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・ナチュラルにイアルとソウが分離してます。 ・イアルが過保護です。 ・相変わらずソウくんが倒れます。 ・文才が来い。 ・Q.誰得ですか A.俺得です。 ********* 「カイー次の授業って何だっけー?」 「アッシュの好きな体育だよ」 「おーそーだった!」 ぱぁ、と顔を輝かせたアッシュの隣でアルが馬鹿にしたように笑った。 「好きな、というかお前はそれしか出来ない、と言った方が正しいんじゃないか?カイ」 「んな!?そりゃ俺はアルみたいに頭良くないけど、アルよりは英語出来るからね!」 「あ"?たかだか5点の差で威張ってんじゃねぇぞ」 「…それより早く着替えた方が言いんじゃないか?」 「ほっとけ、湊。それより俺の髪紐知らねぇ?」 「…制服のポケットだと思うが」 わいわいと騒がしい教室で、何て事の無い会話をしながら着替える、アッシュ、カイ、アル、ソウ、イアル。 この学園の人気トップ5が揃うと、周りの空気さえ輝いて見える。 制服からジャージに着替えた彼らが校庭へ向かおうとした時、イアルがソウの腕をつかんだ。 他の者がやればすぐに振り払われるその行為だが、ソウの双子の兄であるイアルにだけは彼への接触が許されていた。 「ちょっと待て、湊」 「…何だ?」 「お前、本当は体調悪いんじゃないか?顔色がいつもより悪い」 「…平気だ」 「湊」 「二人とも何してんのー? 早くしないと授業始まるよー?」 イアルが何か言いかけた時、アッシュの間延びした声が聞こえた。 「俺は大丈夫だから」 そう言って少し微笑んだ湊を見て、イアルの眉間の皺が深くなる。 (お前が笑う時は大抵大丈夫じゃないっての) それでもこれ以上言っても彼は聞かないだろう、と熟知しているイアルはやれやれ、とため息を吐き出して少し先を行く湊を追いかけた。 男女別に行う体育で、男子の競技はサッカーだった。 夏が近づいているのか、少し気温が高い。 「ねーソウ、俺ずっと気になってるんだけど…暑くないの?」 長ズボンの裾を少し捲り、半袖着用のアッシュが隣でいつものポーカーフェイスを保つ湊をしげしげと眺めた。 学園指定の黒いジャージは色の為か、それだけで比較的暖かい。 それをまだ春とはいえ夏の気配がするこの時期に湊は長袖のジャージを着て、そのチャックをきっちり上まで閉めていた。 比較的暑がりなアッシュには見てるだけで暑い。 しかも湊は一年中そんな格好である。 さすがに真夏は上まで閉める事は無いにせよ、上着を脱ぐ事は殆どしない。 湊だけでなく、カイやアルも上着を着ているが、カイは半ズボンだし、アルはアッシュ同様ズボンの裾を捲り、前は湊と真逆で全開である。 イアルは半袖に捲っていない長ズボン。 他と比べても湊は厚着である。 しかも元々華奢な事も手伝って、ジャージはダボダボである。 「特に暑いとかは感じないな」 「うへー…俺なら絶対無理ー」 「俺は元々低体温だし、そこら辺も関係あるんじゃないか?」 「あーそっか。いくつだっけ?平熱」 「34…くらいか?」 「低っ!」 ころころと表情を変えるアッシュと全くの無表情の湊のやりとりはハタから見ると中々滑稽だ。 体育科教師のユアンがやってきて、適当にクラス内で二チームに分ける。 カイとアルとアッシュ、湊とイアルがそれぞれ同じチームと別れた。 「アル、頑張ろうね!」 「…あぁ。 要らん奴もいるがな」 「ちょ、そんなあからさまに嫌そうな顔しないでよ!? 相手はあの二人だよー? 協力してこーよー」 そう言いながらアッシュは敵チームの双子を見やる。 湊がイアルに何か言い、イアルが面倒くさそうに返事をする。 暫くそれを繰り返すと、ついにイアルが折れたのか、しゅるり、と男子にしては長い髪を結っていた髪紐を解いて湊に渡す。 それを受け取った湊はイアルの後ろに回ると彼の髪を結い直した。 どうやらざっくりと結っていたイアルの髪が気になったらしい。 几帳面な湊らしい、とカイはそっと笑った。 アッシュの言う通り、あの二人は要注意である。特に二人が同じチームになった時は。 確かにあの二人の身体能力は高いが、カイもアルもアッシュも、運動神経は良い方だし、アルやアッシュ、特にアッシュは抜群に身体能力が高い。 にも関わらず警戒するのは、あの二人のコンビプレーが非常に厄介だからだ。 お互いに見なくても相手の位置が分かるらしい。 その時どこかで黄色い声が上がったのでそちらを見ると体育館でバドミントンをやっているはずの女子が体育館の扉に群がり、湊とイアルを見て騒いでいた。 「…あいつらは無自覚であれやってんのか?」 何時の間にかカイの隣に立っていたアルが呆れたように体育館と二人を見比べる。 「うーん…二人とも自分の事に関しては鈍感だからね…特にソウさんは全く無自覚だと思うよ?」 「…だろうな」 自覚していても嫌だが、と付け足してアルは再び呆れたように二人を見た。 湊とイアルの二人は顔立ちが整っている為か、女子に途轍もなく人気がある。 加えてイアルの湊第一主義や、湊のイアルだけは接触可能という二人の仲良し兄弟っぷりがその人気に拍車をかけている。 「バレンタインの時とか凄かったもんねー」 「下駄箱開けた瞬間にチョコの雪崩起きてたっけか? ソウは新手の嫌がらせと勘違いしてたが…あながち間違いでも無いかもな。あいつ甘いの駄目だし」 「イアルさんは甘いの好きなのに絶対受け取らなかったね。好物の棒付きキャンディいっぱい用意されてたのに」 「散々追いかけ回されて、挙げ句の果てに“俺はコーラ味か湊が買ってきた奴しか食わねぇ主義なんだよ!”だからな。 どんだけソウ好きなんだよあいつ…」 そう怒鳴ったイアルは、すぐに湧き上がった歓声に戸惑い、珍しく軽いパニックを起こしていた。 「でもアルもかなり追いかけられてたでしょ?」 思い出した様にカイが言うと、アルは途端に精悍な顔を顰めた。 「…それ以上言うな、カイ」 どうやらトラウマなのはイアルや湊だけではないらしい。 かく言うカイも相当な数を貰っているが、本人はそんな自覚も無く、甘党な為、全て美味しく頂いていた。 「おーい早く並べー始めるぞー」 ユアンの間延びした声に、生徒がちらほらと集合する。 アル達のチームからのキックオフで始まったサッカーは、両チーム接戦だった。 と言ってもほとんど三人と二人の対決のようだったが。 しかし後半が残り五分となった時、イアルが危惧していた事が起こった。 イアルの前を走っていた湊の体が、ぐらりと揺れたのだ。 (あ…) 「湊!」 不味い、と思ったイアルが駆け出すのと湊が倒れたのはほぼ同時だった。 ユアンが短くホイッスルを吹き、試合は一時中断される。 真っ先にイアルが、その後にアル、カイ、アッシュと湊に駆け寄る。 イアルが倒れた湊の傍らにしゃがみ込み、顔色を伺う。 元々白い湊の顔色は、いつもより更に青白くなっており、目の下に薄っすらと隈がある。 (…言わんこっちゃない) やれやれ…とため息を吐いてイアルは湊の華奢な身体を抱える。 「ちょ、イアルそれ…」 アッシュが少し慌てたのも無理は無い。 なるべく安静にしようという配慮からなのだろう、イアルがやったのは所謂お姫様抱っこという奴で。 それを遠くから見た女子から黄色い歓声が上がる。 それを気づいていないのか気にしていないのか、イアルはユアンに顔を向けると一言だけ告げた。 「…保健室行ってくる」 「お、おう。 一人で大丈夫か?」 「どうせ俺以外触れないだろうが」 イアルの言う通り、湊は意識が無くても誰かが触れるとびくりと身体を震わせる。 なので必然的にイアルが彼を運ぶ係りとなるわけで。 それは最早暗黙の了解だった。 ぐったりとした湊を抱え、イアルはスタスタと歩き出す。 遠くから「いいなー!」や「私も運ばれたい!」や「ぐったりしてる湊君も良い!」という声が聞こえたが、それらを全て無視して校舎へと入って行った。 それを苦笑交じりで見ていたユアンは号令を掛けて再びゲームを再開させる。 どうせイアルは戻ってこないだろう、と思いながら。 「過保護というかなんというか…」 そんな独り言は青空に吸い込まれていった。 「おい」 保健室でこちらに背を向けている白衣の女性にイアルが声をかけると、彼女はゆっくりと振り返る。 イアルと、その腕の中にいる湊を見るとまたか、という顔をしてため息を吐き出した。 「ベッド借りるぞ」 「えぇ、空いてるわ。 それで?今度は何で倒れたのかしら?」 「それはあんたの仕事だろ」 ぶっきらぼうに呟いて、イアルはそっと湊を寝かせる。 恐らくはただの寝不足だと思う。 いかんせん顔に出にくいタイプなので詳しい事は分からないが。 「熱は無いわね… 多分寝不足でしょうから寝てれば大丈夫だと思うわ。 で、聞くだけ無駄だと思うけど貴方、授業に戻る気は?」 「無いね」 湊が起きるまでここにいる、と付け加えてベッドの横の椅子に腰を降ろす。 それもまたいつもの事だったので、クロエも何も言わなかった。 少し息苦しそうに眉を寄せているのを見て、ジャージの前を開けてやると穏やかな顔になったのを見てふ、とイアルは笑みを零す。 (全く…過保護なんだから) 普段はやる気のなさそうな顔で飴を咥えてるくせに、湊の事となるとまるで別人だ。 どうやらこの双子の間には何やら複雑な経歴があるらしいが、二人ともあまり語りたがらない。 お互いに遠慮しているような感じである。 それがイアルの過保護さと、湊の自己否定の原因の一つなのだろうということは理解していたが無理に聞こうとは思わなかった。 最も、聞いたところでイアルの過保護さも湊の自己否定も簡単には変わらなさそうだが。 静かに眠る湊と、それを優しい瞳で見守るイアルと。 相変わらずな双子を見て、クロエはそっと頬を緩ませたのだった。
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