悲劇が悲劇を呼んだ日 | ナノ
 



土曜の今日は学校が休みだった。
いつもなら壱哉とゲームしたりするけど壱哉は今日、部活だから遊べなかった。
する事も無いし今日1日は家の中でごろごろ休息を満喫してた。
平穏に過ぎる筈だったんだけどそうはいかないのが人生だよな。


「大樹ー、夕刊取ってきてちょうだい」

「はーい」

今日は一歩も外に出ないって決めてたけど母さんは晩ご飯の準備で忙しそうだし妹は友達のとこに泊まりに行ってて他に誰も居ない。
仕方ないから起き上がって渋々夕刊を取りに行った。

朝刊は毎朝警備の人が新聞屋から各部屋ごとに預かって配達してくれるけど夕刊はエントランスの郵便受けに入れられる。
このホテルのロビーような豪華な造りのエントランスをジャージにサンダルで歩くなんて不釣り合いだな。
でも自分んちでもあるんだし気にしない気にしない。
さっさと夕刊持って家に帰ろっと。


郵便受けから夕刊を取って帰ろうとした時、オートロックの扉越しに金髪が見えた。
あんな高い位置に頭がある金髪なんてこのマンションには1人しか居ない。
俺様御曹司の雅臣だ…!
幸い、あいつはこっちに気付いてない。
今の内に逃げろって思ったけど次に見た光景に持っていた夕刊を落としてしまった。

雅臣が、女の子にキスされてる。

しかも雅臣は立ってるだけなのに女の子の方から積極的に…うわっ、初めて生のキスシーン見たっ!
雅臣に抱き着いてる女の子の顔はよく見えないけど絶対美人だ。
足長いしスタイル良い。しかも露出高すぎるよその服っ!
いや俺は好きだよっ、そういうの!
そういえば昔から雅臣の周りには派手な女の子ばっかりだった気がする。
見てるだけの俺はもう顔が真っ赤になってそうなぐらい熱いのにあいつは動じてない。
モテる男はこれぐらいじゃ動じないのか。

「凄っ…」

あの2人、まだキスしてるよ。
長くない?
角度変えたりしてそりゃもう濃厚な…ドラマとかでもこんな濃厚なの見た事無いぐらい。
あの2人から目を離せないでいると漸く終わったみたいで女の子が帰っていった。
そして振り向いた雅臣と目が合ってしまった。


「あ」

あんな濃厚なキスシーンを見てしまった所為で判断力が鈍って逃げるのを忘れてしまった。

「おい、何見てんだ?」

「うぐっ!」

固まったままでいたら持ち上げるように顎を掴まれて上を向かされた。
顎掴んでる指が食い込んでるからっ。
痛いっ痛いっ!
か、壱哉ぁぁあ!

「何見てんだって聞いてんだろうが」

「うぅー…そ、そのっ、あんな可愛い子とき、キス出来て羨ましいなぁってぇぇぇっ」

睨むなっ睨むなぁあ!
雅臣に睨まれるのは春佳の笑顔並に怖いんだよぉっ!
どうかこの後笑わないで下さい。
笑ったら虐められるんだよぉっ。
経験上パターン読めてるんだよっ!

「……羨ましいか?」

はい、俺終わったー。
雅臣が最高に意地悪い顔で笑ってる。
もう震えが止まらない。
格闘技的な技を新しく覚えたから練習台になれとか!?
いやっ、それともマンションから出て大声で1人暴露大会しろとかか!?
因みにどっちも経験済みな虐めだったりしますけどぉっ。

「テメェはあんな女が好みか」

ああ、まだ笑ってるぅ。
離れた時にちらっと見た顔はケバいけど可愛かった。
好みじゃないけどあんな可愛い子にキスされたら羨ましいって思うだろ。
俺、お年頃なのにファーストキスもまだ何だぞっ。
学校の友達達ですら皆経験済みなのに。
あ、ヤベ。泣きそう。

「大樹」

「はっ、はいっ…」

静かに名前を呼ばれて咄嗟に返事をしたら何故か雅臣のどアップが目の前に広がってる。
何だこれ。
俺、雅臣とキスしてない?


「……良かったな。あの女と間接キス出来て」

暫く放心状態だったけど我に返った。
確かにあの子と間接キスかもしれないけどその前にお前と直接キスしてるんだけどっ!?
雅臣はニヤニヤしながらこっちを見てる。
新手な嫌がらせか!

「ま、雅臣のバカヤローっ!」

もう恥ずかしいだの怒りだので叫びながら家に走って戻った。
お前にとったら嫌がらせかもしれないけど俺にとってはファーストキスだったんだぞーっ!
こんなキスするぐらいならファーストキス未経験のままが良かったぁぁぁ!



「おかえり。遅かったわねぇ…大樹、夕刊は?」

家に帰ると母さんが出迎えてくれて夕刊の事を思い出した。
あそこに落としたままだ。
でも雅臣がまだ居るかもしれない。
俺っ、バカヤローとか言っちゃった…!


──ピーンポーン


「あら、どなたかしら。開けてちょうだい」

「……うん」

嫌な予感がしたけど母さんが居るし無視できない。
そーっと時間を掛けるように開けたら外から勢い良くドアを開いた。
ドアに体重を預けてたもんだから目の前の胸元に顔面を強打して痛い。

「あらぁっ!雅臣君じゃないっ!相変わらず格好良いわねぇっ!」

「今晩は美里さん。これ、大樹が忘れてったんでどうぞ」

「わざわざありがとうねぇ」

まさか雅臣直々に乗り込んでくるとは。
母さんの声が生き生きしてる。
嬉しそうだな。
俺は今すぐ泣きたい。
何か雅臣が俺の頭を抱き寄せてるっつか後頭部鷲掴んでるから逃げられない。
助けて誰かーっ!

「そういえば、さっき大樹が泊まりに来いって言ってたんですが本当に良いんですか?」

「!?」

言ってない!言ってないからっ!
首を横に振りたいけど触れないし顔を胸元に押し付けられてるから喋るに喋れない。
ヤバイ、これは非常にヤバイ。
このままじゃっ…


「当然じゃないっ!さぁ上がって上がって」

「それならお言葉に甘えてお邪魔します」

ほら母さん喜んじゃったよ。
もうほんとに母さんのイケメン好きなんとかならないかな。
この際イケメン好きでも良いから雅臣と春佳だけは止めてー!
やっと手が離れて顔を上げたら母さんに愛想良く笑ってた雅臣の顔が一気に意地悪くなった。


「さっき俺を馬鹿にした事を後悔させてやる」


耳元で低く囁くと雅臣は部屋の中へと入っていった。
ああ、俺、今日で終わるかもしんない。





2011/04/17
朝刊はセキュリティの都合上警備の人が部屋まで届けてくれます。
宅配便とかは警備の人がお供します。
厳重過ぎるセキュリティです。


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