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[11]不器用な二人のI love you *アルソウ
by 洸・亜瑠都
2013/02/14 21:42
*一応洸と亜瑠都の合作
*一部某アーティストの歌詞引用あり
*クオリティ?何それ美味しいの?

でお送りします←

* * *

その日、夜空には美しい満月が浮かんでいた。
ふとそれに惹かれるようにアジトの外に出たアルはいつも彼が行く場所に先客が居るのを見た。

「……ソウ?」

辺りは暗いが、月が明るく輝く中で、夜目が効くアルには十分に彼の姿を見ることができた。

声をかけようか迷っていると、ふと風に乗って聞こえる小さな旋律に気付いた。

──迷子の足音消えた 代わりに祈りの唄を
そこで炎になるのだろう 続く者の灯火に───

それは紛れも無くソウの歌声で。
そっと口ずさむ彼の横顔を、アルは綺麗だと思った。

人の気配を感じたのだろう、振り返った湊はアルの姿を見留めると、その目を僅かに見開いた。

「…アルフレッド」

「よぉ。
眠れないのか?」

「…夢を、見たんだ」

視線をアルから空に移してソウは呟いた。

「夢?」

「昔の夢だよ」

そう言って黙り込んだソウは、まるでそのまま消えてしまいそうな、酷く不確かな存在に感じられた。

少しずつ、彼が記憶を取り戻す度に誰か知らない人になっていくような感覚は、アルに言い様もない不安を感じさせていた。

「…でも、夢だろ」

確かにここに彼が居ると確かめたくて、アルは言い聞かせるように言った。

「……あぁ。夢だよ。
…ただの夢だ」

だけど、と言ったきり再びソウは黙ってしまう。
暫くそのままでいたソウは、視線を空に向けたまま口を開いた。

「なぁ、アルフレッド」

「なんだよ?」

「俺の、帰る場所は何処なんだろうな」

その言葉に、アルは一瞬上手く息が出来なくなった。

(そうだ、こいつは、この世界の人間じゃ、無い…)

何かの弾みでこちらの世界に来たソウ。
だとすれば、いつかまた何かの弾みで元の場所へ戻ってしまうかもしれない。

「…お前は、何処に帰りたいんだよ」

「…分からない。
前は、ここが俺の帰る場所だと思ってたけど…約束してたんだよな、俺」

「約束?元の世界の奴らとか?」

「多分、な。何でそういう状況になったのかはまだ思い出せないんだが…でも約束したんだ、“必ず帰る”って」

『絶っっ対帰ってこい!』
『帰ってこなかったら承知しねぇぞ!』
『ずっと待ってっから!』
『だから忘れんなよ、俺達がいること』

遠い遠い記憶の中で、誰かが口々に叫んだ。
今はまだ思い出せないけれど、それはとても大切な人達の声だとわかる。

「じゃあ、帰るのか。
記憶が戻ったら」

アルの、感情を押し殺したような声ではっと我に返った。

「…帰るんだろうな。
だけど、帰りたく無い気もしてるんだ」

変だよな、と少し笑ったソウを、アルは笑えなかった。

“ソウがいなくなる”

ただそれだけの事なのに、それが酷く恐ろしいように感じたのは何故だろうか。

「アルフレッド?」

「あ、悪りぃ、ちょっとぼーっとしてた」

「疲れてるんじゃないか?無理はするなよ」

「それをお前が言うか」

言いながらアルは思考を断ち切るように首を振った。
先の事は、その時考えれば良い。

今はまだ、彼は確かにここに居るのだから。

そう言い聞かせたアルは、ソウの視線を追って空を見る。
周りを闇に包まれながら、それでも凛と輝く月は、どこかソウに似ている、と思った。

「…月が、綺麗だな」

自然と口から零れ落ちたその言葉に、ソウは驚いてアルの顔を見た。
そのまま暫し硬直していたが、再び視線を空へと戻すと静かに口を開いた。

「…俺、死んでもいいよ」

呟きとも呼べる様なそれは、されど二人の間を占める静寂によく響いた。

「何言って…」

「死んでもいいよ、俺」

そう言ったソウの目は、真っ直ぐにアルを見ていた。
相変わらず綺麗な目だな、とアルは思う。

そこに嘘や冗談は1つとして見受けられなからこそ。

「あのなぁ…そういう事簡単に言うな」

お前が死んだら困るんだよ、と割と本気で続けたアルに、ソウは何故か複雑そうに笑った。

「……、…あぁ、すまない」

変な事言ったな、と呟かれた小さな声に含まれた想いにこの時のアルは気づけなかった。




「ねぇアル知ってる?
ある極東の国でね、I love youを“月が綺麗ですね”って訳した人がいるんだ」

珍しく休暇を貰ったアルとカイは、カイの希望で街の図書館まで出かけていた。

その帰り、カイはふと思い出したように話し始めた。

「へぇ…月が綺麗ですねでI love youなぁ。
それで伝わるとは、随分とまあロマンチストの集まる国なもんだな。………あ」

(そういやあんとき…)

「それでね、……?
アル、どうかした?」

不意に何かを思い出した様に気まずそうな顔をしたアルを見て、カイは首を傾げた。

長年一緒にいたからこそ判るほどささやかではあるが、心なしか顔が赤い。

「あー…いや…」

アルは微妙に口ごもった後、

「そん時はそーゆー意味があったなんて知らなかったんだけどな」

と前置きしたが、

「あ、わかった!
アル、誰かに言ったことあるんでしょー」

と結局言葉の先をウェンディに奪われてしまった。

「…まぁ、そういうことになるな。
ほら、この前の満月ん時」

「ああ、あの日のお月様綺麗だったもんね」

「ふむ、酒の肴には持って来いの望月だったな。
しかし…我が主はなかなかのロマンチストだった様だ」

「うるせぇ、だから知らなかったって言ってんだろうが」

「あはははは。
まあ、そんなに知られてるものじゃないし、多分そんな気にすることないと思うよ。
アルも知らなかった位だしね」

リオウがからかう様ににやりと笑うと、何時もの様に痴話喧嘩が始まりかけ、また何時もの様にカイがそれを収めた。

「…だと思うけどな。
…っと、それよりカイ、さっきなんか言いかけてただろ」

悪いな、と中断させてしまったことを謝ると、カイに話の続きを促した。

「え?
ああ、うんちょっとさっきの話のついででね。
さっきの訳はナツメソウセキって作家のものらしいんだけど、もう一人、同じ国の作家で、面白い訳をした人がいたんだよ」

「はぁ、そりゃまた……"そこにロマンのある国"ってか」

「なにそれ?」

「いや、何でもねぇ。
で?なんて訳したんだよ?」

聞き知らぬ言葉に首を傾げるカイに答えを促すと、訝しげにしつつも彼は訳を口にした。

「うん、フタバテイシメイって人なんだけどね。
──って。
ナツメさんにも負けないくらい、興味深い訳だよね」

楽しそうにそう言って振り返ると、先程まで隣を歩いていたアルは何故か数歩手前で立ち止まっていた。

何事かと目をやれば、数秒間絶句した様にカイを見つめ返した後、不意に左手で顔を覆って俯いてしまった。

「アル?」

「……………〜〜っ」



『…月が、綺麗だな』

『……俺、死んでもいいよ』

すまない、と言った時、彼はどんな顔をしていただろうか。
だからあの時、驚いた顔をしていたのか、と頭の冷静な部分が告げた。

「そういう、ことかよ…」

(回りくどい言い方してんじゃねぇよ馬鹿野郎)


「アル?大丈夫?」

「…悪い、カイ」

「え?」

「ちょっと急用が出来た。
先リオウ連れて戻っててくれるか」

「うん、それは良いけど」

急にどうしたのだろうとアルを見ると、顔は未だ手で覆われていたが、今度は明らかに耳まで赤いのが見て取れた。

(あ……そう言えばこの前の満月の日って)

ウェンディと二人で歩いていた時、窓の外に見かけたアルの隣に居たのはたしか──

「悪いな、なるべく早く戻る」

「…ううん、いってらっしゃい」

そう言うや否や、アルは来た道を戻り走って行った。

その背を見送りながら、「頑張れ、アル」とカイが呟いたのを、彼は知らない。

(アルにも、そういう人が出来たんだね、良かった)




『うん、フタバテイシメイって人なんだけどね。
“私、死んでもいいわ”って』

「そういうのははっきり言えよっ…!」

走りながら苦々しく呟くも、彼はそういう性格で無い事はよく知っていた。
寧ろ、遠回しにも言ってくれただけでも奇跡である。

それにすぐ気づけなかった自分に苛立つ。
いや、知らなかったのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「っい、ソウ!!」

ソウの部屋のドアを、ノックもそこそこに勢いよく開ける。
常のようにヘッドホンをしていたソウは突然の来客に目を瞬かせた。

「な、……アルフレッド?」

「お前な、もっとわかりやすく言えよ!」

アルの言葉にソウはきょとんとした顔をする。

「…悪い、何の話かよくわからないんだが」

「…っ。あ゛ーくそ、一度しか言わないからな」

髪をぐしゃぐしゃと掻き回し、暫く躊躇していたアルはやがて意を決したような顔でソウを真っ直ぐに見た。

「?」

「"月が綺麗ですね"!!!!」
───私は貴方を愛しています──



「………」

「…おい、」

黙り込んで俯いてしまったソウを見て少し不安になったアルが彼の肩にそっと手を伸ばす。

「…今は、月出てないぞ…」

後少しで肩に触れるという所で、漸くソウが口を開いた。
それは、思わず聞き逃してしまいそうな程小さな声だった。

「んな事分かってるよ。
つか、顔上げろ」

「…無理だ」

「何でだよ、ほら」

「…っ、ちょ」

渋るソウの顔を半ば無理矢理上げさせる。
今では気の許した仲間であれば多少触れるのは大丈夫になっていた。

「………」

上げたソウの顔を見て、今度はアルが黙り込む。

「……だから、無理だと…」

ソウの顔は、普段から血の気が無いせいか、少しだけでも赤く染まっているのがよく分かった。

いつもは真っ直ぐこちらを見る青い瞳も今は動揺を隠そうともせずうろうろと視線を彷徨わせている。

(…え、何この可愛い生き物)

「……意味、分かって言ってるのか」

未だアルの顔を真っ直ぐ見れないのか、ソウはアルと視線を合わせようとせず、小さな声で問うた。

「じゃなきゃわざわざこんな事言いに来ねぇよ。
で、お前からは何か無いのか?」

アルがからかう様に言うと、ソウはうっ、と言葉に詰まる。

「…この間言っただろ……」

「もう一回、ちゃんと聞きたいんだよ」

「…お前がそういう事言うなって言ったんじゃないか」

「あれはそういう意味だって知らなかったんだよ!
…もう一回、言ってくれよ」

アルが真剣な顔で言うと、ソウは更に顔を赤くした。
滅多に見られるもんじゃないな、と思いながらアルはソウの言葉を待つ。

「……俺、」

やがてゆっくりと言葉を吐き出したソウは、照れたような、泣きそうな、不思議な笑みを浮かべて

「俺、死んでもいいよ」

そう言った。
その言葉に、アルもふっと表情を緩める。

そしてふと思い出した様に、

「あ、でもそういう意味じゃなくても他の奴には言うなよ」

と付け足した。

「……何でだ?」

「俺が嫌なんだよ。
変に誤解する奴が出てきても腹立つし、やっぱお前の口からはそういう事聞きたくねぇし」

しれっとアルが言うとソウは手の甲で口元を抑え、戻りかけていたいつもの冷静さは何処へ行ったのか、再び目に見えて動揺したのが分かる。

「…っ馬鹿じゃないのか…!?」

「なんでだよ、嫌なもんは嫌だろ」



不器用な二人の“I love you”
(ちゃんと言うのはまだ先の話)



「あぁ、俺も嫌だね。
つーか何ソウに手ぇ出してんだ、殺すぞ」

「てめえイアルか!」


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