目を開けた賢斗は心なしか顔が赤い。 怪我が治ったら彼にダーツに付き合って貰おうと心に決めつつ真希の去り際の言葉を思い返す。 “君の特別になってみせるよ” 「…なってみせなよ、真希」 そう言った賢斗は一人ふっ、と不敵に笑ってみせた。 END
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