空がまだ薄暗い明け方
目覚ましとして枕元に置かれていた携帯のバイブが鳴り、うとうとと目を覚ます
『たくっ…うるせーな』
どうやらTwitterでフォローされその通知が来たようだ
二度寝しよ…頭でそう考える間もなく、体は行動に移るのだが…
『あちー』
1分ほどうつ伏せになり、ダルい体を抱き起こし、部屋に置かれてある冷蔵庫へと足を進めたのだが飲み物が無いことに呆然と立ち尽くしてしまった
『しょうがない…買いに行くか』
どうせあと30分後には起きなければいけないのだ。
またも重たい足取りで自動販売機のあるロビーへと歩く
自販機にお金を入れてファンタのボタンを押す
出てきた缶は冷たく、熱い喉を潤してくれた
『コート、誰かいるかな』
部屋に戻ろうとしたが、ふと、コートの風景が頭をよぎった。喉が潤ったため私は軽い足取りでジュースを飲みながら向かった
どうせ誰も居ないだろうし、行くだけ損だろう。そう頭でも理解はしていた
案の定ボール一つ落ちていない綺麗に整備されたコートを見て、なぜだか先程まで高かった体温が一気に下がった気した
『飲みすぎて寒くなったかな』
合宿の皆がテニスをしていると私も打ちたくなる。なぜか自分の部活の時にその気持ちは一向に湧き出てこないのが不思議であった。
女子テニス部は男子テニス部が目的で入部した人が半分以上いるという状況を知ってしまったからなのか、とにかくやる気が出ないのだ。
「今日はちゃんと起きたみてーだな」
『!?』
そろーっと声のした方へと視線をずらすと、壁で隠れて死角に入っていた跡部さんがストレッチしながらニヒルに笑ってるんだが解説頼む
『いつ、からそこに』
「ずっと居たぜ。女なら音をたてずに飲み物位のみな」
『っぐ』
なんか凄い煩いんですけどこの人
「よし、じゃあ俺様が直々にレッスンしてやるからコートに立て」
『言ってる意味が理解出来ません』
「ラケットがねぇなら貸してやるよ」
『私テニスのルールシラナイネー』
「女子テニス部だろ、良いからコートに出ろ」
『えー』
えーっと言いながらも、内心は打てる事にわくわくしながら準備体操をし、ラケット借りてコートに立った
ちなみにシューズは、兄が持ってきてくれてたので合宿中はずっと履いている
コートは無駄に広く感じた
「行くぜ」
『いや、いきなりは無理っす』
相手が相手なだけにかなり緊張している。相手は男性でしかも年上、この合宿はレベルの高い人ばかりでこの人は氷帝の頂点に君臨する人だ…はず(確か)
『せめてラリーでお願いします』
何日振りにテニスコートにたってボールを打ち合っただろうか
そもそも部活中にちゃんとしたラリーなんてやったか?
「ほらほら、行くぜ!」
『最強夢主とかじゃ無いんで私!!』
ロブばっかりのラリーだというのに男と女ってのはこんなにも力差があるものなのか…と感心しながらも打ち返すのだけで精一杯だった
「おまえ、いつも俺たちの練習見ながら物欲しそうな目で見ていたな」
『そんな事ありません、よ…皆さんのテニヌを見て嘲笑ったりなんてしてませんって』
「あぁ?何か言ったか」
『いってませーん』
久々に持つラケットは、自然といい感じにグリップが馴染む。人のラケットの様な気がしない
跡部さんの鋭いボールが、ラケットから腕にビンビンと振動が伝わってきてそれが快楽に変わる、気持ち良い。とても楽しい
ボスっ
『あ
ネット!!悔しい!!』
軽い足取りでボールを取り、次にサーブを打つ体制に入った
「お前、この合宿中で一番良い顔してんじゃねーか」
『へ』
ほうり上げたボールを空振って、空を切る
『そんなに…私楽しそうにしてますか』
確かに楽しい、こんな良い球を打つ人と試合をしたことさえ無ければ、ラリーさえも無い
あの夜の事件さえなければ、かなり跡部さんは憧れる存在だったかも知れない
そう思うと色々複雑だ
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少女はテニスコートへ走った