スレッド型
[返信]


[29]アルソウ 蛍火の杜へパロ Noah
by 亜瑠都
2014/07/09 16:58
attention!
*蛍火の杜へパロを前提としたお話。
*an/dropさんのNoahという曲を元ネタに書かせてもらってます(ラストのは全部歌詞です)
*語彙?表現力?なにそれ美味しいの?
*ノリで書いたので展開が突然すぎ笑えない
*文才なんて求める方が悪い

以上、OK?

**********

ふわり、と。
小さな白が視界の端を静かに通り過ぎた。
一瞬瞬きをすれば、それが引き金となったように、あの日の如く氷華は世界を白く染めていく。
背中を鳥居の足に預けた銀髪の青年は、ぼやいたかつてとは違い、白息を漏らして小さく笑った。
彼と出会って、分たれてから5年経ってなお、ここは何も変わらない。
遠くで冬枯れを知らない木々がゆれて、ざわざわと音を立てた。
そう、こんなところさえも。
見たらすぐ、帰るつもりでいたのに、気付いたら小一時間程経過していた。
現れることなど有り得ないのは、自分が一番よく知っているのに。
それでも、足は動かなかった。
冷たい空気が頬を凍らせる。
少しでも和らげようと、もうボロボロになってしまった空色のマフラーを引き上げた時、懐からからんと何かが落ちた。
この5年、見るのも辛くてしまい込んでいた、しかし何より大切な、狐を模したその面。
我ながら未練がましいなと苦笑しつつ、その表面をそっと撫でて、自分の顔にあてがった。
閉じた瞼の裏に広がるのは、飲み込まれそうなほど深い青。
不覚にも目頭が熱くなってぎゅ、と強く瞑ってから、そろそろと目を開けた。
うすくぼやけた狭い視界に映る、緑、白、そして。
ざわり、と再びどこかで木が鳴いた。

(ああ、これは…………)

あるはずがないと、そう、思っていたはずなのに。

「………また、迷子か?人の子よ」

どこか確信していたように、その準備をしていたように、突然どくどくと体中で血が巡る。

「……迷子って言うなって、言っただろ」

ああ、これは、夢なのだろうか。
自身の吐いた白い息の向こう、呑み込まれそうな程深く美しい青が微笑んでいた。


*******

この状況をなんと呼ぶべきなのか、アルにはわからなかった。
自らの未練がましい夢か、幻覚か、はたまた山神の起こした奇跡か。
そしてそれは、ソウ自身にもわからないようだった。
ただ彼は紛れもなくかつての記憶をもった、5年前に消えた彼と同じ者であった。
今、アルがソウに触れられるか否かも、二人にはわからなかった。
しかし自然と、二人は触れそうで触れない、ボロボロのマフラーで繋がれた慣れ親しんだ距離をとった。
そのままあの頃が戻って来たように、どちらからともなく森の奥へと足を進めた。
ちらりと見た時計の針は、午前二時を指していた。



5年ぶりに足を踏み入れたそこは、記憶の中のものと殆ど違わなかった。
雪が多く落ち溜まる場所、寒さを和らげる大きな幹、遠くで風が木を鳴らす音。
ただ、定位置だった木の下へ至る、踏み分けて作られた獣道だけがなくて、その全てが平等に白に覆われていた。

「なぁ、ソウ」

何時の間にか二人の間に落ちていた不思議な、しかし心地良い沈黙を先に破ったのはアルだった。
互いの腕を繋いでいたマフラーを解き、少し驚いた様な顔をしたソウの首にぐるぐると巻き付けた後、徐ろに足元から雪を掬った。
そして、悪戯を思い付いた子供の様に笑ってみせた。

「雪合戦、しようぜ」


全力で走って、雪を投げて、よけて、暗い森に笑い声を響かせて。
まるであの頃に戻った様に戯れながら、あの頃とはもう違うのだということを、二人は互いに感じていた。
かつては無邪気に共に過ごす時間を楽しんでいた。
今は、ただ一刻と迫っているはずの別れが恐ろしい。
かつては少し下にあっただけの彼の深く美しい青。
今は、前よりも低く遠く感じた。
5年の間に、アルは大人になっていた。
変わらないのは、この森と、ソウと、呑み込まれるような青に焦がれるこの

(思い、だけだ)



「だぁー!つっかれた!…………おい、大丈夫か、ソウ」
「………っけほっけほっ…………ああ……問題な、っけほ」
「…咳き込むくらいなら返事すんな馬鹿」

全身で息をしながら、二人して雪の上に倒れ込む。
既に全身雪だらけで、今更服がどうのなど欠片も気にならなかった。
冷たいはずの雪や風も、今はただ気持ちが良い。
何時の間にか、雪はやんで雲間から月の光が垣間見えた。
目を閉じると血液が奥でどくどくと音を立てる耳にざわざわと、

(ああ、また遠くで、木が)

「アルフレッド」


隣から呼ばれた名に、目は開けなかった。
なに、と返すと少し考える様に沈黙したあと、別に、と返ってくる。

「ただ、お前の名を呼びたかった」
「なんだそりゃ」
「さぁ、俺にもよくわからない」

「……ソウ」
「なんだ」
「読んでみただけ」

なんだか可笑しくなって、二人で小さく笑って、名を呼び合うだけの行為を繰り返した。

「なぁ、アルフレッド」
「…なんだよ」

幾度、互いの名を呼び合っただろうか。
その声が、先程までの戯れとは違うのをアルは感じ取っていた。

「神様はいるのかな」

ぽつりと呟かれたその言葉に込められた感情を、アルは知らなかった。
否、そんな感情を示すソウを、知らなかった。

「この森の緑が保たれているのも、お前を救ってくれたのも、山神さまのおかげなんじゃなかったのか」

だって彼は、その体質を、運命を、受け入れているように見えたから。

「そう、だったな……じゃあ、なんで」
「…………」

ざん、と隣で雪を拳が叩く音がした。

「じゃあなんで!俺はお前に触れられない、お前の隣にいられない、お前と共に成長出来ない………!俺は、消えたくない………!!」

救ってくれたなら、それでお前と出会う運命だったならば何故、そんな風に作ってはくれなかったのか。

その叫びと頬に何かが落ちた感覚に目を開けると、何時の間にか起き上がっていたソウがその美しい青玉から涙を零してアルを見下ろしていた。

(…………虹、が)

月の光が零れ落ちた彼の涙を通って、プリズムを創っていた。
思わず手を伸ばすと、それはアルの掌の上にきらきらと散った。

(初めて、見た)

ソウの涙も、ソウの悲しみも、ソウの生への欲も。
こんなにも悲しくて、こんなにも美しい欲を、アルは知らない。

「お、前の…アルフレッドの、せいだぞ………こんなこと、山神さまを恨むだなんてこと、一度だって、なかったのに……」

溢れる涙を止めようともせずに、困った様に笑うソウを見て、自分のせいで生まれたというその欲を聞いて、アルは彼を愛しいと、心から思わずにはいられなかった。
そしてそう思っても抱き締めることも叶わないことが悲しくて、せめてと彼には触れないように気をつけながら、彼の涙を掬ってやった。
ソウはそれを、切なそうに微笑みながらされるがままになっていた。


「アルフレッド」

はらりはらりと涙を零しながら、ソウは再びアルの名前を呼んだ。
なんだ、と声には出さずただ目を合わせて先を促した。
彼はじっとアルを見つめた後、ぽつりと、告げた。

「好きだよ」

それは、5年前と同じ言葉。

「………俺もだよ」

返した言葉も、同じ言葉だった。
それを聞いてソウはふわりと笑ってみせた。
懐から出した狐面を、懐かしいなと目を細める彼の顔に被せてやった。
そして今度は自分から、狐面の上から口付けた。
このまま時間が止まればいいと、切に願ったのはどちらだったのか。
長い様な一瞬の後、ソウはアルの耳に口を寄せて、あの日もちゃんと聞こえていたよ、と囁いた。



東の空が、しらみ始めていた。
マフラーで手を繋いで、来た道を戻りながら、二人は色々な話をした。
実際ほとんどがアルの話だったが、ソウは楽しそうに聞いていた。
もう少しで何時もの石鳥居だ、といったところで、急にソウが立ち止まった。

「ソウ?」
「………俺、"サヨナラ"なんて言えないよ」

絞り出した様な、声だった。

「多分、この5年間そうだったように、アルフレッドはこれから沢山の人に出会うんだろう。その内恋をして、結婚して、また人の子を生むんだろう」
「……………」

俯いたソウの表情はわからなかった。

「だから、5年前に言えなかった"サヨナラ"を、きちんと言おうと思ったんだ。俺と出会ったことは無かった事にして欲しいと。多分もうすぐ俺は消えてしまうから、その前に。そのために俺は今夜お前に逢えたんだって」

でもだめだ、と彼は呟いた。

「サヨナラなんて言えない」

すまない、と顔を上げた彼は、顔を歪めて笑い損ねていた。
そんな彼に呆れて、アルは手に持った狐面で阿呆、と彼の頭を小突いた。

「サヨナラなんて要らねえよ」

お前と出会ったのは、5年前も今も本当のことで、無かった事にするつもりなんか欠片もねえよ。
驚いた様な顔をする彼に、そう告げると、困った様に、けれど嬉しそうにはにかんだ。
そうして再び、鳥居へと足を踏み出した。
別れは彼処で、と言葉にせずとも伝わっていた。

きっと、彼の言うように自分はいずれ結婚し、子供を生むのだろう、とアルは足を進めながら考えていた。
けれど、彼のことを、そして彼への想いを忘れることはするつもりも、出来るつもりもない。
これだけは、生涯抱えて生きていくのだろう。

石鳥居に着いた時、時計の針は午前五時を指していた。

「それじゃ」
「ああ」

なんとも淡白な別れだ、と思ったが、あの日のようなアクシデントでもなんでもない、この別れ方が一番自分たちらしい気がした。
それでも別れ難くて、けれど意を決して歩き出そうとしたとき、ソウが突然口を開いた。

「"ここをまっすぐ行くと森の出口へ出る"」
「おう……知ってるぞ?ありがとな、送ってくれて 」

突然、わかりきったことをどうしたというのだろうか。
振り返ってソウを見ても、ただ穏やかに微笑んでいるだけで、意図は読み取れない。
今生の別れと言っても差し支えない時に、彼は一体何をしているのか。
怪訝そうな表情を浮かべていると、再びソウが口を開いた。

「……"ここは山神様と妖怪達の住む森。 『入っては心を惑わされる』『行っては いけない』と、村で言われただろう"」

(あ……………)

その聞き覚えのある言葉を聞いて、ようやくアルはソウの意図を理解した。
確かにこれは、自分達に相応しい。
にやり、と笑うと、ソウも同じように返してきた。
頭をフル回転させて、記憶を呼び戻し、アルは口を開いた。

「…………"さあな、俺はここに来たばかり だから。 俺はアルフレッドだ。 お前は?"」

かつての狐の無機質な面ではなく、自分が愛した美しい青を見つめて返答を待つ。
ざわざわと再び木々が音をたてた。

(ああ、もうすぐ夜が明けてしまう)

幸せそうな微笑みをたたえる彼をしっかりと目に心に焼き付けて、アルは背を向けて

「"じゃあな、とりあえず、また明日来るから"」

もう、今日の様な奇跡は起こらないだろう。
彼に会うのは本当にこれが最後に違いなかった。

(それでもサヨナラは、要らない)

そう思って、けれどもゆっくりと歩き出した。
そろそろ出口に繋がる山道に差し掛かる、といった時、後ろからいきなり、一 言だけ聞こえた。

「"ソウ"だ」

それが聞こえて、やっと振り返るも、そこにはもう、誰もいなかった。
美しく雪が反射する光に包まれた石鳥居を見上げて、アルは満足そうに微笑み、一筋だけ涙を堪えきれずに、森の出口へと再び歩き出した。




朝が来れば別の道 君と一緒午前二時 君の涙に触れる 呼吸をする空気も見えなくて

「神様はいるのかな」 手を離した午前五時 白い雪に触れる 吐き出す言葉が白くなる

互いの名前を呼んだら愛おしい 君のせいだけならば痛くはないよ

サヨナラなんて言えないよ 僕らがそっとついた嘘 出会ったのはホントだよ サヨナラなんて言えないよ

乾ききった土に船 作られた夜の虹 ぽたぽた伝い落ちる 雫はココロで波となる

明日じゃ遅くて昨日じゃ早くて 今なら消えないとわかっているけど

「サヨナラなんて言えないよ」 絞った声が言う言葉 優しくそっと聴く声に サヨナラいつか待ってるよ

サヨナラなんて言えないよ 僕らがそっとついた嘘 出会ったのはホントだよ サヨナラなんて言えないよ

サヨナラなんて要らないよ 僕らはきっと知ってるよ 出会えたのはホントだよ サヨナラだって言えないよ


[編集]


prev | next

[home]


- ナノ -