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ディオ

目の前の道は二本に分かたれている。
一方は人の道。
もう一方は亡者の道。

分岐点から足を進めることができない。私は迷っているのだ。しかし選択の時間はない。背後には死神が首を狩ろうと迫っている。しっかりと目を閉じて深く息をつく。早鐘がわんわんとそこらじゅうから響いている気がする。ひどくうるさい。
腹を決めて、私は一歩足を――


「ようこそ夜の世界へ」

差しだされたディオの手を取る。

「でも君がこっちを選ぶだなんて正直思っていなかったよ」
「どうしてそう思う?」
「君はどちらかといえばジョジョ寄りの人間だと思っていたからね……でも、まあこれであの詭弁たらしい男と君は違うってことが晴れて証明されたというわけだ」

至極満足げに両手を広げるディオ。
私はかぶりを振った。彼の眼にはいま、どんな姿の女が映っているのだろう。その恐怖に屈して人を放棄した女か、自ら生と死の愉悦に溺れて進みだした女か、それとも。手を開いて目を落とすと、生気の抜けた真っ白な指。どうしようもなく泣きたくなった。もうどこにも帰れなくなってしまった。

「それは誤解だよ」
かぼそい声を絞り出す。吸血鬼の顔に疑問が浮かんでいる。きっと、今の私には苦悶に歪んだ醜い表情が張り付いているのだろう。

私は世界をこわしたくなかった。守りたかった。それでもこの人は世界をこわすのだろう。だけど、彼の言う世界と私の世界は言葉こそ同じでも意味するものが全く違う。

だからこの道を選んだ。

「私の世界にはもうディオしかいないから」


手を握り返した。ディオは黙ったまま私の首筋に顔を寄せると、もう同じ生物になってしまっているはずの私にもう一度強く歯を立てた。
その動きがどうしてか、すがりついて離さない小さな子供と被って仕方なかったので、答えを告げた時と同じように強く、強くしがみついた。

黎明は二度と来ない。


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