name
「ねぇ快斗。りんごあめ欲しい」
「自分で買え」
「えぇケチー!」
「ケチで結構」
「ぶー」
俺は、俺は今なぜここにいるのだろうか
可愛く着飾った女子が横にいて、俺の手を掴んでいる
夏祭り
別に嫌いでは無いのだが、今だけは好きになれない
「じゃあ一人で買ってくるもん」
おーいってこい
そういって俺は屋台から少しはなれた木に寄りかかった
「おいあいつ可愛くね?」
「あ、どれだどれ」
「りんごあめの屋台の前にいる着物の女だよ」
「お!かわいいじゃん」
「………」
目の前を通りすぎた男子の集団の目線の先にはまあきがいた
連れてけ連れてけ
と、頭に中で最低な事を浮かべた
「あーぁ…うぁぁぁああ!?」
あくびをした
したその時口を隠そうとした左手の反対側、つまりは右手をきつく握りしめられ引っ張られた
「な、なんだ」
手の先には浴衣を来てお面を被っている少女、
下駄じゃ走りにくいだろうに彼女は真剣に立ち止まることなく走っている
男の力ならこれぐらい振り払えるのに、今だけはそうしなかった
「おーい!快斗!!快斗のぶんも…あれ?快斗?居ない」
まあきは今ごろ探してるのだろうか、と頭の隅で考えてからすぐに忘れた
前を走っている少女から小さく吐息が聞こえてきて、どこまではしるんだー?って呑気な自分がいる
人混みの中を抜け、屋台の無いところへ来るとどんどんスピードは落ちていき、どこかわからない森の中で足を止めた
はぁ、はぁと吐息がさっきよりもはっきりと聞こえた
こいつ、うなじ綺麗だな
「どうしたんだひかり」
ゆっくりとこちらを向いた狐の仮面はじっと、じっとこちらを見つめていた
『……』
こいつがひかりだと思ったのはまあきとひかりがぶつかったときだ
声で判断した
助けてあげたかった
転んだ彼女に手を差し出したかった
でも、また前みたいに拒否られたらどうしようって深く考えすぎた俺は早足でその場から逃げた
もうひかりに嫌われてるって分かってたから
「どうしたんだ」
だからこのあと来る言葉が、こんなに驚く事だとは想像にもしてなかった
『好きです快斗先輩』
[*前] | [次#]
TOP