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ひとつの休日の過ごし方

昨日の晩のうちに干しておいた洗濯物をすっかり取り込むと、早々にやることをなくした。窓からさす陽気を浴びているうちに彼女はまどろみに寝転がった。

寝息が聞こえ始めたころ、それまで静かだった家の中に、階下へ降りる足音が響く。足音の主は居間の戸を騒々しく開け放したが、部屋の隅に体を曲げて眠っている彼女を見つけて、慌てて戸を押さえて閉めた。
いつもなら涯は仕事に出ているはずだったが、抱えていた案件が思いの外順風に運んだため、しばらくぶりの休日をもらったのだった。
…彼女には伝え忘れていたのだが。
生活時間がすれ違うようになってから、お互いのことを話したのはいつだったか。それを危惧して起きてから今まで自室に閉じこもって、日帰り旅行の雑誌なんかを眺めていたわけだ。悩んだあげく、本人に聞いた方が確実だといまさら気がついてここに至る。

家にずっといるとはいえ、彼女もまた疲れていたのだろう。今日でなくとも何処かへ出かける機会はたくさんあるだろうし。
折り目のついた雑誌はテーブルの上に放られた。



平和な午後だ。
髪を梳くと眉根をゆがめて小さく唸るのが面白くて、ついつい手が伸びてしまう。
気のすむまで撫でた後、終わりの合図にぽんぽんと軽く叩いてみたが、よほどいい夢でも見ていて目を覚ましたくないのか、寝息に乱れがない。

台所に立ってコーヒーメーカーを扱っているうちにふと居間をのぞくと、さっきより少し丸まっているようだったので、ブランケットをかけると元の体勢に戻った。可笑しい。
コーヒーを片手に、普段の習慣でテレビを点けると予想以上の音量に身がすくむ。大慌てでリモコンの電源ボタンを押し直したが、点けたのを消すだけのはずが、手元がおぼつかなくなるほどびっくりして、チャンネルを三度変えたあとにやっと切ることができた。
冷や冷やしながらブランケットの塊に目をやると、何事もなかったかのように寝息を立てている。
いつ起きるんだこいつは。
胸をなでおろしながらも呆れてため息をついた。

ふと気付くと、肩口から毛布がずれ落ちてしまっている。直そうと手を伸ばし、反対に持っていたカップから意識が離れる。

落としこそしなかったものの、中身はすっかり床にぶちまけられた惨状。
彼女が見たらなんて言うだろう。入居するときにあんなに熱心に選んでいたカーペットだから、きっと怒らなくともがっかりするに違いない。
想像に落ち込みながらも生来の落ち着きから手早くシミの応急処置をすることは出来た。あとはできるだけ早いうちに洗ってしまった方がいい。
涯はブランケットごと彼女を抱えると、揺らさないように気を遣いながらソファへ降ろした。相変わらずの寝相に感謝すら覚える。
代わりにカーペットを掴んだ涯は、それまで徹底的に、極力、音を立てないよう気を配っていたのが嘘のように、素早く風呂場へと動いた。



目の前がオレンジを帯びた世界になってる。
そうか、もう、夕方なんだ。夕方…

「やだ!」
しまった うっかり寝過ぎた。
私は飛び起きた。というか飛び起きようとしたのに何かに引っかかって体が起こせない。そもそも視界が狭くてよく現状が把握できない。すごくあたたかいのは分かるんだけど。
ややあってようやく理解できたのは涯によって頭と腰をがっちりとホールドされていること。そして驚くことには、強い力で抱きしめている癖に当の本人はぐっすりと眠っていることだった。
つい最近まで毎朝早くに家を出るほど忙しかったのに、この時間帯に家にいるってことは、一段落して帰ってきたんだろうか。だとしたら起こしてくれてもいいのに。家事もしてない嫁さんだとか思われてたら嫌だなあ。何気にソファに移動してるし。

それにしても。
規則的な呼吸を絶えず聞いていると、散々寝たはずの私にまで眠気が伝染してくる。
…せめてお疲れのようですから、彼が起きるまで私ももう一寝させていただきますか。

身を捩って涯の肩口に顔をうずめると、頭上のほうにやさしい口元を見た。


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