メイン | ナノ

※百合表現注意


「ナマエ、エレンが調査兵団に入りたいって言うの」

私のスカートを握り締め、腰に顔を埋めてきたミカサを黙って受け入れる。今、自宅には私とミカサしかいなかった。母さんは買い物に行ってるし、エレンはその手伝いに行っていて、父さんはまた仕事だ。ミカサがこうして甘えてくるのは、私と二人きりのときだけに限られていた。

「そういえば、調査兵団の話をよくするもんね」
「やだ。調査兵団に入ったら、エレンは…」
「そうだね。兵士に憧れるのはいいんだけど…そっか、よりにもよって調査兵団か」

不安げな瞳を私に向け、擦り寄ってくるミカサの頭を撫でながら私は最近のエレンのことを思い出していた。母さんと父さんがいない時間…ミカサと私の前でエレンは調査兵団のことと、壁の外への興味を楽しげに話す。今は壁の外に興味を持つなんて普通の人間じゃありえないと思われているけど、好奇心旺盛なところは父さんに似たのかな。…いや、私も人のこと言えないか。

「…ミカサ、私もね…調査兵団に入ろうと思ってるの」
「っ!?」
「母さんたちには、憲兵団ってことにしてるけど」
「そんな…駄目ッ!! 絶対駄目!!」

勢いよく私と離れたミカサの表情は、絶望そのものだった。私がその表情をさせてしまっているのかと思うと胸が痛むが、この子に嘘をつき続ける方がもっと痛い。
ミカサは綺麗なその顔をくしゃりと歪めて、再び私の胸へと飛び込んできた。さっきよりも数倍強い力で抱きしめられる。私はただ、それを受け入れることしかできなかった。

「駄目…絶対許さない…っナマエがいなくなるなんて私には耐えられない…!」
「ごめんね、ミカサ。私も…多分エレンも、好奇心に対する執着が強いの。疑問を疑問のままで終わらせられないの」
「疑問って…そんなことのために命を捨てるの!?」
「ミカサ。私にとってそれは"そんなこと"じゃないわ」

ミカサの背中を数回撫でた後、彼女の両肩を掴んで引き離し、目線が合うように膝を折る。こんなにも泣きそうな顔をしているミカサを見るのはいつ以来だろうか。そんなにも私を大事に思ってくれているのは嬉しい。だけど、私にも譲れない意思がある。

「ミカサにはミカサの、私には私の道がそれぞれあるの。必ずしもそれが一緒だとは限らない。私は私の夢を叶えたいの」
「やだ…やめて、ナマエ…」
「大丈夫。私、結構運動は得意な方だし、簡単には死なないから…」
「聞きたくない!」

とうとうミカサは私を突き飛ばして家を飛び出してしまった。ミカサは調査兵団や、私の探究心を否定しているわけじゃない。あの子にとって重要なのは、それが命をかけるものだということ…。

「ごめんね、ミカサ」



***



シガンシナ地区で超大型巨人が出てから数年。私は、自分の言ったとおり調査兵団の一員となっていた。…ただその数年の中で、巨人に母が殺されたこと、それが原因でエレンだけでなくミカサやアルミンまで訓練兵になったことがあったのと、目まぐるしく私の周りの環境が変わっていた。

「ミカサ」
「…ナマエ?」

丁度休憩をもらえた私はこっそり訓練場へと足を運んでいた。教官に見つかったら何を言われるのか分からないから、誰にも見つからないようにこっそりと。
今の時間、訓練兵たちもお昼休憩をもらえてるはずだから、その時間を狙ってなんとかエレンたちに会おうと思ったんだけど…

「ナマエ、どうしてこんなところに?」
「ちょっと時間があったから皆の顔見ようと思って。…エレンたちは?」
「…訓練、しに行ってる」
「あれ、ミカサがエレンと一緒じゃないって珍しいね」
「私に秘密…にしてるつもりらしい」

一見無表情に見えるけど、不機嫌そうに少し眉間に皺寄せたミカサが可愛くて、つい笑ってしまった。どうやらエレンはミカサに自分が努力しているところを見られたくないらしい。

「ミカサ髪切ったんだね」
「ああ…エレンが立体起動のとき邪魔になるって。だから切った」
「我が弟ながら本当にデリカシーがないな…せっかく綺麗な黒髪だったのに」
「ナマエは長い方が良かった?」
「そりゃあ女としてミカサの髪は羨ましかったし…あ、でもショートも素敵だよ!」

そう慌てて言えば、ミカサはさっきまで拗ねていたのが嘘のように小さく笑った。母が死んだあの騒動から、エレンもミカサも本当の意味で笑わなくなってしまった。私はその場にいなかったけど、二人は母さんが巨人に食べられるところを実際に見てしまったから、そのときのショックが大きいのだろう。でも笑顔が見れたことにホッとして、私は身体の力を抜いた。

「訓練はどう? はかどってる?」
「…うん。私は今のところ成績トップらしい」
「ええっ本当に!? 前からミカサは出来る子だったけど…えっまさか数年ぶりの逸材ってミカサのこと!? すごいじゃない!」

エレンがミカサに内緒で訓練している理由がよく分かった。エレンもなんだかんだでミカサに追いつこうに必死になっているんだろう。…それにしてもすごい。思わず昔のノリで頭を撫でようとしちゃったけど、今となってはミカサの方が身長が高い。

「本当、立派になったねミカサ。この調子じゃ、兵士としてもすぐ追い抜かれちゃうだろうなぁ、私」
「…うん、そのつもり」
「えっ…」

直後、私はミカサに抱きしめられていた。ミカサは多分、小さいころと同じような感じで私に抱き付いているんだろうけど、あのときとは体格も違って、私がミカサに抱き締められているような形になる。

「ナマエより強くなければ意味がない。――私の心臓は、ナマエとエレンに捧げる」

あなたたちを必ず守ってみせる。
そう言い切ったミカサの心臓の音が、微かに聞こえてきた。とても強い音。鼓動は少し早めだった。何故、ミカサがここまで言うのか。答えはすぐに出た。"家族"を失いたくないのだと。

「あの頃のように駄々はこねない。ただ、私も一緒についていく。ナマエはナマエのやりたいことをして。私があなたを守り、その道を拓くから」
「…ほんと、逞しくなりすぎだよミカサ」

なんだかプロポーズされてるみたい。
そんなことをひっそり思いながら、私は昔のようにミカサの頭を撫でた。



-------
ミカサがヒーローですよね
[ back ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -