スレッド型
[返信]


[13]※アルソウ 病んでるアルくんと健気なソウくんが周りに色々迷惑をかける話2(多分嘘は言ってない)
by 洸
2013/02/14 22:47
前回の続きです、長いです。
相変わらずクオリティミスディレ。
一部某小説からの引用有り。
********




その頃カイ達はアジトへと帰る船に乗っていた。
元々乗り物に弱いカイだが、何度もこうして遠出するうちに少しずつ耐性もついてきた。
カイはそっと隣に座るアルの様子を伺う。
こうしてきちんとアルを見るのは随分久しぶりだ。
影のあるその横顔を見て、カイは複雑な気持ちになる。
親に置いていかれたばかりの頃のアルの表情と良く似ていたが、あの頃よりもずっとどろどろとしたものを感じた。
そばにいるウェンディやリオウも戸惑った表情を浮かべながらもアルに声をかけられないでいた。

「アル…?」
「なんだ、カイ」

てっきり無視されると思っていたのだが、予想よりもあっさりと返ってきた返事にカイは拍子抜けした。

「えっと…ただ、話すの久しぶりだなって…」
「そうだったか?」

カイの言葉にちゃんと返事は返すものの、こちらを向く気配の無いアル。
何処か苛立っているような顔をしているのは、ソウを置いて来たからだろうか。

「ねぇ、アル…あのさ…この間ソウさん、殴られたみたいに怪我してたけど……」
「あぁ、そりゃ俺だな」

しれっと返された返答に、カイは一瞬硬直した。
覚悟はしていた。
けれど、アルはそんな事をするはずが無いと、ソウの「転んだ」という言葉が嘘だと気づきながらも心の何処かでそう信じていた。

「どうして…」
「…あいつが俺以外の奴と話してるのが気に食わなかったんだ。
あいつは俺のものだって事を、周りに知らせなきゃいけなかった。
だって、そうしなきゃまたあいつが襲われるだろ?
俺はソウを守るって決めたから、もう誰にも触らせないって決めたから、だから」
「…分からないよ。アルの言ってる事、僕には全然分からない…」

何が、彼をここまで駆り立てたのだろう。
ソウの一層細くなった身体を思い出す。
守りたいなら、何故。

『“What is hell?
I maintain that it is the suffering of being unable to love.”』
(地獄とは何か?
それはもはや愛せないという苦しみだ)

彼は、どんな思いでこの言葉を言ったのだろう。
そう考えると、カイはやりきれない気持ちになる。
黙ってしまったカイを一瞥すると、アルはそのままふらりと何処かへ消えてしまう。
けれど、カイはその背を引き止める事など出来なかった。

「…カイ?」

膝を抱えて蹲るカイの肩にウェンディが飛び乗り、心配そうに声をかけるとカイはゆっくりと顔を上げた。

「ウェンディ…ありがとう。
ねぇリオウ、アルはどうなっちゃうのかな…?」

先程から沈黙を貫くリオウは、カイの問いに首を振りながら答えた。

「…さぁな。私にも分からん。
ただ、これはソウに任せるしかあるまい」
「………」
「我々が何を言った所で今の彼奴には聞こえんだろう。
カイ、お前の気持ちも分かるがな、ここはあの二人を信じてみようではないか」
「うん…」

何も出来ない自分が歯痒い。
その悔しさを誤魔化すように、カイは拳を強く握りしめた。




その後、船が港に着いてからアジトへと帰るまでカイとアルの間に会話は無かった。
ただ無言で前を歩くアルを、カイもまた無言で着いて行く。
何処か急いたように歩くアルはアジトの前に着いて名乗った後、焦ったそうに入口を塞ぐ岩が退かされるのを待った。
ようやく入口が空くと、アルを見て怯えた表情を浮かべるメンバーを無視して奥へと進んで行くが、途中すれ違った人の会話を聞いて思わず立ち止まった。

「おい、ソウが倒れたって本当か?」
「らしいな。当分は任務も無しって話だ。
まぁ、あんだけ無理してたんだから当たり前だよな」
「……何の話だ?」
「あ、アルフレッド…!?」

突然背後からかけられた声に二人のメンバーは飛び上がった。
一方のアルは殺気を隠そうともせずに二人に詰め寄る。

「もう一度聞く。
何の話だ?」
「お、お前が出発したのと同じくらいにソウが廊下で倒れたらしくて…」
「あいつは今何処にいる」
「た、多分医務室だ」

聞きたい事だけ聞くと、アルはそのまま何も言わず医務室へと足を向けた。
残されたカイは未だ青い顔をしている二人に声をかける。

「あの…大丈夫ですか…?」
「し…死ぬかと思った…!」
「俺らは大丈夫だが…今アルフレッドが医務室に行くのは少し不味いかもしれない」
「え?」
「さっき…ユアンが医務室の方行くの見たから…」

その言葉にカイの背筋に冷たいものが伝う。
慌ててアルが去って行った方を見るが、アルの姿は既に消えていた。

ーーその少し前。

ソウは小さな物音が聞こえて目を覚ました。
久しぶりにきちんと寝た為か、幾分頭がすっきりしていた。

「悪い、起こしたか?」
「ユアン…いや、大丈夫だ。
元々そんなに眠りが深い方じゃない」

気にするな、と頭を振ったソウにユアンは微笑を浮かべ、クロエを呼ぶとベッドの端に腰掛けた。
すぐにやってきたクロエはソウの様子を確認すると問題無いと判断したのか彼に刺さっていた点滴の針を抜く。

「とりあえずは問題無いけど…暫くは安静にしてなきゃダメよ。
また悪化するかもしれないし」
「…あぁ」
「ソウ、悪かった」

いきなりユアンに謝罪されたソウは怪訝な顔をした。
問いたげな視線を受けて、ユアンは言葉を足す。

「やっぱり、お前とアルフレッドを組ませるべきじゃなかった」
「俺が無理言ったんじゃないか」
「あの時、何がなんでも反対すべきだった。
お前一人に全部任せちまって悪かった」

繰り返される謝罪の言葉に、ソウは困ったような顔をした。
ユアンが謝る事など何一つ無いのに、と思った。

「良いんだ、これは、俺がなんとかしなきゃいけないから」
「…お前は優しいな、ソウ」

そう言ってユアンはソウの頭をそっと撫でた。
子供扱いするなと口を開きかけたソウは背筋がぞわりとする感覚がして医務室の入口を見た。

「アル、フレッド…」

そこには怖いくらいに穏やかな表情をしたアルが立っていた。
ユアンとクロエがはっとしてアルを見る。
彼はソウが自分に気づくと、ゆるりと口角を持ち上げた。

「よぉ、ソウ。
倒れたって聞いたが…大丈夫か?」
「あ、あぁ…」
「そうか、それは良かった。
……ちょっと来い」

驚くほど低い声で、言うが早いか、アルはソウの手首を掴んで無理矢理医務室から連れ出して行く。
クロエとユアンはそんなアルを止めようとしたが、振り返ったソウが首を横に振って二人を制す。

“ありがとう”

そう口パクで伝えると、ソウはそのまま医務室を去って行った。




ソウの部屋に連れ込まれるなり壁に押し付けられる。
だんっ、と荒々しい音を立ててアルの右腕がソウの顔の横に叩きつけられた。

「アル「黙れ」

何か言いかけたソウの言葉をぞくりとする程冷たい声で遮ると、そのまま強引に彼の唇を塞ぐ。
咄嗟にアルから離れようとするソウを見ると、この間のキスシーンがちらついて酷く苛立った。
息苦しくなったのか、アルの服を引っ張るソウに気づくが簡単に離してやる気は無い。

「アルフレッド……っ!はな、せ…っ!」
「なぁソウ。俺言ったよな?
お前に俺以外が触れる事は許さないって。
なのになんでユアンに触らせた?それも、あんな無防備な顔して。また襲われるつもりか?」
「良い…加減にしろ……っ!」

なんとか逃れようともがくソウを、アルは再び強く壁に張りつけた。
その力の強さにソウの顔が歪んだが、それに気づく余裕など無い。

「お前の方こそ良い加減にしろよ。
ソウ、お前は何がしたいんだ?
どれだけ人を心配させれば気が済む?」
「何、言って…」

アルの言葉の意味が分からない。
何がしたい、なんてこちらの方が聞きたかった。
なおも暴れるソウの頭を押さえつけると、アルはその白い首筋に思いっきり噛みついた。

「いっ……!?
アル、フレッド…何を…っ」
「お前がいけないんだよ、ソウ。
お前は俺のものなのに、俺から離れようとするから」

強く噛んだ為に滲んだ血をゆっくりと舐め取る。
そのくすぐったさにソウの身体が跳ねたのも気にせず、アルはこの間つけたばかりのピアスに触れた。

「ア、ルフレッド…っ!やめ、ろ…っ」
「ソウ、お前は俺のものだ。
誰にも触らせない。
このピアスの意味を、忘れるな」

そう言ってアルは、ユアンが撫でていたソウの柔らかい髪にキスすると、そのまま部屋を出ていった。
残されたソウはそのままズルズルと背中から滑り、地面に座り込んだ。
忙しない呼吸を整え、先程噛みつかれた場所にそっと手を置くとずきりと痛みが走る。
くっきりと歯型が残っているであろうそこを隠さなければ、と以前クロエに半ば無理矢理持たされた救急箱の中からガーゼを取り出してその痕を隠そうとしたが手が震えて上手く出来なかった。

「アルフレッド…っ」

ソウは前髪をくしゃりと握りしめ、絞り出すような声で大切な人の名を呼んだ。

心が、痛いと叫んだ。

「アルフレッド……っ!」

悲鳴を上げる心と身体を抱えて、ソウはただアルの名を呼ぶ事しか出来なかったーー


それから暫くソウはアジトから出る事なく過ごした。
アイリスからよく休むように言われていたし、自分でも今の状態では何も出来ないな、という自覚はあった。
アルはといえば、噛みつかれた日からソウに近づく人への警戒心がずっと増したようで一日の殆どをソウの側で過ごすようになった。
ソウとしてもまた噛みつかれるのは御免なのでなるべく他のメンバーから距離を置くようにしていたし、メンバーの方も事情を察して何も言わないでいてくれた。

そんな二人を、酷く不安げな顔でカイは見ていた。
自分が出来る事など全く無いという事は分かっている。
それでも、自分にも何か出来るのではと考えずにはいられない。
二人とも互いが大切なのは見ていれば一目瞭然だった。
なのに、何故ここまですれ違ってしまったのだろう。
少し前までは容易に察する事が出来たアルの気持ちが、分からない。

前にも増して無口になってしまったソウは何も言わないけれど、思い出したように左耳に触れては堪えるように唇を噛み締めているのを何度か見かけた。
友人二人が苦しんでいるというのに、傍観する事しか出来ない自分が腹立たしくて仕方なかった。
そんなカイを見兼ねたユアンは、カイを外に連れ出した。
と言っても遠出するわけでも無く、ただアジトの近くを散歩するだけだ。
それでも、今のカイにはありがたかった。

「ユアンさん、どうして二人はあんな事になっちゃったんでしょうか…」

俯いたカイが突然ぽつりと零した呟きに、ユアンは少し考える素振りを見せて真面目な顔でカイに向き合った。

「足りなかったんじゃないかな」
「…足りなかった?」
「そう、あいつらは多分言葉が足りなかった。
例えばソウが襲われた時、アルフレッドは本気で怒ったんだろうし、本気で心配したんだろう。
ただそれを上手く伝えられなくて、気持ちを整理する余裕も無いままソウに向き合ったんだと思う。
ソウもソウで、あいつはまず愛されるって事自体に不慣れだからアルフレッドが何をそんな必死になってるか分からないんだろうな。
でも二人ともその内の想いを話そうとしないから、今もどうしたら良いか分からないままなんだ」

確かに、何処までも不器用な二人だった。
大切だからこそ、傷つけたくなくて、でもどうすれば良いか分からない。
お互いまでの距離を手探りで一歩ずつ慎重に測っているような、そんな不器用さがあの二人にはあった。

「だからな、カイ。
これは周りがいくら言っても駄目なんだ。あの二人自身が解決しなきゃいけない問題なんだ。
だけど、俺らにだって出来る事はあるはずだ、そうだろ?」
「え…?」
「隣に立つ事が出来ないなら、後ろで支えてやれば良い。
あいつらが一歩踏み出せないなら、背中を押してやれば良い。
それが出来るとしたら、それはお前しかいない。
……って俺は思うんだけどな」

ユアンの言葉は、カイの胸にゆっくりと染みていく。
そんなカイの頭をユアンは無造作に掻き回した。

「それに、お前さんはちょっと真面目すぎるし、優しすぎる。
もう少し肩の力抜いて良いんだよ。
全部を背負おうとする必要は無いんだ、背負おうのは、自分の分だけで良いんだよ」

そこら辺はあの二人にも分かって欲しいんだが、とぼやいたユアンにカイがお礼を言おうと顔を上げた時、近くの方から何か争うような物音がした。
ハッとしてユアンと顔を見合わせると、慎重に音がした方向へと近づいて行く。
そして、開けた視界の向こうに見えたのは。



「アル……?」


片手でソウを持ち上げ、その首を締めているアルの姿だった。

「…何、やってるの!アル!」

アルは駆け寄って来るカイ達に気づくと、パッとソウの首を離した。
どさりと音を立て崩れ落ちたソウの身体はぴくりとも動かない。
そんなソウを見るアルの目は、酷く冷めていた。

「ソウ、おいソウ!しっかりしろ!」

慌ててユアンがソウに駆け寄って、ソウに呼びかけるも応える気配は無い。

「ウェンディ、クロエさん呼んできて!早く!!」
「分かった!」

ウェンディが急いでアジトへ戻るのを見ると、カイはアルに近づこうと足を踏み出した。
その時、アルがぼそりと何か呟いた。

「………な」
「アル?」
「…ソウに、触るな……!」
「やめんか!アルフレッド!」

ソウの脈を確かめるユアンに斬りかかりそうな勢いだったアルを、リオウが制す。
元の姿に戻ってアルとソウの間に割り込んだリオウを、アルは忌々しそうに睨みつけた。
まさに一触即発、という空気が周りを取り囲んだ時、ウェンディがクロエを連れて戻って来た。
ソウの横に屈んですぐに様子を確認するクロエを見て、再びアルの殺気が濃くなった。

「ソウに触るなっ!」
「貴方、ソウを死なせたいの!?」

怒鳴ったアルに負けない程の迫力でクロエが言い返す。
しかし目線はソウから離さず、真っ青な顔をしているソウにあれこれと処置を施した。

「何が原因かは知らないけど、いくらなんでもやりすぎよ、アルフレッド。
カイ達が見つけなかったらどうするつもりだったのかしら?」

ひと段落し、命に別状は無いと判断したクロエはユアンにソウを医務室に運ぶように指示すると、アルに向き直る。
しかしアルは返事を返そうとはせずにソウを抱き起こそうとしていたユアンを押しのけてソウを抱きかかえた。
そのままクロエ達が止めるのも気にせず、アジトへと帰ってしまう。
残された彼らはただお互いの顔を見合わせる。

『もしカイ達が見つけなかったら』

そう思うと寒気が足元から這い上がって来た。

“いつか、ソウは殺されてしまうかもしれない。”

その場にいた全員にそんな考えが過ぎり、重い沈黙がその場を支配した。



闇に沈んでいた意識が浮上して、ゆっくりと目を開けると見慣れた自室の天井が見えた。
いつ帰って来ただろうかと不思議に思いながら周りを見回す。

「…起きたわね、ソウ」

クロエ、と呼ぼうとした声は出なかった。
驚いて目を見開いたソウにクロエはため息をつくと重い口を開いた。

「貴方、アルフレッドに首を締められたの覚えてる?」

一瞬顔を強張らせてソウが頷いたのを見ると、クロエは話を続けた。

「あぁ、安心して、少し気を失ってただけだから。
ただ、彼が随分力強く貴方の首を締めたせいで声が出せないみたい。
数日経てばちゃんと喋れるはずよ」

クロエの説明に“そうか”と口パクで伝えるとクロエは盛大にため息を吐いた。

「じゃあ私はこれで。
説明が終わり次第すぐに出てけって言われてるしね。
……ソウ、無理はしないのよ。
これは私達が口を出す事じゃないからこれ以上は何も言わないけれど、皆、貴方がこれ以上傷つくのも辛いんだから」

『…悪い。
ありがとうな』

側に置いてあったメモ用紙に綺麗な字で書かれた謝罪と感謝の言葉を見ると、彼女は納得いかないような顔をしながらも部屋を出て行った。
それと入れ違いで入ってきた人物に、ソウは身体を硬くした。

“アル…フレッド…”

そう呼んだ声は、やはり聞こえなかった。
アルは無言で近づいて来ると、ちょうどこの前ユアンがやっていたようにベッドの端に腰かけた。

「……声、出ないのか」

少しの間の後、聞かれた問いにソウはこくりと頷いた。
アルの視線は、ソウの首に巻かれた痛々しい包帯に注がれていて、そこから視線を外さないまま語りかけた。

「…ソウ。
俺は…どうしたら良いか分からない。
お前を失いたくないんだ、傷つけたくないんだ。
なのに、お前を傷つけてばっかりで、どうしたら良いか分からないんだ。
なぁ、ソウ、俺は…どうしたら…」
「……っ!」

耐えきれなくなって、思わずソウはアルを抱きしめた。
どうしたらいいのかは、ソウにも分からなかった。
どうすれば彼に自分の思いが伝わるのか分からない。
だけど一人では無いのだと、自分はここに居るのだと今のソウが伝えるにはこれしか思い浮かばなかった。
自分ほどでは無いにしろ、幾分痩せた身体に、胸が締め付けられる。
言いたい事は沢山あるのに、何一つ言葉にならなかった。
アルフレッド、と名前を呼ぶ事さえも、今は叶わない。

“アルフレッドっ”

声にならない声が、空気を揺らした。
その声が聞こえたはずも無いのに、アルもまたぎゅっとソウを抱きしめる。

「ソウ…ごめんな…ごめんっ…!」

悲痛な声で何度も何度も謝るアルを、ソウはただ抱きしめる事しか出来なかった。






青い蒼い水の中を音も無く沈んで行く。
今となっては見慣れた光景に、ソウはそっと目を閉じた。
やがて水底に足が着くと、人の気配を感じてソウは目を開けた。
誰がいる、なんて事は見なくても分かっていたけれど。

「……湊」
「イアル…」

振り返るとやはりそこには自分の片割れが難しい顔をして立っていた。
あぁ、ここではちゃんと声が出るのか、と他人事のように考えた。
自分とは違う藍色の瞳が、ソウを映す。

「湊、お前が出るなと言ったから今まで大人しくしてたけど、さすがに今回のは頂けないな」
「………」
「もう止せ、湊。
このままじゃお前が保たない。
お前が傷つくのを、俺はこれ以上見てられない」

言われなくても、イアルが十分に怒っているのは分かった。
きっと向こうにも、自分が考えている事なんて筒抜けなんだろう。

「…もう少しだけ、時間をくれ」
「…湊」
「頼む」

ソウが必死に言うと、イアルは銀髪をぐしゃりと掻き回した後、本当にあと少しだからな、と念を押した。

「また、今回みたいな事があったら俺はお前の許可無く出るぞ」
「…あぁ」

それで良い、と言ったソウにイアルは我ながらソウには甘いと苦笑したのだった。




クロエの言う通り、声が出なかったのはほんの数日の事で、三日後には普通に話せるようになった。
アルの手型がはっきりの残った首には、未だ包帯を巻いたままなのだけれど。
例の一件から、アルはますます周りから敬遠されるようになった。
しかし当の本人は全く気にする様子も無い。
今の彼には、きっとソウしか見えていないんだろう、とカイは思う。
いや、ソウの事すらきちんと見えているか怪しい。

このままではアルが壊れてしまう。
そう感じ、不安であまり眠れなくなっていたカイはある日夜中にそっとアジトの外へ出た。
外の空気に当たれば、少しは心が休まるのでは無いかと思ったのだ。
冷たい風が容赦無くカイに吹きつける。
その風に乗って、小さな歌声が聞こえてきた。

声が聞こえた方を見ると、月に照らされてソウが静かに歌っていた。
その姿はとても綺麗で…すぐに消えてしまいそうな儚さもあった。
カイが近づいてくる気配を感じたソウがゆっくりと振り返る。
そこにカイが居る事を見ると、彼は目を丸くした。

「カイ…」
「どうしたんですか、こんな時間に?」
「それはお前もだろう」
「僕は…ちょっと眠れなくて」

カイの返事にそうか、とだけ返したソウはちょっと間を置いた後アルフレッドの事か、と問うた。
カイはそれに、黙って頷いた。

「ソウさんは…アルが好きですか?」

今更すぎる問いだと思ったけれど、それでも聞かずにはいられなかった。
ここ最近のソウの窶れ方は異常だ。
もしソウがアルの側にいる事に疲れてしまったら。
ソウがアルを見限ってしまったら。
カイにはどうすれば良いか分からない。

「……正直、俺には好きとか、そういう気持ちはよく分からない。
だけど、今俺の中にあるこの暖かさがそんな想いなら、多分そういう事なんだろうな」
「ソウさん…」

ふっと笑って穏やかな声でそう言った彼は、しかし真面目な顔をして言葉を続けた。

「…しかし君、恋は罪悪ですよ、解っていますか」

引用された台詞に、咄嗟にカイも言葉を返す。
何故だかそうしなければいけない気がした。

「恋は罪悪ですか」
「罪悪です、確かに」

遠くを見るような目をするソウの瞳に何が映っているのか、カイには分からない。
彼の横顔から心情を伺おうとしたが、無駄であった。
淀みなく台詞を暗唱する彼はいつも通りの無表情だったから。

「……先生、罪悪という意味をもっと判然いって聞かせて下さい。私自身に罪悪という意味が判然解るまで」

カイにしては不満を込めたような声に、再びソウはふっと笑った。
それは、さっきとは違って寂しそうな笑顔だった。

「…悪い事をした。
私はあなたに真実を話している気でいた。
ところが実際は、あなたを焦らしていたのだ。私は悪い事をした」
「……ソウさん」
「はは、悪い」

じと、とカイがソウを見ると彼は
珍しく声を上げて笑った。
そのままどう話したものか、と考えながら暫し口を閉ざす。
自分の心情を伝えるのは苦手だ。
恐らく、カイならば自分の拙い言葉でも上手く拾い上げてくれるのだろう。

「…ごめんな、カイ。
俺と出会っていなれば、アルフレッドはあんな風にはならなかったかもしれない……」
「そんな事無いです!」

独白のように語られた言葉を、カイは即座に否定した。
それは同情では無く、本心でそう思ったからで。

「ソウさんと会ってから、アルはずっと雰囲気も優しくなったし、楽しそうでした!
だけど、今のアルにはソウさんしかいないんです…だから、だから…っ!」

ソウのせいではない事くらいカイにも分かっていた。
そうやって彼は、自分の痛みを隠して笑うのだ。
そういう人だと、カイは知っている。
出来る事ならアルを助けたい。
だけど、自分の言葉は、アルには届かないから。
きっと、アルを本当の意味で助ける事ができるのは、彼しかいないから。

「アルを…アルを、助けてあげて下さい!
僕には、それが出来ないから…」
「あぁ…分かってる。
……そんな顔するな。
大丈夫だ…必ず助けるから」

安心させるように力強く言われたその言葉に、カイは自然と頬を緩めた。

「……約束ですよ?」
「あぁ。
俺は、守れない約束はしない。
その代わり…一度した約束は必ず守る」

その揺るぎない青い瞳を見ると先程までの不安はいくらか軽くなって、今ならちゃんと眠れる気がした。
しかし、二人は気づいていなかった。
穏やかに話すカイとソウの二人をじっと見つめていたアルの姿に…





その翌日、任務を終らせたカイが
部屋で休もうと一歩踏み出した時、後ろからアルの声がした。

「…カイ」
「あ、アル?どうしたの…?」

振り返って見たアルの瞳は酷く虚ろで、何か得体の知れない恐怖を感じた。

「なぁ、カイ。
昨日、ソウと何話してた?」
「……!」

見られていた。
不味い事など何も無かったけれど、何か言わなければ、とカイは焦る。
硬直したカイを見たアルは口元を歪めて笑った。

「カイ、お前だけは大丈夫って、信じてたんだけどな」
「アル、誤解だよ!」
「…何が誤解だって?
まぁそんな事はどうでも良い。
なぁカイ、ソウに手を出すつもりなら……」

すらりとアルの剣が抜かれる音がした。
まさか、とカイが状況を理解したのとアルが斬りかかって来たのはほぼ同時だった。

(ダメだ、避けられない…!)


そう判断したカイが来るであろう衝撃に構えるが、それが来る事は無かった。

「…カイっ!」

ガキィンと刃がぶつかり合う音がして、カイは目を開けた。
自分の前に立っている栗色の髪の人物は……

「ソウさん…?」
「…っカイにまで剣を向けるか、アルフレッド!」

ソウは信じられない、という顔でアルを見て、対するアルはソウがカイを庇った事で酷く機嫌が悪かった。

「……なんで庇うんだよ、ソウ」
「ここでカイを斬ったら、お前が悲しむからだ。
アルフレッド……俺は、お前が好きだった。
だけど、今のお前は…俺の好きなお前じゃない…」

最後の言葉は、震えていた。
ソウは迷いを断ち切るように一つ頭を振ると、鞘に入ったままだった刀を抜刀した。

「…俺は、仲間を傷つける奴を許さない。
それがたとえ…お前であっても」

その言葉が合図となって、二人は同時に跳ねた。
刃と刃がぶつかり合い、火花を散らすのを、カイは呆然と見ていたーー


* * *


「どうした?動き鈍ってんぞ!」

もう随分長い間剣を交え続けていて、元々の体力の差もありソウは目に見えて疲弊していた。
癒えない傷口が開いて血が伝う。

(……まだ、大丈夫だ。
まだ、動ける)

かつて味わった身体が消える時の痛みに比べたら、皆の痛みに比べたら、こんなものは何ともない。

「なぁソウ。
お前が俺以外の奴と一緒にいるのを見るだけで、気が狂いそうなんだ。
俺以外を見るなら目を潰してやる。
俺以外の名前を呼ぶなら声を奪ってやる。
俺以外の人を好きになるお前を、殺してやる」

そう言いながら叩きつけられた剣は重い。
ソウは後ろに跳躍してアルから距離を取ると、少し息を整えた。
そんなソウを見ていたアルは、急に気が変わったのかふっと笑みを浮かべた。

「長々とやっててもしょうがねぇ。
次でケリつけようぜ、ソウ」
「あぁ…」

ソウとアル、二人の刃が交差する。
まさに相手に刺さる、というその時、アルはソウが悲しそうに笑っているのを見た。
その笑みに何か嫌なものを感じて慌てて手を止めようとしても時既に遅く。

「……ソ、ウ?」

アルの長剣が深々とソウの身体を貫く。
一方のソウは、どこか安心したような顔をしていて、それを見たアルはソウが初めから自分を傷つける気など無かった事を知った。

「…ソウ、なんで……」

するとソウは苦しそうに顔を歪めながらも笑みを浮かべた。
優しくも儚い、綺麗な笑顔。

「…出来……ないよ……
今の……お前は…俺の好きな……お前じゃ……ないけど…俺は……お前が…好きだから……」

血に濡れた腕を上げて、アルの頬をそっと撫でる。
彼の顔は、今にも泣きそうなほどに歪んでいた。

「ソウ、ソウ…!」
「……な……泣く…なよ……アルフレッド……」
「泣いて、ねぇよ…」

ソウはアルの乾いている目元に触れて、ふっと笑うとそのまま意識を失った。
カイもアルも、しばらく呆然としていたが、我に返ったカイが慌ててクロエを呼びに行った。

「…っ、リオウ!」

続いて我に返ったアルは鋭い声で自らの契約竜を呼んだ。
すぐさまやってきたリオウは、何を問う事もなくアルの考えを理解した。
アルは長剣を逆手に持ち、床に突き刺すとリオウの力を借りて魔法を発動させる。
床に浮き出た陣は白い光を放ってソウの身体を包み込んだ。
少しずつ、出血が止まり彼の傷が塞がっていく。

やがてクロエやロイド、アイリス達が慌ててやって来てソウを医務室へと運ぶと、クロエは周りの皆を全て追い出して医務室に閉じこもった。
それからどのくらい経ったのだろうか。
アルは医務室の前に座り込み、隣に、不安そうな顔をしたカイが同じように座っていた。
アルの顔色は真っ青で、所々返り血が飛び散っていたけれどそれを拭おうともせずに医務室をじっと見つめる。
ソウを斬った時の感触がまだ手に残っていて、それが酷く不愉快だった。

一体どうしてこうなってしまったのか。
何処で間違えてしまったのか。
思考はやがて一つの答えに辿り着く。

(俺は…ソウの事なんて全然考えてなかったじゃないか)

いつだって自分の想いを押しつけるばかりで、あの日彼が別の誰かに襲われていた時だって、まずやらなければいけないのはソウを安心させる事だったはずだ。
それなのに嫉妬して、どうしようもなく嫉妬して、結局ソウを傷つけた。
それからだって、ソウが他の誰かと一緒にいるのを見るだけで不安になって。
でも本当は。

(…俺は、また一人になるのが怖かったんだ。
自分が傷つきたくないだけだったんだ)

本当は、気づいていた。
ソウの痩せた身体にも、苦しそうな表情にも。
だけどそれに気づかないふりをして、ただ逃げたのだ。
正面から向き合ってしまえば、ソウは自分から離れてしまうのでは無いかと思ったから。

(…馬鹿みたいだ)

目を逸らしていたのは自分の方だ。
ソウを見ていなかったのは自分の方だ。
それなのに自分だけを見てくれなどと、どの口が言うのか。
ソウはいつだって、自分を真っ直ぐに見つめていてくれたのに。
その目が、好きだったはずなのに。

「…馬鹿、みたいだ」

突然吐き捨てるように言ったアルを、カイは驚いた顔で見た。
その声音は、カイが知るアルのものに近かったのだ。

「アル?」
「…カイ、俺は一体何がしたかつたんだろう。
何処からやり直せばいい?
いや、やり直せるのか?」

カイを見る銀色の瞳は不安をはっきりと映していたけれど、その目に光が戻っているのを見てカイは息を飲んだ。

(戻って来てる、いつものアルが…!)

ソウと戦った事で、ソウを刺した事でちゃんと自分と向き合ったのだろう。
今のアルからは、以前までの狂気は感じなかった。

「…アルらしくないね」
「なんだそれ」

苦笑と共に返された返事に、アルは不満そうに眉を寄せた。
その表情を見て、あぁ、アルだなぁ、とカイは思う。

「うん、アルらしくないよ。
アルはいつだって、自分が信じた道を来たじゃないか」

そんな彼が、自分は羨ましかったのだ。

「何処から、なんて、やり直そうと思ったその時からやり直せるんだよ。
最初は、難しいかもしれないけど…でも、僕らだってそうだったでしょ?」

カイとアルも、すれ違う事が無かったわけでは無い。
何度もぶつかって、その度に仲直りして、そうして今の彼らになった。

「だからアルが揺らいでちゃ、何も始まらないよ。
時間はかかるかもしれない。
でも、アルとソウさんなら大丈夫だと思うな。
だって、それだけ互いに想いあってるんだもん」
「は…?」
「アルが誰かに対してあんなに必死になってるの、僕初めて見たし、ソウさんだって、何をされても結局アルを傷つける事は出来なかった。
これって、そういう事でしょ?」

ふふ、と笑いながらカイが言うと、アルはぐっと言葉に詰まった。
心無しか顔が赤い。

「カイ、その……悪かったな、色々」

ぼそぼそと言われた謝罪に、カイは笑顔で首を振った。

ーーアルが戻ってきた。

それだけで十分だった。
その時ようやく医務室の扉が開き、クロエが顔を出した。

「彼の意識が戻ったけど、会うかしら?」

アルはその言葉に立ち上がると、返事もせずに医務室へと駆け込んだ。
少し心配そうにアルを見るクロエに、大丈夫ですよ、と耳打ちして後からカイが続く。
白いベッドに上半身を起こして横たわるソウを見てアルは安堵の息を吐き出した。
その音に反応したソウは、こちらを振り返ると目を丸くした。

「アルフレッド?
どうした、そんな顔をして」
「…っの馬鹿!」

安堵と怒りが混ざって、思わずソウを怒鳴りつけると彼は益々不思議そうな顔をした。

「どうした?じゃねぇよ!
あんな無茶しやがって…!」

ソウは早口で捲し立てるアルを見て暫く瞠目していたが、やがてふっと笑った。

「何笑って…」
「戻って、きたんだな」

穏やかに告げられた言葉に、アルはハッとして口を閉じる。
そんなアルの頬に、彼はそっと触れた。
先程と違って血はついていない手で、先程と同じように優しく。

「…おかえり、アルフレッド」
「…ソウ……ごめん、ごめんな、お前を見ていないのは俺の方だった。
俺は、」
「もう良いよ。
もう良いから…アルフレッドが帰ってきたなら、それで俺は良いから」

そう言って微笑んだソウを、アルは抱きしめた。
そんな二人を見たカイはそっとその場を後にする。
二人は、もう大丈夫だと思ったから。

「本当に、不器用な二人だね」

苦笑混じりに呟かれた言葉は、暖かい。
二人の様子をアイリス達に報告しようと、カイは広間へと向かった。





暫くしてアルはソウから身体を離した。
気持ちはさっきより幾分落ち着いていた。

「…怪我、大丈夫か」
「あぁ」
「…なんで、あんな真似した」

いくらアルを正気に戻す為とはいえ、少々荒治療すぎでは無いか。
もっとも、それ以外で正気に戻ったかと聞かれれば言葉に詰まるのだが。

「お前を助けるには、ああするしか無いと思ったんだ。
じゃないと、手遅れになると思ったから」
「…俺がお前を殺したらどうするつもりだった?」
「本望だ」

間髪入れずに返された答えにアルは唖然とした。
そんなアルの顔を見て、ソウはおかしそうに笑った。

「冗談だよ」
「質の悪い冗談言うな。
お前が言うと冗談に聞こえねぇ」
「そうだな。
でも…信じてたから」

青い瞳がアルを映す。
竜人族でも、祖竜の契約者でもない、“アルフレッド”を真っ直ぐに見るそれが、アルは好きだ。

「お前は俺を殺さないって、信じてたから。
実際、急所は全部避けてただろう」
「でも、途中までは本気だったぞ。
それに、お前は俺を斬らなかった」
「俺だって本気だったさ。
だけどいざお前を斬るってなると…身体が動かなかった」

こんな事は初めてだ、とソウは語った。
そんなソウを見て敵わないな、と思う。
愛に飢えていて、それでいて愛する事にも愛される事にも不慣れなソウ。
きっと自分は、何があっても彼を手放せない。

「俺を斬ったのがお前だとしても、俺を助けたのもお前だから。
それで良い」

治癒魔法を使った事を言ってるのだろう。
自分がそれ以前にやった事を考えれば、許さなくて当然なのに。
想像もつかないような辛い過去を持つのにそれでも優しく笑う彼が、こんなにも愛おしい。

「…ソウ、悪かった。
もうお前を傷つけたりしない。
俺がつけた傷は俺が癒すから…だから、そばにいてくれ」

勝手な願いだ、と思う。
虫の良い事を言っているという自覚もある。
拒まれても仕方ないとも。
それでもアルにはソウを手放す事など出来ない。
たとえ、ソウが自分を憎んでいたとしても。
しかしソウはふわりと笑うと頷いた。

「俺も…お前のそばに居たい」

たとえいつか元の世界に帰る事になったとしても、どうかその時までは。

ソウの言葉にアルも笑顔を浮かべると、その唇に優しいキスをした。




それから数日後。

無事回復したソウは久しぶりの任務から帰還するとその足でアルの所へと向かう。
幸い広間にいた彼は、探さずともすぐに見つかった。

「…アルフレッド」
「ん?ソウ、どうかしたか?」

俯いているソウを心配したアルが手を伸ばすと、彼はいきなり顔を上げた。

「久しぶりだなぁ、アルフレッド君よぉ?」
「げ、イアル…」

氷点下の声に、広間の空気が固まる。
皆、ついに来たか…という顔でソウとアルを見守った。

「今回はまぁソウが随分とお世話になったようで?」
「いや…その…」

自分が悪いと自覚しているだけに、反論出来ない。
そんなアルを見て、イアルはゆるりと口角を上げた。

「まぁ、俺もソウには色々してきたからあんまり偉そうな事は言えないが……一発殴らせろ」

言うが早いかイアルは思いっきりアルを殴りつけた。
そんな華奢な身体のどこにそんな力があるんだ、という程の力で殴られたが、アルは怒る事はしなかった。
当然の事だと思ったからだ。

「…次、ソウを傷つけたら殺すぞ」
「あぁ。
もうそんな事しねぇ」

殴られて血が滲んだそこを押さえながらハッキリとアルが言うと、イアルは鼻で笑いそして思い出したようにポケットに手を入れた。

「あぁ、もう一つあったな。
お前、人の身体に勝手に穴開けてんじゃねぇよ」
「…悪い」
「ま、もう開けちまったもんは仕方ねぇ。
その代わり、お前にも開けて貰うぞ」
「は!?」

突然何を言い出すかと思ったアルがイアルを見つめると、彼はそれはそれは楽しそうな笑顔でポケットから針を取り出した。

「イアル、ちょっと待て…!」
「人の時は待たなかったくせにか?
大丈夫だ、大して痛くない……多分な」

いつか聞いたような台詞を吐いて、イアルは笑顔でアルを追い詰めた。


それから、アルの左耳には青い石のピアスがつけられるようになったそうな。
それはもしかしたらイアルから二人への祝いの品なのでは、と噂が囁かれたのはまた別の話。





ーーアルフレッド!?どうしたんだ、その耳…

ーーお前の兄貴にやられたんだよ…

ーーそうか…悪かったな。

ーーいや、構わねぇよ。
俺はお前のものだって、証だからな。

ーー…っ馬鹿じゃないのか…っ!


END



[編集]


prev | next

[home]


- ナノ -