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自分がこうしているのはどうしてだろうとか、どうしてこうやって息をしているのだろうとか、見えているこの世界は本物なのだろうかとか、考えてみても答えなんて絶対帰ってこない疑問ばかりが頭に浮かんでは消えていた。歳を重ねれば重ねるほど、考えても無駄な疑問ばかりが浮かんでしまう。疑問が浮かべばまた疑問。疑問の中にまた疑問。そしてその全てに答えはない。不毛な自問自答の繰り返し。
「相変わらず面倒な頭してるな」
ユーリの言う通りだった。とにかく、面倒なのだ。自分でもそう思う。彼にそう言われてからは自覚もちゃんとしてきて、疑問が浮かんだらすぐに疑問を切るように心がけた。それだけで、毎日が明るく心も軽くなっていくように感じる。…ただ、物足りなさだけが残った。満たされているのに何かが足りない。楽しいはずなのに寂しくて、嬉しいはずなのに悲しい。こんな想いを漏らせば、きっとユーリはまた面倒だなって言うのだろう。この気持ちの答えなんて知らないくせに面倒だなんて言うんだ。
「ねえ、ユーリは知ってる? 今見てる世界が本物なのかどうなのか、世界はどうして成り立っているのか、どうして人は死ぬのか、どうしてこうやって考えるのか」
「…知るわけねぇだろ、そんなこと。オレだけじゃなくて、誰にも分かるはずがねえ」
「じゃあどうして疑問は出るの? 疑問があるから答えじゃないの? 疑問があるのに答えがないなんて矛盾してると思わない?」
「別に矛盾はしてないだろ。それに、答えはないわけじゃなくて、誰にも正解が分からないってだけじゃねえのか? 人間それぞれに解釈があって、それぞれに答えが違う。だから正解がない。不毛な疑問なんだってことだよ」
「じゃあ、ユーリの答えを聞かせて」
「何の?」
「         ?」
ユーリはいつもまっすぐだった。疑問だらけの自分が笑えてしまうくらいまっすぐだった。かっこつけて、答えをすぐに言おうとはしないけれど、ユーリは私の疑問にいつも"返事"をくれた。それは決して私の望んだ"答え"じゃなかったけど、彼は私に答えてくれる。世界中どこを探したってそんな人、多分ユーリしかいない。だから私も遠慮なく彼に"疑問"をぶつけられるんだ。きっと、今言った疑問の答えも彼は知っている。すぐに返事をくれるはずだ。…なのに、彼の瞳は揺れたままで何も返事が返ってこない。何よ、結局ユーリも"答え"を言えないんじゃない。それぞれの答えがあるって言ったくせに。嘘つき。
「…それは、お前がお前だからだよ」
「なによそれ、抽象的すぎて分からないわ」
「そうか? オレにとってはこれほど具体的な答えはねえんだけど」
「"それぞれの答え"ってやつ? それって結局、答えを出した本人しか納得しないってことじゃない。…ずるい」
やっと言ってくれた答えも、私には理解出来ないものだった。ちょっと期待してたのに、がっかりだな。この疑問なら簡単だって思ったのに。
「私も…私の答えを考えなきゃな」
疑問と向き合っているこの瞬間が、何よりも満たされる。謎解きをしているような気分になって身体が熱くなる。どうしようもない高揚感。…そうか。答えなんてなくたっていいんだ。私には、その疑問を解き明かす工程があればそれで。
「…また自問自答か? 本当にお前は飽きないな」
「そうかな。ユーリだって夢中になるものにはこうなると思うよ」
「…夢中になるもの、か」
「そういえば、ユーリが今夢中になってるものって何? やっぱり戦闘とかかな。ユーリは楽しそうに戦うもんね。あー…後は甘いものとか。ユーリのクレープはおいしいもの。お店開いてみたら繁盛すると思うよ。それから…」
喋り出したら止まらなくなってしまう。そういえば、ユーリについての疑問をここまで考えたことなかったなぁ。ユーリはいつも傍にいるから、答えなんていつでも分かると思ってたからかな。ふとユーリを見上げれば、彼はいつものように微笑んで私を見つめているだけ。"答え"を返してくれるようではなさそうだ。彼の黒い瞳の中に私が映っているのが見える。小さくてよく確認できなかったけど、相変わらず酷い顔だな私。何日か徹夜した後みたいだ。徹夜なんて最近してないんだけどなぁ。…あれ? してたっけ?…うーんどっちだか思い出せない。でもなんか眠くなってきたからやっぱり徹夜してたかなぁ…
「…眠いのか、ナマエ」
「うーん…そうみたい…最近徹夜ばっかりしてたのが悪かったかなぁ…」
「…そうか。じゃあ、遠慮なく寝ていいぞ」
「ここで? いいよ別に。ちゃんとベッドで寝るから」
「遠慮すんなって言っただろ。ほら、このまま寝ちまえ」
「えー? うー…じゃあ…お言葉に甘えて…」
優しく前髪を撫でてくれたユーリの手の温もりを最後に、私の意識はどんどん暗闇へと引きこまれていった。身体中が重くて仕方なかったのに、その闇に身を任せた途端にどんどん身体が軽くなっていく。…ああ、やっぱり睡眠って大事だなぁ。
「…オレが夢中になってたのは、お前だよ」
沈んでいく意識の中、ユーリの手が私の口元を拭っているのを感じた。…もしかして、涎とか出てしまっていたのだろうか。だとしたら恥ずかしいな。起きたときちゃんと他の皆に言わないでってユーリに口止めしないと。起きたら、ちゃんと…

「おやすみ、ナマエ」



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唐突に書きたくなる暗い話
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