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私と彼の関係は、なんとも可笑しなものだった。
恋人でもなければ、友達でもなくて、家族でもなければ、同僚でもない。ただ、同じ屋根の下で一緒に過ごしているだけの関係。
そもそも、そんな関係であるはずなのにどうして同棲なんてすることになったのかといえば、彼が私の監視をするためだった。
よく分からないけれど、私の身体は他の人と違う作りをしていて、危険だから国の偉い方にいる彼の元で監視されながら過ごすことになったって。
家族もよく分からない病気で死んで、一人ぼっちになって行くところがなかったから、私はそのことに関して何も文句を言わなかった。


「レオン、今日も遅いの?」
「ああ。帰るのは明日かもしれない」
「…そう」


珍しくよく晴れた日の昼。
私を監視している彼は仕事に行く為の準備に取り掛かっている。丁度私が二階にある私室から降りてきたときのことだった。
大統領直属のエージェントである彼は多忙だ。今日だって、非番だって言っていたのに、仕事に行く準備を始めてる。きっと休みが潰されて不機嫌なところだろう。
監視、というのは題目だけで、彼はほとんどこの家にいない。


「気をつけてね」
「…ナマエも、大人しくしてろよ」
「私がいつ暴れたって言うのよ」
「この前鍋を爆発させて、キッチンを大惨事にしたのは誰だ?」
「料理してただけだよ」


彼とは…レオンとは、本当に可笑しな関係だ。
レオンと過ごしてもうすぐ一年になる。レオンは、良い人だった。監視っていう対象のはずなのに、快く私をここに引き取ってくれて…監視という素振りも一切見せず、普通の生活を送らせてくれている。
家族でも、恋人でも、友達でも、仲間でもないのに。


「ねぇ、レオン」
「ん?」
「どうしてレオンは私をここにいさせてくれるの?」


ジャケットを着ているレオンの表情が、固まる。
私はそんな彼をただひたすら見上げていた。今までずっと疑問に思っていたことをとうとう口にしてみたが、案外なんともない。


「なんでそんなことを聞くんだ?」
「この前、電話がかかってきたの。よく分からないけど、女の人。レオンと同じ仕事の人だって言ってた。その人が言ったの。私は、本来ならレオンの家じゃなくて、ウィルスの研究所ってところにいなくちゃいけないんだって」


レオンは、何も隠すことなく表情を歪めた。
眉間に皺を寄せたその表情は、せっかく整った顔を台無しにしてしまっている。
彼のこの表情を見るのは初めてじゃない。よく…恐らく仕事の人と電話しているときは大抵こんな表情で喋っているから。


「私、研究所ってところに行かなくちゃいけないなら行くよ」
「……それがどういう意味か、分かってるのか」
「ううん。よく、分からない。でも、いるはずのところにいないのは可笑しいと思うから」
「ナマエは、俺と暮らすのが嫌だったのか?」
「ううん。私はレオンといる時間が一番好き」


――本当はね、仕事にだって行って欲しくない。
思わずそう本音を漏らせば、レオンはなんともいえない表情で私に歩み寄り、そのまま抱きしめてくれた。
レオンは、時々こうやって私を抱きしめてくれる。どうして抱きしめてくれるのかは分からないけれど、私は、レオンの体温に包み込まれるこのときが好きだった。


「…レオン、監視はもう、やらなくていいんだって」
「ああ」
「もう、ずーっと前から、しなくて良かったんだって」
「そうか」
「私は、今すぐにでも、研究所に行くべきなんだって」


それを阻止してくれているのは、レオンなんだって。


「ナマエ。ナマエが研究所に行きたいなら、俺は止めない」
「…うん」
「でも俺は、行ってほしくない。あんなところにナマエを…渡したくない」


耳元で聞こえるレオンの声が妙に熱っぽくて、私の頭はふわふわしてしまう。
私の身体を抱く腕にも力が篭り、私もそのまま彼を抱きしめ返した。
研究所がどんなところだか分からない。だけど、


「…レオンがそう言うなら、私もレオンから離れない」


ここまでレオンが言ってくれるのなら、私はもう、ここにいることを躊躇わない。
レオンが心変わりをして、私に出て行けって言うまで、私はここに…レオンの傍にいる。
ううん、私が彼の傍にいたいんだ。


「私、レオンと一緒にいる」





私と彼の関係は、なんとも可笑しなものだ。
恋人でも、友達でも、家族でも、同僚でもない。


でも、名前を付け難い、確かな絆が私たちにはある。


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この後レオンは仕事サボっちゃったりします(笑)
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