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どうにもならない者同士

「花京院、空条の女の子の好み教えて」
「えっ?」
「い い か ら! 教えてよ!」

放課後の教室で承太郎を待っていたぼくに、地団駄を踏んでせまる彼女はさながら子どものようだ。しかし承太郎のタイプをぼくに尋ねるあたり、彼女は承太郎のことが…すき、なのだろうか。
なんだかモヤモヤとしたわだかまりが心に鎮座する。

「……承太郎とそういう話はしない」

意図せずしてむすりとした言葉が出てきて自分でも驚いた。本当は、直接はしたことがないにしろ彼の周りできゃあきゃあと騒ぐ女の子にうんざりしているのは知っていたから、そういう子は好みでないことはちゃあんと知っている。けれどぼくの口から彼女に伝えたくはなかった。
そうすることを決めたのは自分なのに、目の前の愛しい女の子がしゅんとして明らかに残念そうにするのを見て、居た堪れない気持ちにすらなるぼくの心は矛盾しているだろうか。
彼女はうーん、と唸って少し考えるそぶりを見せた。

「このさい花京院が空条の好み決めちゃってもいいの。てきとーに何か言って」
「…え?」

本日二回目の聞き返し。わけがわからなくて彼女を見つめた。

「花京院が言ってた、ってことで広めちゃえば信憑性あるでしょう?」
「どういうことだい?」

私や花京院が今後もずうっと窓口になっちゃうのは避けたいんだよ、と彼女は続けて、遠巻きに廊下からぼくらを見守る女の子たちをこっそりと指した。
あまりに承太郎のことを根掘り葉掘り聞きに来る女子が多いからこの際はっきりと広めてやろう、ということなのだろうか。たしかにぼくも彼女も彼と親しいせいか、今までに何度と承太郎の情報をリークしてくれるよう頼まれたことがあったっけ。
なんとなく状況は理解できた。

「でも……承太郎にわるいんじゃあないかな」

本人のプライベートな情報を噂のように広めるのはいただけないように思えてぼくは言った。彼女はぼくの言葉に面喰ったように目をぱちぱちとさせている。

「そこは、考えてなかった…」

反省してうなだれる彼女は、いつもならもっと客観的にものごとを考え、友人を一番に思っているはずなのに、今回のことに限って肝心なそこに考えがいたらなかったようだ。
彼女は後ろで見守っていた女の子たちに振り向き、大仰にごめんなさいの礼をした。承太郎のファンの子たちは口々に残念がり、ぼくらのそばを後にした。

「どうしたんだい? 結論を急ぐなんて君らしくもない」

申し訳なさそうに俯いていた彼女は、ぼくのその言葉でがばりと勢いよく顔をあげたかと思うと、次の瞬間には何かに気づいたように頬を赤く染めた。なにごとかと思って身を少しかがめて彼女の顔をのぞきこむ。するといっそう頬と耳に紅が差したようで。

「わ、わたし、ほんとう どうしちゃったんだろう」

あわあわとうろたえながら、彼女は熱くなった頬を両手で覆う。

「……花京院が、他の女の子にちょっとでも時間を割かれるのがいやだったんだ」

顔中林檎みたいに真っ赤なのは、自責の念だけではないらしい。彼女から目が離せないぼくの顔も熱くなってきた。たぶんきっと同じような赤みを帯びている。

「どうしよう、花京院、どうしたらいい」
「ど、どうしようか」

こんなとき気の効いた言葉一つすらかけてあげられない自分がまどろっこしい、いや、もどかしい。
自覚したての恋愛初心者のぼくたちは、放課後の人気のなくなった教室でお互いに慌てながら、空条承太郎という助け船が現れるのを懇願していた。


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