四部承太郎
船乗りだった父が亡くなった。
心臓発作だった。
海上に漂う船の上で発見されたとき、突然の死だったのにたいそう穏やかな顔をしていたのだという。死に際に一人きりで寂しくなかったのか。私たち親族がしきりに心配していたから、死に顔を見るまでは警察の人が気を遣ってくれたのだと思っていた。だけど霊安室で対面した父の顔はほんとうに穏やかで、置いていった私たちのことなんか心配してないみたいで。それでも、死んでもなお父が父らしくて私は心ばかり安堵した。
かたい喪服に袖を通して葬式を迎えた。
――着なれたくはないもんだ。
いつだったか友人の葬儀へ向かうとき父がしんみりとぼやいていたのを思い出した。
母の挨拶がとぎれとぎれになりながら続いている。
父が突然職をやめ、夢だったという漁船を買って大喧嘩したこと、そのせいで私たち家族がひどく苦労をしたこと。
よそ様に語るのもいやだわ、なんて言っていた母が懐かしむように恥を語っている。
「海が好きだったんだな」
隣の夫が話しかけてもいないのにめずらしくぽつり、ともらした。
父が言っていた。
――海を愛した男は海で命を落とすもんだ。
この男、空条承太郎もまたそうなのだろうか。
ぼんやりと考えが、浮かんでは消えた。
「夫は海で命を全うできて幸せだったと思います……その瞬間がどんなに苦難であったとしても。」
母が親戚一同に礼の言葉を述べた、その台詞が今でも私の中にまとわりついて離れない。
-40-