「やっぱり実里さんの料理は美味しいですね」
「おう」
もう早く帰りたい。
一応母さんに連絡を入れて春佳と飯を食う事になった。
わざわざ連絡したのは母さんが「春佳君の邪魔しちゃ駄目だから帰ってきなさい」とか帰ってこいアピールをしてくれないかと期待したからなのに。
実際電話したら「あらーっ。母さんも行きたいわぁっ。春佳君と楽しんでらっしゃい!」だって。
もう母さん来たいなら来てよ!
代わりに俺が帰るからぁっ!
そんな事を思っても春佳がいる手前言えない。
しかも携帯をハンズフリーにして電話させられたから嘘も吐けず一緒に晩飯を食う事になった。
春佳はハンバーグに海老フライ、唐揚げまで入った幕の内弁当。
俺は白飯に母さんが作った煮物。
母さん、今日の煮物、ほんと美味しいよ。
そしてまだ続いてる正座の所為でとうとう足の感覚無くなってきた。
このまま壊死したりしないよな!?
「大樹」
「はっ、はい!」
箸を咥えたまま足の心配してたら不機嫌そうな声が聞こえて思わず姿勢を正す。
条件反射が憎らしい。
「俺との食事中に考え事ですか?」
「え、とその…」
足が壊死しないか心配してたとか言えない。
こいつなら絶対馬鹿にした後足を踏むぐらいの事はしてくる!
早く答えないと段々機嫌が悪くなるっ!
「……唐揚げ、良いな」
パニクってたらふと春佳の弁当が目に付いて思ったまま呟いてしまった。
だってあの唐揚げ、すっげぇ美味そうなんだよ!
ぶっちゃけ春佳が食ってる弁当のおかずは全部俺の好物だ。
羨ましくない訳がない。
春佳の事だから見せ付けるように食うんだろうなー…。
「そんな事を考えてたんですか?」
「はい…」
呆れた声が聞こえる。
食い意地張ってたって良いだろ!育ち盛りなんだから!
それなのに白飯に煮物だけって…煮物美味いけどさぁっ。
何か段々腹立ってきた。
食い物の恨みは怖いんだからな!
心の中でそんな罵倒をしてたら俺の白飯の上に唐揚げが置かれた。
更に海老フライにハンバーグも。
えっ?春佳さん?
「そんな泣きそうな顔するぐらい食べたいのならあげますよ」
「い、良いのか!?ありがとっ!」
まさかあの春佳がくれるなんて!
春佳の気が変わる前にさっさと食べてしまおう。
ちょっとおっきい唐揚げだったけど目一杯口を開けて一口で食べた。
美味い。美味すぎる。今日は良い日だっ!
幸せだー。
「んまーっ!でも春佳、お前は何を食うんだ?」
「実里さんの煮物だけで十分です。そんな脂っこいものは好みません」
じゃあ何でこれにしたんだよ。
やっぱ俺に見せ付ける為か!
でも結局俺が食ってるけど。
まぁいいや。
次は海老フライだ!
「うまー。幸せー」
「そうですか」
春佳は淡々と飯を食うよな。
事務的に噛んで飲み込む、みたいな。
顔に出ないだけかもしれないけど俺だけはしゃいでるみたいだ。
「ごちそー様でした!」
いやぁ、食った食った。
ハンバーグまであんな美味いなんて流石だ。
これを食べる気しないなんて春佳は変わってんな。
「大樹」
「んー、何?」
満腹感に気を抜いてたらいつの間にか直ぐ隣に春佳が居た。
しかも良い笑顔で。
ヤバイ、この顔はヤバイ。
すっげぇ意地悪な事考えてる顔だ…。
「俺のおかずを食べて何もない、なんて考えてなかったですよね?」
「えっ、だ、だって春佳がいらないからって…」
「それでも貰ったのならちゃんとお礼をしないと」
あああああ!俺の馬鹿っ!
何で気付かなかったんだっ!
春佳は俺にまた何かとんでもない事をさせる為に餌付けたんじゃないかっ!
少しずつ春佳の距離が縮まる。
顔っ、顔が近くなってきてるからっ!
「大樹…」
「は、春佳っ…ぎゃぁあ!」
「!?」
春佳から逃げようと後退った時だった。
忘れてた。俺の足は限界まで痺れてるんだった。
ちょっと動かしただけで足に激痛が走る。
痛っ、痛ぇぇえ!
悶えて後ろに倒れそうになって咄嗟に春佳の腕を掴んだけど結局一緒に倒れ込んだ。
春佳がずれた眼鏡を上げながら俺に覆い被さって見下ろしてくる。
「あ、足っ、足がぁっ」
「足、ですか…」
「いっ!は、春佳っ!」
足の痛みを訴えたら春佳は楽しそうに笑って足を掴んだ。
痛い痛い痛い!
涙が出てきてまた春佳が近付いてきた。
春佳、そんなに見るなよ〜。
「大樹っ!大丈夫かっ!」
「っ!?か、壱哉〜」
「オイ、春佳テメェ…」
「勘違いしないで下さい。大樹が俺を巻き込んで倒れただけです」
勢い良くバンッて音がしたと思ったら壱哉と雅臣が入ってきた。
2人とも必死な顔してる。
「な、何で此処に?」
「借りてた漫画返しに行ったら実里さんが大樹が春佳のとこに行ったって聞いたから…大丈夫か?」
「おう…で、雅臣は?」
「俺は1階でこいつに会って春佳のとこに行くっつったから管理人にスペア借りてきた」
雅臣が手に持ってるスペアキーを見せてくれたけど…春佳が居るんだから普通スペアいらなくないか?
つか今、3人に見下ろされて気まずい。
足痛くて泣いてるし起き上がるにもやっぱり足痛くて起きれないし。
ああ、情けなくてまた涙出てきた。
「春佳っ、大樹に何したんだよっ」
「何もしてませんよ。こいつが勝手に正座して足痺れて動けなくなっただけです」
勝手にって何だよっ!空気椅子との2択だったから正座したんだよっ!
「大樹帰るぞっ」
壱哉は俺が虐められたと思って怒ってる。
壱哉、有り難う。
でも腕を引っ張って無理矢理起こされたらまだ足がぁっ!
「ひっ、うっあ、まっ、待ってぇ、いっ、痛ぇよぉ…」
泣きながら情けなく訴えたらその場の空気が固まった。
分かってる。男が気持ち悪い声出すなって言いたいのぐらい分かってる。
でも涙止まんないし足痛いし。
「………壱哉、そいつ送ってこい」
「お、おう」
「大樹、このタッパーは後日返しに行きます」
「ひっ、うっうん」
まだ足が痛くてビクビクしてるから壱哉が足を刺激しないように肩に担いで運んでくれる事になった。
ほんとごめん。
落ちないように壱哉の背中の服を掴んでそのまま家まで運んでもらった。
「(こいつらさえ来なければあのまま大樹を…)」
「(何だあの顔は…あーヤベェ、勃った)」
「(大樹〜、しがみつくの可愛いけどこのままじゃ俺の息子が…!)」
2011/04/13
また久し振りになりました。
前回のその後です。
春佳の優しさは見返り欲しさです。
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