短編 | ナノ


簪に込めた思い


城で愛しい人の帰りを待つのはもう慣れた。
旅をしているのだから仕方ないのだが、こんなに長く上田を空けるなんてことは滅多にない。
いい加減帰ってきてもおかしくはないのに、なかなか帰ってこない愛しい人。


『遅いな…。』


1人、自分の部屋でぼやいてみる。
空にはもう橙色がさして、日が沈みかけている。
今日もまた帰ってこないのだろうか。

諦めかけたとき、ゆったりとした足音が聞こえた。
帰ってきたと期待し、自室の襖を勢いよく開けて足音の聞こえた方向を見る。

その先にいた足音の主は種子島を携え、髪の毛を高いところで結んでいる。
待ち続けた愛しい人だった。


『筧さんっ!!』


久しぶりにあったからか彼の名前を叫び、思い切り抱きつく名前。
勢いが良すぎたのか抱きついたと同時に十蔵が頭を後ろに思い切りぶつける。


「久しぶりだな名前、元気だったか…なんて聞くまでもないな。」
『筧さん酷いです!!』


不貞腐れた態度をとると、冗談だといい、頭を擦りながら笑う彼。

固い彼が冗談を言うことなんて滅多に無いから暫く固まっていると、自分がどういう体勢でいたかを十蔵から指摘され一言謝り、急いで彼から離れた。


「そうだ、名前に土産がある。」
『はい?』


懐から細長い木箱を取り出すとその木箱を名前に渡す十蔵。


「開けてみても構わんぞ」


そう言われ木箱の蓋をゆっくり開けるとその中には見るからに高そうな簪が入っていた。


『こんな高価なもの、受け取れません!!』
「いいから受けとれ、某の気持ちぐらいに思ってくれればいい。」


気持ちにしては高すぎるが、こうなった十蔵には敵わないと思ったので、素直に受けとることにした。


『じゃあ、筧さん。』
「なんだ?」


十蔵の前に受け取ったばかりの簪を差し出す。
十蔵はそれに意味が分からないといった顔をしている。


『簪、さしていただけますか?』


名前は困ったような彼の顔が面白かったのかクスリと笑いながら十蔵にお願いをする。
そんなことか、と高価な簪を名前の髪にさす。


『どうですか?』
「あぁ、とてもよく似合っている」


満足そうな彼の表情を見て、名前も思わず笑みを溢す。


『ありがとうございます。大切にしますね、』



に込めた思い

彼女は気づくだろうか。




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初めての筧さん夢です。

文中は「筧」と書くか、「十蔵」と書くかで、ものすごく悩みました。
結果今回は「十蔵」にしました。

もっと筧さんが広まればいいと思う。



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